第11話 好きだ
痛みを感じて元彌は飛び起きる。
すぐさま携帯を掴み、奏へ電話する。携帯を肩と顔に挟みながら、素早く着替え始めた。
どのくらいのズレがあるのかわからなかった。何度もなる呼び出し音が元彌を不安にさせる。
リビングにある財布をポケットにしまい、玄関に向かうと電話口から声が聞こえた。
「元彌・・・・」
「奏!今、どこだ?すぐ行く」
「元彌の住んでる駅の近く。駅まで迎えに来てくれる?」
「あぁ、待ってろ」
電話を切ると勢いよく玄関のドアを開け、走り出す。やっぱりズレがあった。あれから奏は以前話した元彌の住んでる所を思い出してここまで来たんだ。
どんな思いで1人ここまで来たのか、奏の事を思うと胸が苦しくなる。そんなに離れた場所ではなかったが、あんな思いをした後に1人歩く奏の姿を思い浮かべる。
心の中で奏の名前を何度も叫ぶ。
あぁ、俺、奏が好きだ。俺が奏を幸せにしたい・・・そんな想いが溢れ出す。
息を切らしながら駅の方に着くと、出口にある花壇の側でポツンと座っている奏を見つける。小さくうずくまり、その手にはあのクマのぬいぐるみが抱きしめられていた。
「奏・・・」
元彌の声に奏が振り返る。奏は少しびっくりした様な顔をして元彌を見つめる。
「俺が元彌だ。奏、1人で待たせてごめん」
元彌はゆっくりと奏の元へ歩み寄る。一瞬ビクッと体を強張らせた奏だったが、近づくにつれてはっきりとわかる元彌の顔に、安堵の笑みを浮かべる。
「元彌って本当はおっきいんだね」
そう言ってふふッと笑う。その笑顔に元彌も安堵して笑みを溢す。そして、奏を力強く抱きしめる。
「1人にしてごめん」
「ううん。約束守って迎えに来てくれたじゃないか」
「奏・・・」
「うん?」
「今言うのは違うと思うけど、俺、奏が好きだ」
「えっ?」
突然の元彌の告白に奏は固まる。元彌は逃すまいと奏を抱きしめ続ける。
「今は返事はいらない。ただ、聞いて欲しかっただけだ。もちろん、奏が俺に気持ちがない事もわかってる。だから、無理にどうこうしたいとか思ってない。今はただ、俺が奏を想ってる事を知ってて欲しい。奏は1人じゃない。俺が奏を想ってる。だから、1人じゃない」
「うん・・・ありがとう」
奏は元彌に抱かれながら啜り泣く。元彌は黙ったまま、奏を抱きしめ続けた。
「こ、ここが俺の家」
緊張な面持ちで奏を家に迎え入れる。勢いとは言え、半ば強引に連れてきてしまった。
「意外と綺麗にしてるんだね」
部屋を見回しながら奏はリビングを歩き回る。元彌は帰宅途中で買った飲み物をテーブルに置きながら、そうかな?と照れ笑いする。
「ねぇ・・・元彌ってゲームだけじゃなくて、漫画も好きなんだね。それも、これは・・・」
本棚にある漫画本を1冊取り出す奏を、慌てて元彌は止める。その素早さに奏はびっくりするが、じーっと元彌を見つめたあと、ポツリと呟く。
「だから、僕に抵抗がなかったんだね」
終わった・・・元彌はガックリと項垂れる。本棚に並べられた漫画は、ほとんどBL本だ。腐男子と名乗るくらいだから、仕方ない。元彌の項垂れぶりに奏はふふッと笑い、気にしてないと言葉を返す。その言葉に元彌は安堵のため息を吐いた。
「お風呂入る?それとも寝る?」
「そうだね・・・もう、寝ようかな」
「じゃあ、俺のベット使って。俺はここに布団敷いて寝るから」
「えっ?」
「えっ?」
奏の返しに、元彌もオウム返に呟く。しばらく沈黙したあと、元彌は慌てて口を開く。
「あ、いや、ほら、俺の事は気にしないで」
「でも・・・」
申し訳なさそうに戸惑う奏に大丈夫と何度も伝える。
「それより、奏。ここに座って」
元彌は奏の手を引き、ソファーに座らせると台所に向かう。冷蔵庫から氷をガサっと取り出し、ボウルに入れて水を注ぐ。そして、その中にハンカチを浸す。しばらくしてからそれを取り出し、ギュッと絞りリビングに戻ると、奏の前に腰を下ろし、そっと奏の頬にハンカチを当てる。
「奏を見つけた時から気になってた。あいつに打たれたんだろ?」
「・・・そんな前からいたんだ」
「ごめん・・・奏に早く会いたくて、早めに寝たんだ」
「そっか・・・変なところ見られちゃったね」
「奏・・・ごめん。もっと早く声をかけてれば良かった・・・」
「ううん。僕は嬉しかったよ。それに・・・元彌、泣いてたでしょ?」
「えっ?」
「壁の目の所が濡れてた。ありがとう、僕の為に泣いてくれて」
「奏・・・」
「ねぇ、今日は一緒に寝てくれない?」
「えっ!!」
「もーちゃんを連れてきたけど、きっと今日はこの子を抱いても寝れない。だから、今日は僕の隣で寝てくれない?ただ、隣で寝るだけ・・・」
奏の申し出に顔を真っ赤にしながらしどろもどろになる。そんな元彌に寝るだけだっと奏は念を押し、笑った。
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