第12話 君を想ってる                   

「やっぱり目は腫れたか・・・でも、頬の赤みは消えてる・・」

ベットの傍で、寝息を立てて寝ている奏を見つめる。あの後、一緒にベットに入ったものの緊張しっぱなしだったが、背を向けて啜り泣く奏に気づいて、奏の体に被っていた布団をグイグイ押し込み、後ろから抱きしめた。

最初はびっくりしていた奏だったが、小さくありがとうと呟いてしばらくは嗚咽を漏らしながら泣いていた。そのうち泣き疲れたのか、いつの間にか寝息を立てて寝てしまった。

その寝息を聞きながら、ふっと香る奏の匂いにまた顔を赤らめ、寝れないまま朝を迎えた。

ゆっくりと優しく奏の頭を撫で、元彌は寝室を出る。


「おはよう・・・」

目を擦りながら、片手にぬいぐるみを持ち、奏がリビングに現れる。その姿に元彌は身悶える。

(可愛すぎる・・・こんな可愛い30の男がこの世にいるのか・・・)

顔を赤らめて呆然と奏を見つめていると、奏は恥ずかしそうに何か付いてる?と尋ねながら口元を拭う。

「いや、あの、奏が可愛かっただけ」

「えっ・・・」

「あ、いや、ほら、ご飯出来てるから一緒に食べよう。そこ、洗面所だから使って」

明らかに戸惑っている奏に顔を洗って来るように促す。焦ってはいけないと自分に言い聞かせ、テーブルに朝食を並べる。

顔を洗い終えた奏は、テーブル前に腰を下ろすといただきますと小さく呟いてご飯を食べ始めた。

「元彌、今日、仕事は?」

「あ、今日は休みなんだ。奏も今日は休みだろ?」

「・・・もしかして、僕の為に休んだの?」

箸を止めて不安そうに元彌を見つめる。

「違うよ。元々有給が溜まってたし、俺が奏と一緒にいたかっただけ。だって、生身で会うのは初めてだろ?」

「・・・・ごめんね」

「違うって。俺が勝手にそうしたんだ。奏、昨日も言ったけど、俺は奏に気持ちを押し付けるつもりはないんだ。ただ、いつでも俺がいるってだけ覚えてて欲しい」

「うん・・・僕、これからどうしようかな」

「・・・どうしたい?」

元彌の返しに奏は俯く。元彌は奏にこっち見てと顔を上げさせる。

「そう急いで決めなくていい。ここには自由に来てもいいし、何ならここにしばらく住んでもいい。他に行くところはあるんだったら、そこでも構わない」

「・・・・他に行く所なんてない。僕・・・孤児なんだ。一度は養子縁組してもらえたけど、両親は15の時に離婚して、それからはずっと僕1人だ。施設にも戻れなかったし、幸い両親が生活費はくれたから1人で住んでた」

「そうか・・・あのさ、見てほしいのがあるんだ」

元彌はそう言うと、テーブルにある食器を少し寄せて、近くにあったノートパソコンを取り出し、テーブルに置いて開く。パチパチと文字を打って、パソコンの画面にある記事を表示させ、くるりと奏へと向ける。

「俺、魔法について調べてたんだ。その時にこの記事を見つけて、最近までは忘れたけど、奏がそのクマの事を話してくれた後に思い出したんだ。これ、奏の事だろ?」

奏は差し出されたパソコンの画面を見て、記事を読み始める。その表情がだんだん驚きの表情へと変わる。

「これ・・・僕だ。覚えてる・・・」

「やっぱり・・・クマの名前で気付いたんだ。奏、奏は1人じゃないよ。時々不思議に思ってたんだ。どうして奏は寂しそうに笑うのかって・・・ずっと1人だと思ってたんだろ?奏は1人じゃない。この記事を書いた人も未だに奏を想ってくれてる。あの人だけじゃない、俺も負けないくらい奏を想ってる」

「元彌・・・・」

「ほら、もう泣くなよ。たださえ、目が腫れぼったいのに、その内、溶けちゃうぞ」

ポタポタと涙を溢す奏にティッシュを箱ごと渡す。それを受け取った奏は、普通箱ごと渡す?と苦笑いしながらティッシュを一枚取り出し涙を拭いた。

元彌もごめんと言いながら笑う。その時、2人の携帯から同時に通知音が鳴る。

元彌の携帯にはYUUから、奏の携帯には確認しなくてもわかる相手からだ。

それぞれ携帯を見つめる。

「奏・・・帰る?」

「どうしようかな・・・仕事に必要なのはバックに入ってるけど、服がない」

「そ、それじゃあ、今から服買いに行こう。それで、夕方に俺の友達に会ってくれないか?」

「友達?いいの?」

「もちろんだ。服も俺が選んでやる。帰るにしても帰らないにしても、いつでもここに来て欲しいから、買った服はここに置いていけばいい」

「・・・わかった」

少し戸惑いながらも奏は笑って答える。その表情に元彌は安堵する。

焦らず、ゆっくり、押し付けないように・・・奏とデートだ!!

慎重に思う気持ちより、デートへの浮かれが勝る元彌だった。

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