第4話 できること

翌朝、元彌は起きるなり机に向かい、パソコンをつける。

ー童貞 魔法 解き方ー

検索ワードに文字を打ち込むと、何かヒントはないかと並んだ文字に目を走らせる。でも、出てくる解錠方法は「脱童貞」だった。

恋人ができた人、風俗で捨てた人、ゲイでもリバして捨てた人、結局のところ、やっぱりソレを使わないと魔法は消えない。

諦めにも似たため息が出る。

ピコンッ

パソコンを閉じかけた時、メールの着信音が鳴る。開くと腐女子仲間のRINだった。

(最近、メールの返信もないし、チャットにも来てないけど体調悪いの?)

その文字に、元彌自身も最近、推し活してない事に気づく。魔法のせいでそれどころじゃなかったからだ。

RINに今からチャットしようと返信を返し、某サイトのチャットアプリを開く。本当はそんな気分ではないが、奏の事を思うと気が滅入ってしまい、気分を変えたかった。

「ちょっとー!無事なの?心配したじゃない!?」

「えっ?もっくん?久しぶり!」

部屋を開けた途端、RINとNANAが入室してくる。

「大丈夫だ。ちょっと色々あって・・・」

「むっ、もっくんじゃないか」

少し遅れて唯一の腐男子仲間のYUUが入室してきた。他にも数人いるが、この部屋には限られた人しか入室できない様になっている。

この三人は俺が心許せる仲間で、リアでも何度か会った事がある。元彌は背も185と高く、何故か付きやすい筋肉が体を更にデカく見せる。プラス綺麗な一重だ。そんな圧迫感のあるオタクなのに、この三人は普通に俺を受け入れてくれる大事な仲間だ。元彌は一瞬迷いはしたが、自分の身に何が起こっているのか、話そうと決め、先に断りを入れる。

「あのさ、これからちょっと下品に聞こえるかも知れない話してもいい?特にNANAちゃん、大丈夫かな?」

「何よ?」

「下ネタか?」

「生粋のBL好きに遠慮はいりません」

NANAの返事に元彌は安堵のため息を吐く。それと言うのも、RINとYUUは28歳だが、NANAは現役女子高校生で18歳だ。実際、会うのも少し躊躇われていたが、この仲間でやましい事はない。それも長年の付き合いがあるからだ。だが、一応未成年への礼儀は通す。

「あのさ、俺、童貞なんだよね・・・」

「何の暴露?」

「もっくん・・・」

「あはは!私、そうじゃ無いかと思ってました」

想定内の反応に元彌は見られている訳でも無いのに、顔を赤らめる。一旦、自分を落ち着かせ、30歳の誕生日の翌日から壁になったと話すと、少し遅れて画面が草マークで溢れた。

「憧れの壁になったの?」

「もっくん、外さない君の姿勢に感心するよ」

「もっくん、マジ、ヤバイ。変態じゃん」

「俺は真剣に悩んでいるんだ。今までこの魔法のせいで酷い目に遭ったんだ」

元彌はそういながら、お化け扱いされた事、リアルAVを見て鼻血を出した事、挙句の果てには変態に会った事などを全て話した。1人で悩むより、こうやって笑ってくれる方が少しは気が楽になる気がしたからだ。

「ウケる」

「腹が痛い・・・」

「変態はやばいな」

画面が次々に文字で埋まる。一通り好きにしゃべってもらった後、奏の名前は伏せて、気になる人がいると、その人の力になりたいと話した。

「俺、ずっと漫画の様に一度決めた相手とはずっと一緒になるんだと思ってた。だって、2人で色々乗り越えて15年も一緒に暮らしてきただろ?」

「んー所詮、漫画ですからね。あくまでもそれは理想に過ぎません」

「そうね、いくら男同士でも偏見を除けば、男女の恋愛となんら変わらない。うまくもいけばダメにもなる。人間だから、気持ちが離れる事もあるわよ」

「俺にはわからん。他に気持ちが移ったのなら、きちんと別れるべきだ」

「YUUのとこも長いもんな」

結婚を控えているYUUは中学から付き合いしている彼女がいる。身近にそういった人がいるから、尚更、奏の想いが辛かった。

「ねぇ・・・あぁ・・でも・・・」

RINが勿体ぶる様に文字を並べる。その文字に元彌が聞き返す。

「どうした?」

「んー・・・あのね、話聞きながら、都市伝説好きな友達いたなって思い出して聞いてみたの」

「解決策ありましたか!?」

誰より先にNANAが食いつく。

「いや・・・あったにはあったんだけど・・・」

「勿体ぶるという事は良くない話か?」

冷静に聞き返すYUUに続いて、元彌も不安になりながら聴きたいと返事をする。

「あのね、まぁ、もっくんが調べたように使う方法が一番なんだけど、男性同士の場合、例がないから不確かなんだけど、現れてから本当に好きな人と結ばれれば消えるらしい」

その文字に元彌は愕然とする。本来ならすぐに消えたかも知れない魔法、そして、これからも消えるのが難しいかも知れない事実が、元彌をさらに苦しめた。

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