第9話 初めてのやり取り

「はっっ!」

ほんのりと窓から灯りが差し込み始めた中、元彌は目を覚ます。そして、慌ててベットから飛び起き、鏡がある場所へと移動する。

「良かった。赤くなってない」

鏡を見ながら自分の頬を何度も摩る。そして、恐ろしい顔で手を振りかざす奏の顔が思い出され、身震いをした。

「あんな乱暴な一面もあるんだな」

そう呟きながら、まだ時間があるからと寝室へと向かい、ベットに腰を下ろす。ふっと枕元にある携帯が光るのが見えた。

携帯を取り画面を開くと、名前の無い番号からメッセージが入っているのに気付く。その表示をタップすると奏だとわかる内容だった。

(体は無事?起きたら何時でもいいので、返信して)

その内容に元彌の口元が緩む。そして、すぐに返信を打つ。

(体は大丈夫。でも、奏のあの恐ろしい顔を思い出すと身震いが止まらない)

冗談めいた返信を返し、携帯を置くとすぐに返信が届いた。

(酷すぎる。心配で寝れなかったのに)

文面からも怒りがわかる。でも、起きててくれた事が嬉しくて、元彌もすぐに返事を返す。

(ごめん、心配してくれてありがとう。今日はデートでしょ?早く寝ないとデート中眠くなるよ)

そう打ちながら、また元彌の胸はチクチクと痛み出す。

(ありがとう。もう、寝るね)

最後に届いた返事を見つめながら、まだ治らない痛みに眉を顰めながらも、いつの間にか元彌は二度寝を始めた。


「それはもう恋ね」

久しぶりに集まったオフ会でRINがボソッと呟く。それを皮切りにNANAとYUU、そして今日は一緒に参加してるYUUの恋人が口を開く。

「恋ですな」

「もっくん、もしかして初恋?」

「ふふっ、いいですね、初恋」

三人の盛り上がる姿を見ながら元彌は口をあんぐり開ける。そんな元彌にため息まじりにRINが尋ねる。

「気付いてなかったの?」

「いや・・・恋って・・・」

RINの問いに我に返る元彌は口籠る。すかさずNANAが口を出す。

「笑った顔が可愛いと思った時点でアウトです」

「そうそう。そんで、本当はデートに行って欲しく無いから胸が痛む」

頷きながらYUUが口を開くと、隣にいた彼女が口を開く。

「いつも彼の事が思い浮かぶんですよね?心配だし、気になるし、会いたい。彼の幸せも願いたいけど、それは自分の役目であって欲しい。そう思ってませんか?」

その言葉に元彌は俯く。確かにそうだ。朝起きるとすぐに奏の事を思い浮かべる。昨日はぐっすり眠れただろうか、俺との時間を楽しんでくれただろうか、彼とは・・・会えただろうか・・・。

思えば、そんな考えから一日を始める日が続いていた。そして、彼とうまくいってほしいと思う反面、それを想像するといつも胸がチクチク痛んだ。

「彼には伝えないの?」

RINにそう言われ、元彌は首を振る。

「俺、奏には幸せになって欲しい。みんなに言われて、今更自覚したけど、でも奏の幸せは俺じゃない。俺の気持ちは迷惑だ」

ボソボソと話す元彌の言葉にみんなは黙り込むが、YUUの彼女だけが口を開く。

「それは違うと思います」

「えっ?」

「彼はこれまでも寂しい思いをしてきた。初恋に出会って孤独から抜け出れたけど、15年の月日は恋しいと思う気持ちと一緒に、また1人になると言う恐怖に似た執着もあると思うんです。日常となった気持ちを簡単に捨てれないのはわかります。でも、彼は未だに孤独から抜けれてない気がするんです。まるで、この世には自分と彼しか存在していないかの様に・・・元彌さん、彼に決して1人ではないと言う事を伝えて下さい。それと、元彌さんも彼を想っていると言う事も。どんな結果になったとしても元彌さんの想いは迷惑ではなく、彼の自信になり、力になるはずです」

静かに話す彼女の言葉が元彌の胸に刺さる。時折、悲しそうな表情を見せるのは、彼氏のせいだけではなかったのかも知れない。

壁として話をするだけでなくて、もっと奏の力になってあげたい。

「もっくん、私達、俄然もっくんを応援する」

「リアルBL、見せて下さい」

「振られたらまた集まって残念会してやるから、肝を据えて行ってこい」

「無理強いせず、根気良くですよ?15年に打ち勝つにはそれしか無いです」

笑顔で励ます4人の姿が心強い。そうだ、俺も1人じゃない・・・。

打倒!クズ男。打倒!15年。

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