家族の絆
野良たちが
今日は、妻の
家族があると、よほど家が近かったり母親という共通点がないと会うのは難しい。
一時期大流行したSNSに、ほんの数回記事を投稿しただけでアカウントが放置されており確認できた。
出身地や学歴、会社の所属や交際関係まで全世界に共有される。
世界と比較すると、日本でそのSNSを主として利用している者は少ない。
毎日料理の投稿をしている中で、投稿がない時は料理を作らなかったのか、作れなかったのか。
探してみると投稿がない日の前日に『明日は用事があって夕飯が作れないから明日の分も作った。』と書かれていたり、次の日に『昨日は外食だったから』と書かれていたりするものだ。
たまに友人と外食するなら、つい書いてしまったりするものだ。
誰とどこへとまで書かなければ問題ない、と考えるだろう。
だが、相互フォローしている者の中で同じ日にレストランで撮影した料理の写真を載せている者があれば、
目星がつく。
料理が、その店にしかないようなものであれば、それだけで特定できる。
ありきたりなメニューでも、食器が独特であれば特定可能。
背景や道路に面した窓から外の景色が見えていれば。
調度品が珍しい骨とう品。
テーブルクロスが唯一無二の特注品。
写り込んだ店員の手に特徴がある。
などなど、特定できる要素は限りない。
依頼の発端になった事が半年以上前に起きていると考えらえる。
一人で食事をしていても目立たないような店を選ぶように依頼主へ願い出ても良いが、不自然にならないように家族で相談して決めてもらう方が間違いがない。
外食先が決まり、出かける前にどの店で食事をするか連絡してもらう約束だ。
家族がいる前で、時間をやけにきにしたり、スマホをいつもよりも触ると怪しまれる。
依頼主の側に好きな相手を作る場合には、それでも構わない。
むしろ、性格的に依頼をした後にどう繕っても妖しく思われてしまいそうであれば、いっそ浮気を疑わせるべくわざと怪しい行動をとってもらう。
数日間、帝事務所の所員が家の周りで観察している事実を
デートの待ち合わせを装うにはちょうどいい。
「遅い!」
普段の
「何かあったんですか?」
と聞くだろう。
事務所での会話はおおよそ3年間も一緒に働いているようには見えないが、仕事上の連携は打ち合わせなしでもスムーズだ。
「ごめん。
初めて来るところだから、迷っちゃって。」
自分ではない誰かを装うと、本当に別人のようで顔つきすら変わるから、いっそ俳優にでもなればいいのに。
と、
「初めての場所に行く時、私は迷う事を考慮に入れて早めに出るんだけど。」
「出かける前に地図を確認して迷わないようにってしてたら、出かけるの遅くなった。
寒い中で待たせてごめん。」
公園は思ったより寒い。
建物の中に避難する必要がありそうだが、めぼしい飲食店がないことは確認済み。
「そこのコンビニであったかい飲み物買おう?」
二人でこの場を離れると、
「肉まんも。」
「肉まん、いいね。
おやつにはちょうどいいか。」
そう言って
『アラーム音で通話装い残る 休憩どうぞ』
遅刻の言い訳をしている間に、アラームのセットをメモの入力を済ませていた。
仕事用とプライベート用のスマートフォンがあるので、実際に電話をかける事も可能だがアラームの方が自然に見えるから
「行こう。」
と、少し歩き始めて数歩進んだところでアラームが鳴る。
「あ。
ごめん、出なくちゃ。
先に行ってて。」
結局、彼女がコンビニから戻ってくるまで電話は続き、公園で肉まんと温かい飲み物を。
と、いう流れを、一瞬の判断で作り出した。
誰がいつどこから見ているかわからないので、傍から見たら初めてこの地域に遊びに来たカップルとして常に振舞う。
彼女を視界に捉えて焦って電話を切る彼氏は、スマートフォンの画面を必ず一目見る。
「ごめん。
電話長引いちゃった。
一人で買い物させちゃってごめんね。」
「もうかかってこないから。
かかってきても、出ないから!
