万能ゆえの禁忌
一時停止状態を再生するかの如く我に帰った。
「頭を上げてください。」
恐縮し、慌てる
「今、思いつく限り片っ端から連絡してる。
もうこれ以上、
「そんなの無理ですよ。」
「あ、いや、あの…
僕が危険な目に遭っても、構いません。
いつまでも、
師匠にとって弟子は子供みたいなもの。
「自分のことは、自分で守ります。
だから、禁忌の技のこととか
相手がどんなことをしてくるのか知らないと、守れないから。」
もともと、絆を操作して人間関係に干渉する方法はいくつかある。
絆の総量には限りがある。
だから、操作したい絆そのものではなく、他の誰かとの絆を多少なり動かす。
依頼者と繋がっている絆だけで目的の状態に到達しない場合には、依頼者と繋がっている別の者を主体として絆の操作を行うことがある。
絆は、双方が全く同量の繊維で結ばれているものではない。
仮にAという人間とBという人間の間にある絆を弱くさせるために、互いに1本ずつの絆の繊維を伸ばした極細の絆を最終目標として調整する場合。
AからBに対しては10本の繊維が伸びており、BからAに伸びる絆の繊維は20本だとする。
多い方の側が解きやすく、少ない方を無理に操作すると千切れやすい。
差が大きくなりすぎると絆の結び目が不安定になる為、やむを得ない場合を除き多い方から動かす。
まず均等な状態を作るために、BからAに伸びている絆の繊維を10本にしたい。
そうなると、操作するのはAB間の絆だけでなく、操作の対象者がBに移る。
B側の絆を操作すると、Aとの絆から外された絆の繊維10本が行き場を失くす。
浮いた10本の繊維は、BからA以外の誰かに繋がっている絆へとバランスよく移動させる。
既にある絆に、絆の繊維を足す時には結びついている相手側の根本を確認する必要はない。
また、近付けた時に相手側の絆の繊維が多いと、繊維が伸びてきて繋がろうとするためバランスもとりやすい。
人間5年も生きれば、軽く10人以上の相手と絆を結ぶもの。
外した10本を一本ずつばらけて移動させれば、Bを中心に見た時にAとの絆以外にはほとんど影響がない。
その後に、AB間の絆の繊維が互いに1本だけ結びついている絆にするべく、ようやくAB間の絆を中心とした操作に移る。
AとBの絆を弱くするだけの依頼ならば、A側でBとの間から外した絆の繊維はB側でするのと同じようにB以外の誰かと結びついている絆へとなるべく均等に結ぶ。
依頼内容がAB間の絆を弱くしてAC間の絆を強くするという場合には、AB間の絆から外した絆の繊維は、全てAC間へ移動する事になる。
実際には操作する絆がの繊維が10本程度ということは、まずありえないけれど。
ともかく、絆の操作は多角的に観察して依頼以外の関係性を大きく変化させないように行う。
それは帝事務所に限った事ではない。
絆の繊維は、操作した後に時間と共に元の状態に戻ってしまうことがある。
それは
なるべくもとに戻らないよう
時折、絆の繊維が意思を持ったように動く事がある。
思いが強すぎて知らず知らずのうちに絆の繊維を動かしてしまい、他の者との間にある絆の繊維をも絡めとるケースだ。
程度に関係なく攻防戦による生命エネルギーの消費で、双方に倦怠感などの症状が同程度に現れる。
行き過ぎると、片方がもう一方を絆の繊維全てで相手を雁字搦めにし、生命エネルギーまで搾取する大変危険なケースに発展することも。
この場合は搾取された側が最悪死に至る可能性を考慮し、禁忌の技を行使する事も視野にいれつつ、大概は複数の
だから、日常生活においても争わずに済む道を探す能力に長けている者が多い。
定期的に禊を行うため、私利私欲に走り他者を蹴落とすような輩はそういないのだ。
しかし、平和を好み禁忌の技を使わずに済むように何とか工夫する者が多い中、最初から楽をしようとして狡猾に抜け道を探そうとする者はいる。
何事にもグレーゾーンや際どいラインなどがあるものだ。
絆を断ち切るのは禁忌の技に当たる。
だから、病との絆だとて切れない。
けれども、病との間にある絆を弱くすることは可能だ。
病との結ばれる絆には、この世と繋がっている生命の絆に結ばれている絆の繊維が用いられる。
放っておけば病との絆がどんどん太くなり、生命の絆が徐々に細くなり死に近づいていく。
病との絆から生命との絆へと、絆の繊維を移動させる操作を行えば、病気の完治は出来ずとも延命する事は可能だ。
延命を目的とした捜査は、名家のお抱え
度が過ぎなければ問題はない。
しかし、逆が問題だ。
敢えて病との絆を太く強くして、この世との絆を細くして、死を近づけ死期を早めてしまうこと自体は禁忌に当たらずグレーゾーンと言える。
だが、死へ近づけることは出来てしまう。
病との絆の結び目が、あまりにも堅く動かせそうもない時には、延命は望めない。
だが、死期を早めることは可能だ。
時には、早く楽にしてあげたいと言う意図での依頼もある。
それでも
人が死に向かう時、事故などの危険に遭遇する直前などは絆の繊維があの世に繋がると言われている。
この場合も、同じだ。
危険に近づいたためにあの世と繋がった絆を見つけて操作出来れば、あるいはその者を救う事が出来る。
母親と胎児の間にできた絆を捉えるからだ。
禁忌の技の一つである絆を断つ事。
母親と胎児の間にある絆を切れば、胎児が命を落とす。
だから、万能であらぬように禁忌を定めた。
