理解者
交通手段が異なるため、
「加藤様からのご依頼が急を要する中だけれど、こっちも急を要するわ。」
デスクに近づくと、
帝事務所の中だけでは調査が難しい時に、彼らに依頼する事があった。
彼らの情報は、すべて
詳しい話を聴くため、
「サシャに頼んでいた調査、一報がきたの。」
サシャというのは、いわゆるコードネーム。
それも、少なくとも
他にいくつ呼び名があるか知れない。
最年長者が、
地区の代表がおり、毎年連絡先が共有されるが顔は知らないことがほとんどだ。
その点、
当然、それぞれの師には絆が繋がった弟子がいたり、
地区の代表や、最年長者のところには弟子入り希望者が集まりやすい。
師匠の中には、見識を広く持てるよう、他の師匠に弟子入りすることを奨めるものが一定数いるからだ。
会っているのが
何か依頼をしていた事がわかったとしても、個人的な依頼だと言えば済む。
禁忌の技について話すまでの間と決めて、
一人くらいは、と
それも叶わず、結果的に
だが、全て
それに、誰にどこまで話してよいか
以前から何度か、帝事務所が断った依頼人が、その後目的を遂げている不審な例を確認。
全てではないが、絆が切られているのを目の当たりにしている。
そうして、判明した存在。
おそらくは野良の集団に属した一人であると疑っていた。
「
自然に解けてしまうことがあるけれど、少なくとも2〜3ヶ月は残るものだ。
残し方は人それぞれ。
帝事務所では、依頼を断る時にも結び目を残すようにしている。
切られていることを確認した絆は、
依頼を断る場合、直接対応したものだけが依頼人の顔を見ているということはよくある。
顔すら知らない相手だとしても、
絆は切られた直後から丸一日ほどは切った者を探し、失われた部分を補おうとする。
修復できれば影響はないが、修復がが叶わなかった場合は1ヶ月ほどは不調に悩まされることが多い。
よほど生命エネルギーに溢れる者ならほとんど影響を受けないが、とても稀だ。
サシャも
絆を切る禁忌の技を行使するのは、野良くらいのもの。
証拠はないが、野良
野良
もし集団として活動しているのであれば、由々しき事態。
かつては禁忌の技を使った者が見つかると、
対処していた
「29年経つから、間違いなく収拾がつかなくなっているはずよ。」
だから、その子供である
決して理解はできないけれど。
そもそも、禁忌の技を行使した
直接の依頼は
「母が亡くなった直後から野良が集まり始めたなら、主力が2世へと移っていたとしても不思議ではないわ。」
2世と言うのは、実の子供ではなく弟子のこと。
仮に当時10代のメンバーがいたとして、今40代。
25歳までに弟子は見つかるのだから、師弟揃って野良の集団に属している事は十分に考えられる。
あるいは3世代存在している可能性も。
中心人物が定まっていないとしても、結束力があれば人数が多くとも集団はまとまるものだ。
志ある師ならば、弟子は追いかけるだろう。
どのくらいの人数が集まっているのか。
目的は何なのか。
今はなにぶん情報が少ない。
「推測を繰り返していても仕方がないわね。
ただ、このまま放っておけば、また誰かが絆を切られるかもしれない。」
話を聞いた
「調査は引き続き依頼しているのですか?」
また誰かが亡くなる前に問題を解決したいと言う思いは同じ。
「もちろん。
調査を依頼しているのはサシャだけじゃないわ。
何かわかったら、すぐに知らせる。」
「はい。」
「今話すことは以上よ。
一先ず切り替えて、加藤様の調査お願いね。」
「はい。
行ってきます。」
そもそも、感情の起伏が緩やかだ。
緩やかだからこそ性質が悪いとも言える。
その場では反応している様子がなくとも、噛みしめた挙句に長い時間をかけていずれかの感情に至る。
喜怒哀楽、いずれの感情でも同じだ。
どの感情についても、至れば長引く。
いずれの感情にも至らず終わるケースは多い。
と、
だから、
しかし、それすらも判りづらいのが
そんな
ただし、第三者から見たら落ち着き払っている様にみえるだろう。
だが、この時は明らかに怒っていた。
イケメンに分類できるだろう。
だが、とにかく印象が薄い。
一度会った事がある人に、初めましてと言われた事は一度や二度ではない。
不安げに先日はどうも、と挨拶されることもあった。
たしかに早くから家を離れたが、それでも15歳までは生活していたし、顔を合わせれば挨拶していた。
その時ばかりは涙が出そうだった。
兄妹年が離れているし、高校入学後は長期休暇に帰省する程度。
状況としては、親戚と思われてもおかしくないかもしれない。
と、なんとか自分を説得した。
似た顔をしているのに、どうしてか印象に残らない
母親が目を引くのは、笑顔でいることが多いからかもしれない。
系統としてはしょうゆ顔にあたるのではないかと思う。
父は出身地が南の方だと思われがちな、いわゆる濃い顔だ。
祖父と
小学校低学年頃までは、
中学の一年の頃は、いつ喋っているのか誰もわからない程に誰ともろくに話さなかった。
妹大好きの兄バカが始まったのは、
凝り固まって動きにくくなっていた表情筋は、
仕事用に作っている表情なので、感情は伴っていない。
素の状態だと、感情がまずうごかないので、表情に反映しない。
仕事柄ポーカーフェイスは必要だから、無理に変えることもないだろう。
敵を欺くにはまず味方からと言うし、味方すら表情を読めないことがいずれ役に立つことがあるかもしれない。