許して、
事前に演じる役の人物設定をすることもあるのだが、今日は事前に決めていなかった。
直接対象者に接触する機会がある場合は、名前を覚えておく必要があるから、そういった管理も
仮に今後、
女性の装いをしている時には例え長時間まじまじ見ていても男性だと気付かない者が殆どだが、男性の装いであれば女性の目を引く見た目と存在感なのだ。
まして、子供がいるとなれば自分よりも年上の方が安心感があるだろう。
少なくとも10歳は若く見えるが、
今日は土曜日だし、こんな住宅街の公園で仕事で会うでもない。
カジュアルな装いで、ある程度関係性を調整できるようにしていた。
駅から少し離れた住宅街の中にある公園。
近所に住む子供が遊ぶため!という雰囲気ではないのが幸いしている。
わざわざその公園を訪れる程でもないが、ベンチで休んだりしていても不思議ではない。
もし声をかけられたら、こう答えればいい。
結婚を前提に交際をしている。
一緒に暮らす事を目的にいくつか候補を挙げた街の様子を実際に歩いてみて回っている、と。
兄妹という設定でも良いが、
どちらか一方が既に住んでいる事にすると、どこに住んでいるのかと問いただされた時に厄介だ。
妹が就職前に、先に東京の別の街に暮らしている兄が付き添い物件を探す下見に来た。
兄妹という設定にすると身分証明書の提示を求められてしまった場合に、面倒だ。
二人でいれば職務質問を受ける事はないだろうが、
最終的に二人の身分証明を見せる羽目になるではないか。
そういう訳で、二人一緒に行動する時は、カップルを装う事が多い。
呼び合っていた名前と身分証明書の名前が違う事など、今のご時世どうにでも出来る。
マッチングアプリで使っていた名前のままで呼び合っているとかなんとか言えば済む。
嘘をついていると思うと心が痛むが、設定をした人物になりきって仕事をしていると考えれば割り切れた。
もちろん
今回の
毎回彼女の頭の中では細かい設定がされているが、
思い返してみれば、そのことが
ドラマは見ないし、映画は読んでいた本が実写化された時に興味が湧けば、という感じだ。
妹の
「そんなに何度も謝らなくたっていいのに。
なんだか逆に拗ねたくなるよ。
ほら、冷める前に食べよう。」
元から怒っていない人間に対して過剰に謝ると、事情を知らずに傍から見た者が謝られている側の人間に対して悪印象を持つことがある。
怒られたくないから怒る隙を与えない程に謝っているのだろうが、自分を守る事ばかり考えずに周囲に与える影響を考慮した方が良い。
と、
意図的にやれば完全に印象操作だ。
むやみやたらに謝れば、謝られている人が。
『あの人そんなに怒りっぽいの?』
と、思われてしまう。
ごめんなさいとありがとうは相応しい時に、適切な加減で言うのが良い。
と、言うのが
ある時、
大学の時、同じ講義を受けている人の中に、過剰にお礼を述べる人が居た。
直接の知り合いではなく名前を知らなかったので、
口に出した事は一度もない。
だがその時は漏れてしまった。
「恩着せられがましい…」
口元で発しただけの言葉は、隣にいた
「なんだそれ。
おかしな日本語だけど、言いえて妙だな。」
面白い事が大好きな
良くも悪くも気に留まる言動は、過剰と感じるものがほとんど。
役に特徴を持たせたいなら、何かを過剰にすれば良い。
過少というのは実は過剰に少ないと言えるから、結局は過剰。
印象に残らない人は、何もかもが適度なのだろう。
なんとも皮肉な真理だ。
彼氏がすごく謝っていたという印象は残っても、背格好や顔立ちは印象に残りにくい。
一方の
ちょっと性格が悪いのかも知れないという印象を持たれるかもしれないが、重要な要素としては残らないはずだ。
印象に残る事は業務に支障をきたすこと。
なんだかんだと公園に居座るカップルは、少なからず印象に残るだろう。
平日に
大量の食料品を買い込む事になるので、帰りは真っすぐに戻るけれどそこに買い物に行くと夕飯は家で決まったメニューを食べる。
だから、夕飯を外食にするのは難しい。
せめてシッピング施設には行きたいが、会員制で施設の中に入るために会員証が必要であることを
(帝事務所で法人会員になって、会員証を複数作っておいてよかった。)
それほど沢山食べる人間はいないから、利用する機会はそうそうないのだが、以前受けた依頼の際に作っていた。
懇親会として年に2回は短期バイトに入ってくれた能力者を招いてバーベキューやパーティーをしてきた帝事務所。
依頼ではいつ必要になるかわからないから、持っておく方が良いと判断し、途中解約はしなかった。
往々にして
そして、もう一つ。
「
先ほどもう電話は取らないと言ったが、メール連絡が入り仕事に行かねばならない、というやり取りを済ませたあと。
ふいに
「視力検査で引っかかるから、取れないんだ。
たまに日常生活でも困るときがあるよ。
話した事なかったね。」
目の前を絆に遮られる時が、あるからだ。
制御してもしきれない主張の強い絆というのが、世の中には存在している。
実際には目で見ているわけではないが、確実に視界を遮ってくる。
ちなみに、いつもはパンツスタイルの
原付バイクで移動する時はパンツスタイルで、駐車場にの近くにあるトイレで着替えた。
ジャンパースカートなのは、その方が着替えやすいから。
電車を待つわずかな時間ホームにいる間、
表向きの会話では、あくまで
これから向かう目的地は、電車の後バスでの移動が必要になる。
バスは時刻通りに動いていない事が多い。
タクシーを使うのが良さそうだ。
帝事務所の財布を握っているのは
金銭的な忖度は的確に出来ると
もちろん、
最寄駅の一つ前の乗り換え駅から、タクシーを使用してショッピング施設へ。
道路はどこも混雑していた。
電車を利用している分、
会員制の施設だから、入り口は限られている。
入り口が見える範囲で適度に動き回り、
買い物をしている風を装いつつ、
用事が済んでから籠の中を見ると実に混沌とした状態になっている。
目的が全く見えない品々だ。
帝事務所用に買うものは現在特にないから、全部プライベートのもの。
ピントが
一般的なスーパーならば不審な行動かもしれないが、このショッピング施設は誰もが惑わされる場所。
何も怪しまれることはない。
この場所独特の空気に飲まれて、ついついカゴに入れてしまったんだね。
わかる、わかるよ!と、言う同情の視線を多少浴びるくらいだ。
ちょうど昼休みの時間になりそうだから、お昼に食べるものも一緒に買う事に。
個人の財布から会計を済ませた。
お昼ご飯を食べるのに適当な場所を探していると、近所に大き目の公演を見つけた。
せっかく電車で1時間以上かかる場所まで来ているし、いつもよりも豪勢な食事を選んだ。
もちろんデザートもある。
以前にも訪れた事はある場所だが、前回は周囲を散策する時間はなかった。
腹ごなしに散歩するのも良いかもしれない。
駅までは3km程ある。
1時間ほどかかるが、歩いてみよう。
絆に目印の結び目をつける時、他者との絆の中で一番強固な絆を選ぶ。
そうすると依頼対象の絆であることが多い。
重要な絆だからこそ、自分ではどうにもできずに帝事務所を訪れる。
結び目は根元付近につけるから絆そのものを切られても、意図的に解いたり結び目そのものを切ったりしなければそのまま残る。
禁忌の技を行使する者はリスクを最低限にする為、なるべく根元から離れている場所を切る。
その方が切り落とされる絆の繊維の量が少ない。
最悪、持っていかれる生命エネルギーが少ないと言うことになる。
切った絆に襲われても、
そう簡単には諦めないが、いずれは諦める。
切られた部分が少なければ、襲おうとする時間が短くなると言う理屈だ。
「
家族の間には特別な絆が結ばれることがある。
「あったのね、家族の絆が。」
三つの絆の間に結ばれる三又の絆。
それが家族の絆だ。
ならば、家族の絆はそのままで守る方法を探したい。
「もう、これは本人に聞くしかないわね。」
絆をどうこうする前に、別の切り口で協力できる場合があるかもしれないと提案したことは以前にもある。
依頼人が元より冷静ならば、別の手段など必要ないから早く縁を切れ言われるだけだ。
だが、
「おそらく、提案すれば話は聞くと思います。」
買い物をしている様子を見た
「では、一度来てもらいましょう。」
「打ち合わせ場所は
野良のことがありますし、
狙いが
「
先日、禁忌の技について
「今まで話す機会を逸していたのですが…
僕には、動物や植物の絆が見えます。」
この時ばかりは、さすがの
植物の絆が見えるのは相当な能力者だけ。
師として、弟子に対して必ず伝える事などが記されている。
「“動物や植物の絆を捉えられる
師の心得に書かれていることよ。」
「すみません。
それほど重要な事だと思わなくて。」
どのようなやり取りだったか、細かくは覚えていないが
まずありえないものだと決めつけられた覚えもないし、そう決めつけられたところで自分がおかしいとは思わない。
師である
モヤモヤした感情があった事は記憶にある。
日記を読み返したら、あるいはそこに答えがあるだろうか。
「巡り合わせかしらね。」
どう転んでも、この時期に
「そうなのかもしれませんね。
僕自身、何故この話をこれまでせずに今に至ったのか、思い返してみてもよくわからないんです。」
そんなやり取りがあった。
「加藤様の依頼についての方針も決まった。
機は熟したって感じね。」
一報は入れてある。
野良のことは、本来は
しかし、
なにしろ、相手は命の絆を躊躇なく断つ。
何人いるかはわからないが、少なくとも二人の
同じ目的を持ち、集まっているのか、ここがバラバラに活動しているのかはまだわからない。
集団になっているとするなら、29年の間に集まった野良の
「行きましょう、
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