絆が強く結びついている者がいる場合、引きずられる事がある。
仲の良い夫婦が続けざまに、あるいは同日に亡くなる例だ。
とても強い絆で結ばれている者同士は、常にその絆が引き合っている。
だから、共に過ごそうとするし、離れれば寂しいと感じる。
「じゃあ、
「それはね、実際に起きたのよ。」
絆には、生まれつき誰かとの間に繋がっているものがある。
師弟の絆もその類だ。
いわゆる運命の相手と言われる者同士に生まれつきの絆がある、という仮説があるのみせ、実態は不明。
「私が死にかけた時、本当に
死の危機を脱したら、二人とも元通りよ。」
禁忌の技についてはもちろん、それ以外にも。
自分自身の身に実際に起きた経験として、知っているから。
「この絆ね、放っておくとどんどん太くなるの。
でも私はこの絆を操作できない。
他界されてからは、限られた人へ限られた機会にお願いするものだから、半年に一度くらい。
ここ8年は、増やさないようにするので精一杯になってる。」
「
『禁忌の一族』なら自分でやれとか言われたり、まあ色々な理由で断られるのよ。」
抜け道を探すことなどせず容赦なく禁忌の技を行使し、
『禁忌の一族』と呼ばれる所以は母にこそあり、
「
ほんの軽い気持ち。
本気で考えてはいなかった
「はい。」
「え。」
「僕に、やらせてください。」
1日がかりで操作しても変化を感じられないほど。
けれども、
インターネットを通じてでも多少なり絆は結ばれる。
だからこそ、どこの誰と繋がっているのがわからない。
そんな絆を無闇に結びつけるわけにもいかない。
ビジネスを左右してしまう可能性があるからだ。
一般の依頼時にも、どこの誰かわからない絆を結びつけるのは危険だ。
だから、なるべく太い絆へと移動させる。
元々仲の良い者同士が、さらに仲が良くなってもそれほど影響がない。
あってもなくても、それほど変わらないだろう。
そんな調子だから、
その思いは、やがて絆を動かしてしまうかもしれない。
しまいには、
「ありがとう。」
そこにあるのは、安堵と感謝だけ。
次に訪れたのは、心配だった。
「本当に大変なのよ。
芯だけの状態に近づけるには、最初は1週間位かかると思う。」
「大変なのは、初めからわかっていますよ。」
言いながら、
大変なのは絆の操作そのものではなく、当主の方に違いない、と。
とはいえ、嫌いというわけではない。
仲良くできる気は、全くしないけれども。
両親が絆の文書や
編み物をして解いたこともある。
組紐を作って解いたりもした。
酷く絡んでしまったネックレスを解くのは必ず
あやとりをしている最中、母がわざとぐちゃぐちゃにした紐を渡すことが度々あり、あやとりの趣旨がわからなくなったほど。
妹が生まれていからは、不思議なことに妹が紐の類をぐちゃぐちゃにしては
絡まり合った絆の繊維の糸口を見つける速度は、経験豊富な
絆の操作をするときには、イメージだけで行えるのだが、ゲームをしているの時にコントローラーや身体まで動かしてしまうように、手まで動く時はある。
見られても構わない環境ならばそれでいいのだが、不審がられるような状況では手の動きを制御。
あるいは、手元は他の動作を行った状態を継続して、イメージの中では絆の操作をする事がある。
その為、
時代の移り変わりと共に、
表向きには大学の先生、医者、航海士、建築士など様々な職業に就いているものがほとんど。
帝事務所の様に正体こそ隠しているが、表でも
医者になった者が
なるべく
3校に絞り受験した結果、最も近く最も偏差値の高い高校に合格した。
その後、有名大学を卒業している。
学歴は折り紙付き。
就職先には困らなかったはずだ。
帝事務所でなるべく長く働くために通信制大学への進学を希望した
それではもったいない。
そこで、
「帝事務所に就職したいなら、有名大学を卒業しなさい。」
と、
「わかりました。」
と、あっさり有名大学に合格するのだから大したもの。
その後も何度か。
「帝事務所に就職したいのならばこの資格を取りなさい。」
などと、就職に有利な資格を取得させている。
法学部を卒業していた
行政書士
社会保険労務士
宅建士
英検2級
簿記1級
言うまでもなく、現在は帝事務所で
簿記は、2級を在学中に取得して卒業後に1級を取得している。
1級に合格した時には、楽しみが無くなってしまったような感覚に襲われ、しばらく意気消沈したほどだ。
何の疑問も抱かず、
おそらく、今後も大きくは変わらないだろう。
この機会に話そうと思い立ち、話し始めたので会議室でのやりとりは、休憩を挟んで2時間。
20:00少し前に終わった。
休憩の間に、妹からの不在着信に気が付いた
「お兄ちゃん、お仕事お疲れ様です。
明日学校がお休みだから、都内に住んでる友達と遊んで、そのまま友達の家に泊めてもらうはずだったんだけど、予定が変わっちゃって。
お母さんに相談したら、お兄ちゃんの家に泊めてもらえって。
21:00までは友達と一緒にカラオケしてます。
場所をメッセージで送るね。」
18:18に残されていた留守電のメッセージを2度も聴いてから、店まで迎えに行くことをメッセージ送信。
「
会議室に戻る前に、しかと進言。
例え話が途中でも確実に終わる予定だったが、幸い話は済んでおり最後の方は他愛もない雑談をしていた。
内心不安のあった
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