冷淡な印象を与えたり、恐怖感を抱かれるほどの表情をしているのでもなければ良し。
と、
抑揚のない口調も、かえって聞き取りやすいらしいとわかったから安心している。
つまり、空気を読まない。
読めないのではない、読まないのだ。
楽しければ楽しいと言う。
さすがにつまらないとは言わないが、楽しくない時に楽しいとは決して言わない。
それをわかってさえいれば、
聞かれたことには素直に答えるし、正直。
声を荒げることなど滅多にないから、受け取る側が卑屈になったり被害妄想を抱かなければ平穏。
もちろん、あからさまな嫌悪や悪意を露呈しているのならば話は別だが、
もっとわかりやすくしろと抽象的に苦情を言われた事が何度もある。
その度に、なにが問題なのだろう?と、不思議に感じていた。
なにしろ、なんとも思っていない。
思っていないにも関わらず、そう思っていると感じさせているのはお前のせいだと言われる。
何を怒られているのか何をなおせばいいのか、理解ができなかった。
「あなたが変わる必要はないわ。
自分の機嫌は自分で取るものよ。」
と、返ってきた。
これまで
何を考えているのかわからない様子を見て腹を立て、八つ当たりをしていたのだと気がついた。
しかも、
言いやすかったのだろう。
あるいは理解して欲しいのか、理解したいと思っているのにわからないことがもどかしいからなのか。
いずれにしても自分に非があるわけではない。
「もっと愛想良くしろ。」などと言う抽象的な文句に、愛想を良くするとは具体的にどう言うことなのか説明を求めれば。
「そんなの常識で考えればわかるだろう。」
と、放棄する。
おかげで。
「普通に考えればわかるだろ。」「察しろ。」「そんなこともわからないのか。」
そう言った主張が、理不尽でとてつもなく礼を欠いたものだと気がついた。
「そんなの、自分のことを理解してもらったり、お兄ちゃんのことを理解しようとする努力を放棄して楽しようとしてるだけじゃない。」
言われてみれば確かにそうだ。
感情をわかりやすく表に出せとか、仏頂面を見るとバカにされているようで腹が立つとか、そんな言い分を押し付けられる筋合いはない。
「何でもかんでもお兄ちゃんのせいにして文句言ってるだけじゃない。
お兄ちゃんが気に病むことないよ。」
兄のことが大好きだからだ。
正に相思相愛の兄妹。
妹の言い分は決して贔屓目ではない。
説明しなくてもわかって欲しいと願うのは自由だが、それを相手に押し付けるのは理不尽そのものだ。
そう言う人こそ。
「どうして欲しいのか、ちゃんと言ってくれないわからない。」
などと言うのだから、なんと勝手なことかと思う。
理不尽にぶつけられていた怒りなのだとわかっても、不思議と怒りの感情は湧いてこなかった。
ただ、それまで不可解だったことが腑に落ちただけ。
中学2年生の時には底辺になっていた人付き合いに対するモチベーションが、上がっていたことも原因の一つだ。
人に興味を持ち、友人関係を構築することに前向きになったからこそ生まれた悩み。
そんな
大学を卒業した後も付き合いのある、唯一の友人だ。
名前は、
友人と言っても、年賀状のやり取りがあるくらいだ。
大学時代、
「友達を作るにはどうしたらいい?」
まともな友人関係を持たなかったから、
思いつく限り頑張ってみても、イマイチうまくいかず、半分無意識に漏らしていた。
「友達って頑張って作るもんじゃないよ。
なるものでもない。
お互い自然体で一緒にいるのが心地よいから、ある時気がつくものだと俺は思う。」
「僕の努力は無駄ってこと?」
この時の
「いや、無駄な努力なんて一つもないさ。」
変わらず飄々と応えた。
「そうか。」
「そうだよ。
気が済むまでやればいい。
俺はここにいるから。
ああ、邪魔なら言ってくれ。」
「邪魔じゃなわけないだろ。」
「そうか。」
「そうだよ。」
以来、
だが、今度は友人である
ある時、ふと思いつくままに言った。
「
友人が家に来たことなどなく、何をすれば良いのかわからない。
「心にもないこと言うな。
友人だからこうしなければならないなんてことはないんだ。
俺たちには、俺たちの関わり方がある。」
完全に見透かされていた。
「そうか。」
安心した。
「そうだよ。」
友達だからといって、常に何もかもを一緒にしなければいけないと言うわけでもない。
「わかった。」
周囲から。
「それって本当に友達?」
と、言われようが、お互いに友人だと思っているならそれで良い。
また別の日。
「食堂行くけどどうする?」
お昼休み前の講義が終わり、
「僕、弁当だから。
今日は天気が良いし、外で食べる。
あ!デザートだけ食堂で食べるよ。」
一緒にいたい時に、相手も一緒に居たいとは限らない。
少なくとも、友達だからと言う理由で無理に合わせる必要はないのだ。
「プリン?」
「今日はコーヒーゼリーが良い。」
食堂で食べられるデザートは限られているから、確かにプリンを選択することは多い。
けれども、4回に1回くらいはプリン以外を選んでいた。
「買っておくよ。
金はあとでいい。」
すっかり荷物をまとめた
「わかった。
また後でね。」
そんな風に
けれども、卒業後も連絡をとっているのは
加藤にも、そう言う友人がいるはずだ。
何か事情を知っているかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます