第5話 友達?

「えーっと、奏さん、これは何でしょうか?」

目の周りには黒い縁、鼻の下にはもしゃもしゃの感触、恐らくメガネとひげだ。

「しばらく来なかった罰だよ。それにコレの方が愛嬌があるじゃないか」

大きなクッションに背もたれしながら、携帯を元彌に向けて数枚写真を撮る。

「や、やめてください。恥ずかしいです」

シャッター音に顔が熱くなるのを感じるが、ふっと壁も赤くなるのかと疑問が浮かび、必死に赤くなるのを抑えようとする。

「何で来なかったの?」

「それは・・・」

奏の急な質問に言葉を詰まらせる。正直に言うと、RINのあの言葉でここに来るのを躊躇っていた。何となく奏に合わせる顔がなかった。

「僕がお酒飲んで絡んだから嫌いになった?」

寂しそうに呟く奏に慌てて返事を返す。

「ち、違います。まだコントロールが出来てないんです」

「・・・・本当?」

「はい。それで、友達の所とか練習でお邪魔させてもらったり、まぁ、また変な所に行ったりもしましたが・・・」

怪しむ顔を見せる奏に、本当ですと必死に伝える。奏は小さなため息をつきながらわかったと返事をする。

「謝りたかったんだ。変な事ばかり言っちゃったから。あの日は喧嘩した後で辛かったから、半分八つ当たりしちゃった。ごめん」

申し訳なさそうな顔で元彌に謝る。

「そんな日もあります。俺は壁です。いつでも愚痴ってください」

その言葉に奏は声を出して笑う。奏の笑顔を見て元彌も笑顔になる。最後に見た顔が辛そうな泣き顔だっただけに、少しでも元気になった顔を見れたのが嬉しかった。

「元彌は友達沢山いるの?」

その言葉にドキッと鼓動が跳ねる。少しの間悩んだが、元彌はありのままを話そうと決めて口を開く。

「あまりいません。俺、オタクなんです。人見知りも手伝ってか、友達もネットで知り合ったオタク仲間しかいません。そんなんだから、人付き合いも上手く無いので会社でも特に親しい人もいません。あっ、でも、ネット仲間でも凄く親しくなって会ったり、直接連絡取り合ったりしてる人達はいます」

「そっか。知り合いは沢山いた方がいいけど、心から信頼出来る人が1人でもいればそれでいいんだよ。量より質だ」

「そうですね・・・あっ、それで、その仲間に壁の話したら爆笑されて、面白そうだから練習兼ねて来てみろって言われて、行ってたんです。ハズレが多くて三人回るのに1週間もかかりました」

ハズレの場所であった事を話すと、また奏は声を出して笑う。俺の話で笑ってくれるならこのハズレも悪いもんじゃ無いなと元彌は思いながら、奏の笑顔を見つめる。

「ねぇ、僕ももう友達だよね?リア友も良いけど、ちょこちょこ僕の所にも来てよ。こうやって笑いながら話すのは久しぶりだから、楽しい」

「・・・・壁と友達でいいんですか?」

「今は壁だけど実体はあるんだし、互いの名前もわかる。僕の醜態も晒しちゃったし、君の性格も何となくわかった。それじゃ、ダメ?それとも嫌?」

「全然嫌じゃ無いです!じゃあ、これからちょこちょこお邪魔します。あっ、この日は来ちゃダメって日があれば、言ってくださいね」

「仕事で遅くなる日はあるけど、ダメって日はないかな。知っての通り、ほぼここには僕1人で住んでる様なものだからね」

明るく話す奏の表情には、ほんの少し寂しさを感じた。

「もし誰か来てる時は、このラックで隠して置くから、その時は静かに隠れてくれるとありがたいかな」

「わかりました」

「・・・ねぇ、元彌は同じ歳なんだよね?」

「はい・・・」

「じゃあ、敬語やめてくれる?さん付けもいらない。もう友達なんだから、気楽に話してよ」

「わかりました・・・あっ、わかった」

使い慣れないタメ語を使う辿々しい物言いに、奏はまた笑った。その日も遅くまでいろんな話をして、奏が眠りにつくと、元彌も静かに目を閉じた。

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