第14話 理不尽な想い
「奏をどこに隠した?」
低い声で崇は元彌に話しかける。
「奏が話して無いなら、尚更、教える事は出来ません」
元彌の返事に怒りを露わにする。
「そもそもお前は誰だ?何故、俺達の問題に口を出す?」
「誰だっていいじゃないですか」
「いいわけないだろ?いつからここに現れてるんだ?おかしいと思ったんだ。帰ってくるとここで寝てる事が多かったし、このクッションはあいつのお気に入りだ。お前、一体何なんだ?」
声を荒げる崇に負けるものかと睨み返す。
「もう、いい。とにかく、あいつを返せ」
「いやです」
「何だと?」
「あんたは知ってるのか?奏が1人寂しくこの部屋で泣いていた事を。あんたの嘘なんかとっくに知っていたのに、黙ってあんたの帰りを待っていたのを。一途に想っている奏を裏切り続けたのはあんただ」
「知ったような口を聞くな。俺は今でも奏だけを愛してるんだ。ちょっと遊んだくらいどうって事ないだろ」
「クソみたいな言い訳だな。ちょっとだろうが、一度だろうが裏切りは裏切りだ。この広い寂しい部屋に奏を一人きりさせて、何が愛してるだ。俺は奏が望まない限りあんたの元に帰すつもりはない。奏の優しさに、寂しさに付け込んで奏を余計に1人にさせたのはあんただ」
「まるで何でも知ってるような口ぶりだな」
「あんた達の15年には敵わないかも知れないが、俺は奏の優しさも寂しさも知ってる。どれだけあんたを恋しがってたのかも、何に傷付いて泣いてたのかも知ってる。知ってるからこそ、俺はあんたが許せない。俺は・・・俺は奏が好きだ。奏は俺が幸せにする」
「はっ、あいつもそれを望んでるのか?あいつはずっと1人だった。あいつの世界には俺しかいない。ひょっと出のお前なんかにあいつが惹かれるものか。俺たちは心から通じあってるんだ。15年の月日がその証拠だ」
「・・・その15年の内の数年はそうじゃないだろ?奏は気づいてた、気持ちにズレが出ていた事に。気付いてないのはあんただけだ。奏が俺に惹かれなくても構わない。あんたみたいなクズの側にいさせるくらいだったら、友達として奏の側にいる。少なくとも奏は俺を友達として信頼してくれてる」
「そんなはずはない。あいつは・・・あいつには俺だけだ。俺もあいつだけなんだ。お前になんか渡すもんか」
ギリギリと歯ぎしりしながら崇は元彌を睨む。
「遅いんだよ。なんでもっと早く気付かなかったんだ。あんなに泣かせて、あんなに寂しくさせて、奏がまだあんたを想ってたとしても、俺はあんたに渡さない」
ゴツンッと壁を叩く音と共に元彌の意識が遠のく。壁から薄れていく元彌に気付いたのか、崇が慌てて叫ぶ。
「頼む、あいつに会わせてくれ」
遠のく意識の中、その声が耳に届く。その声は少し震えていた。
「元彌!しっかりして!」
体を揺さぶられて目を覚ます。目の前には心配そうに覗き込む奏の姿があった。
その顔を見た瞬間、元彌の頬に涙が伝う。
あの人はクズだけど、奏の事を愛している。きっと奏もまだあの人の事が好きだ。あの人の事を奏に伝えた方がいいのだろうか。だが、伝えたらあの人の元に帰ってしまうかも知れない。帰したくない、俺の側にいて欲しい。俺も奏を愛してる・・・知ってて欲しいだけだなんて嘘だ。奏に俺の気持ちを受け入れて欲しい。俺を愛して欲しい・・・今のままじゃ、俺はあの人に敵わない・・。
やるせない気持ちがとめどなく溢れる。心配してくれる奏が愛おしい。元彌は手を伸ばし奏を抱きしめる。
「奏・・・奏・・・」
伝えなくてはいけない事実が胸を締め付ける。愛してると言いたいのに、言葉が出てこない。ただただ、奏を抱きしめるしかなかった。
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