第10話 相手の相手
「昨日は危なかった・・・」
自覚した途端、奏の事ばかり考えてしまい、デートだから来ないように言われていたのに、つい意識が奏の方へ持って行かれそうになり、ひたすらパソコンでネット動画を見漁って寝落ちした。
そのおかげか、奏の部屋へ飛ぶ事はなかった。もし、飛んでて彼氏とイチャイチャしている奏の姿を見たりしたら、立ち直れなかったはず。
そんな事を考えながら、仕事へと向かう。今日は、約束していたから早めに寝よう。あぁ・・夜が待ち遠しい。
バシンッ
部屋に響く音にビクッとなる。寝不足が手伝ってか、元彌は21時には爆睡し奏の元へ来ていた。
どう考えても平手打ちした様な音に、元彌は目をキョロキョロさせる。だが、目の前にはラックが引かれていて、奏の姿が見えない。服の隙間から2人の人影は見えるが、どう見ても奏の彼氏ではなさそうだった。
「いきなり人の家に上がり込んで、人を叩くなんておかしいんじゃ無いんですか?」
冷たく言い放つ奏の低い声が聞こえる。その声に反応するかの様に奏とは違う声が興奮した様子で声を荒げる。
「君が泥棒ネコだからぶったんだ」
「泥棒ネコ?何か勘違いしてませんか?泥棒ネコは貴方の方です。僕達は15年も想いあってここで暮らしているんです。つまり、遊びは貴方の方です」
「そんなはずない!彼は俺の事を愛してるって言った。ここ最近はずっと一緒に過ごしてたし、今度一緒に暮らす約束もしてる!なのに、昨日は君が横取りした!彼を取らないで!」
ヒートする声に、奏はため息を吐く。そして、ソファーに座りながら、また淡々と冷たい声で話始める。
「悪いのは彼だ。だから、貴方を責めるつもりはないです。ただ、彼はこれが初めてじゃないんです。もし、僕が彼と別れても彼は浮気をやめませんよ」
「そんな・・・」
奏の言葉に声を詰まらせ啜り泣く。
「とにかく帰ってください。僕も彼と・・・」
奏の言葉を遮る様に玄関の開く音がする。その音にまた奏はため息をつく。
「ただいま・・・お前・・・」
「崇さんっ・・・俺・・・」
服の隙間からしか見れない元彌でも彼らの表情が安易に想像できる。修羅場もいいとこだ・・・。
「崇・・・ちょうどいい。座って話しよう」
「奏・・・違うんだっ」
「崇さん、違うって何?」
「お前は黙っていろっ」
声を荒げる崇に嗚咽を漏らし泣く声がする。
「いいから2人とも座ってよ」
諦めにも似た悲しそうな奏の声が聞こえた。その声に崇達はソファーに座り込む。
「崇・・・君はどうしたいの?」
「俺が好きなのは奏だけだっ」
「そんな・・・」
か細い声と嗚咽が交互に響く。奏は大きくため息をつきながら言葉を続けた。
「崇・・・君はひどい人だ。僕が知らないと思ってるの?浮気を始めたのはこれが初めてじゃ無いよね?」
「・・・・」
「そうだね・・・初めは、4年前。会社が軌道に乗り始めた時だ。その時は多分、ワンナイトでもしてたのかな。時折、石鹸の香りとか、香水の香りとかさせて帰ってきた。それでも僕は我慢した。嫌だったけど、それが崇の疲れを癒してくれるならワンナイトくらい許そうと思った。でもね、彼とは長いよね?」
「・・・あぁ」
「彼だけなの?他にもいるんじゃない?」
「崇さん、そうなの?」
「彼はね、3年前くらいからここにはあまり帰ってきてない。ここ最近は特にひどい」
「俺とは2年くらいです・・・でも、会うのは週末くらいで、平日はたまにしか会ってません」
その言葉に奏はまたため息をついた。
「奏・・・信じてくれ。彼らとは遊びだ。心から大事に思ってるのは奏だけだ」
「黙ってて!」
崇の声に奏は声を荒げる。
「貴方は名前はなんて言うの?」
「・・・優馬です」
「そっか。悪いけど、貴方も本命じゃないね。昨日、この人、僕と寝ながら違う名前呼んでた」
「そんな・・・」
「崇、僕も悪い所があったかも知れない。だけど、これは酷い裏切りだ。ずっとずっと我慢してたけど、僕はもう疲れたよ。僕達の15年は何だったの?」
奏の鳴き声が聞こえ始め、元彌はたまらくなり声を上げる。
「奏!ここから出ろっ!俺が迎えに行く!」
その声に奏は慌ててラックの後ろを見る。痛ましい顔で泣いてる奏を見て元彌は叫ぶ。
「俺を信じろっ!必ず迎えに行くっ!だから、俺を殴って起こせ!」
その言葉に奏は頷き、元彌を、壁を殴った。
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