第2話 コントロール

「うっ、うっ・・・」

その日、目が覚めてから元彌は嘆いていた。ここ一週間の壁は辛かった。相変わらず恐怖の叫び声を叫ばられたり、塩を投げつけられたり、変な酔っ払いカップルには見せつけるように目の前で、リアルAVを見せられたり、挙句の果てには昨夜、変態おっさんに自慰行為を見せられ、顔にかけられるという屈辱を受けた。

「自分でコントロールできないのかよ・・・」

鼻を啜りながら、このふざけた魔法を恨む。おかげで寝不足と精神的に追いやられて、会社でもミスを連発していた。

今日は土曜日・・・本当はゆっくり二度寝でもしたいが、昨夜の出来事が寝る事に抵抗を示していた。

実際には体はここにあるので、付いたまま起きたのではないが、感触は残ったままだ。また、あの変態の所に行ったら、今度は間違いなく変な事をされる・・・どうにか対策を考えなくては・・・そう思いながら、机のパソコンで何かヒントはないのかと検索し始める。

(童貞 魔法使い 都市伝説)

そこには今までの体験談がずらっと並んでいた。こんなに童貞がいるのかよと元彌は呟く。

マウスのカーソルをクルクル回しながら、いろんな体験談を見ていくが、どの記事にも(選べない、クソ魔法)と書いてあった。

みんな苦労しているんだなと呟きながら読んでいると、ふと一つの記事が目に入る。

幽体離脱・・・これも、魔法に入るのか?と思いながら、記事を読んでいく。


・・・最初は場所も選べず、いろんな場所や知らない人の自宅に体が飛んでいった。もちろん他の人からは姿は見えないので、最初はそんなに苦ではなかったが、見たくない物まで見るようになった。そこである少年に出会う。

その子は、とても内気な子で両親が共働きのせいで、いつも家に1人でいた。

きっかけは、たまたまぬいぐるみに体が当たり机から落ちてしまった事だった。最初はびっくりしていたが、だんだん話しかけてくれるようになり、動くぬいぐるみとして話したりはできなかったが、遊び相手になった。

今まで虐待を受ける子供や、暴力現場に鉢合わせる事があったが、起きたと同時に警察に通報してそれっきりだった。なぜなら、もう会う事がないとわかっていたからだ。

だが、何故かその少年の事が凄く気に掛かった。

その内、寝る前にその少年を思い出した日には、決まって少年の部屋へと飛んでいた。

話を聞いて行くうちに、その少年の色々な事情が見えてきた。彼は養子として引き取られたが、その後夫婦仲が悪くなり、それぞれが家にあまり戻ってこなくなっていた。それでも育ててくれているから感謝していると彼は言っていた。

しばらくして、私はある女性と出会い、魔法は使えなくなったが未だに彼の事が忘れられないでいる。名前は出せないが、そのぬいぐるみを「モーちゃん」と呼んでいた。熊なのに何故「モーちゃん」なのか不思議だったので、今でも覚えている。会えなくなったが、私は今でも彼が幸せでいる事を願っている・・・。


なんか、悲しい話だな・・・俺も、いつかそういった場面に出くわすのだろうか。この人は、体が動く分そこがどこなのかわかっていたから通報ができた。俺は、多分、見てるだけになるだろう・・・どうにか、コントロールできるようになって、この人みたいに少しは助けになれたらいいな・・・そう思いながら、パソコンの画面を落とした。

寝る前に思い浮かべる・・・その文字が元彌の頭に残り、今夜試してみるかと意気込み、朝食の準備をするためにキッチンへ向かった。

パンをトースターの入れながら、誰の家にするか考えていた。上司とかは絶対嫌だし、腐女子仲間の所は失礼だし・・・頭の中に候補になる人物を思い描くが、今更ながら友人がほとんどいない事を痛感させられる。

ため息をこぼしながら、焼きたてのパンをお皿に乗せ、冷蔵庫からバターとジャムをとり、リビングに向かう。

それらをテーブルに置き、腰を下ろすとパンにバターを塗り、その上からピーナツクリームを塗る。

それにかぶりついた瞬間、ある人物を思い出す。

「本庄さん・・・」

先日、元彌に臆する事なく笑いながら話しかけてくれたあの青年・・・。あの人ならまた会ってみたい・・・そう思いながら、口をもぐもぐと動かす。

今夜試してみようと決めると、何故か元彌はルンルンと心躍らせた。

寝るのが楽しみだなんていつぶりだろか・・・

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