覚悟
「何の覚悟かしら?」
心の中だけで呟いたつもりの言葉が、口を吐いて出ていた。
「疲れてるでしょ。
今日は、もう帰って休みなさい。」
時刻は19:15近くを示しており、驚く。
「すみません。
こんなに時間が経っていたんですね。」
「良いわよ。
少しは落ち着いたみたいね。」
目の前で人が亡くなった。
その上、気持ちの整理をする間もなく警察に疑いの目を向けられ実質的に拘束されていたのだから混乱するだろう。
混乱していることすら気づかないほどに。
一見、平然としていた
しかし、その目が血走っており、呼吸が浅く早くなっている事に
防音の会議室なら、気持ちを落ち着けるのに役立つだろうと30分は放置する事にして、会議室を出た
40分が経過しても、一向に出てくる気配がなく、会議室を覗いた。
思い詰めている
二人は、
無邪気に遊ぶ6歳の
その時期毎に、習得してほしい事を指南書として同封していた。
時々、
血のつながりはないけれど、親戚のような感覚だ。
金曜の夜から日曜の夕方まで、殆ど毎週、
大学3年になるタイミングで、一人暮らしをすると
帝事務所で働く以外の選択肢は当然あったのだが、
就職活動をしない為、大学3~4年の2年間は単位さえ取得できれば、殆ど自由になる。
更に一人暮らしをすれば交友関係が変化し、雰囲気が変わる可能性を考慮していた
しかし、
絆を見ても、新しいものが増えたり、特別に絆が成長した関係はなかったから、ほぼ、間違いない。
力が強ければ強い程見える絆も多くなり、視界が絆だらけで歩くこともままならなくなる。
喋れるようになったら、すぐに始める位がちょうどいいのだが、実際には5~6歳から訓練を始める事が多い。
3~5歳まであたりは親が教える方が良いと考える
親から見れば何もないはずの宙を見つめる我が子に対し、親の方を見るようにあえて呼び掛けてもらうのだ。
それをしているか否かで、大きく変わる。
5~6歳からは、目で見ていると感じているのは実は錯覚だと教える段階に入る。
視覚的に、「見ている」と感じてしまっている状態を、切り分ける訓練だ。
何代にも渡って
少しでも
後継が生まれた時、まず師となる者が師弟の絆が繋がった日時を、実質管理している
一方で、
本人が自覚するか、親が気が付くか。
きちんと語り継がれているか否かも関わってくるし、さまざまな要因で、後継側からの申告の時期には、かなりばらつきがある。
文書も、代表者が受け継いできている。
代表者は殆ど長男であるが、どんな場合でも、常に文書の所在を明らかにしておく決まり。
きちんと引き継がれていたが故に、
その時点で、
けれど
5~6歳から修行を始める事が多いからと説明。
子育ての中で、
両親への挨拶のために、
だが、親子としての関わりよりも、師弟としての関わりが強かった。
記憶にないころから、
母親は、厳格な師匠。
思い返してみれば、
だとしても、師弟関係の何たるか、親子関係の何たるかを測りかね
後継が誕生し、師弟の絆が結ばれた瞬間は、純粋な嬉しさが込み上げ爆発した。
しかし、その後は目を回すほどに混乱。
自分に師匠が務まるのか。
何をどう教えていけば良いのか。
不安が募るばかり。
証同士が、師弟の絆で結ばれているのはただ一人。
けれども、広く教えを乞う事は推奨されている。
結果、母を含め6人の師匠に教わった。
もっとも、母親が存命であっても、
なにしろ、
親元から無理にでも引き離して、修行をさせて方がよかっただろうか。
そんな自問自動を、繰り返している。
親子ほどの差だけれど、親ではない。
親代わりとも言われる師だけれど、師というのはやはり師なのだ。
かつて。
今のような通信網がない時代。
師弟の絆を頼りに後継を探し当てるため、探すのに時間がかかることも多かった。
生まれる家は決まっていても、当時は噂の域をでない曖昧な情報が聞こえればまだ幸運な方。
絆がどこまで伸びているのかわからないから、ゴールがどこなのか不明のまま辿り続けると、数週間かかる事もある。
交通手段も整備されていないし、時代背景によっては戦、飢饉、病などで、出会う前に片方が亡くなってしまう事もあった。
そうして師弟が出会えぬまま、弟子側の
基本的に、師弟の絆は1対1。
稀に複数名と繋がる者もあるのだが、それは必ずしも曰く付き。
師匠が亡くなってしまい、新たな師匠と絆が繋がった例。
後継が亡くなり、新たな弟子と繋がった例もある。
その中に、弟子が亡くなる前それを予知するように、別の後継と繋がったという例も。
様々な師に教えを乞うことが推奨されているのは、身近なところに
現代で、問題となるケースは、
しかし、海外に渡って、間もなく子供が誕生した場合などは、出現する事がある。
その場合、各々が交通費を負担することになるため、大抵の場合は師匠が訪問。
本人に、意思確認を行う。
特異な力を、海外の機関などから研究対象とされる可能性があるためだ。
日本国外に生活拠点を置く事を本人が希望している場合には、能力を剥奪する事になる。
また、師弟の絆が結ばれた師匠が他界している
これは、特例中の特例と言える。
絆の繊維は、個々で持つ総本数がおおよそ決まっており、個人差はあまりない。
実際のところ繊維ではないので、あくまでイメージの話だ。
かなり伸縮性があり、どこまでも伸びるといわれている。
宇宙の果てまでも伸びる可能性があると言う説は、輪廻転生の概念に由来している。
いずれにしても、歴史上の記録と共に、
そんな家に、
既に大店だった
以来、情報を収集、管理している。
極小数の家が、専属の
許可されていない家は、
内密の依頼をしたい者もあるが、
帝事務所の仕事も、例外ではない。
これは、
だから、
競合は、
とはいえ、いつの時代にもどの分野においても抜け道や例外は存在するもの。
当然の如く、
野良の
希望の依頼を出来なかった者が、野良の
管理の外にあるというだけで、平和的な者が多いのが、
穏和な気質の者にこそ、能力が授けられると言われるほどである。
一部の野良が、手段を選ばず依頼を完遂しようとすることがあり、中には好戦的な者も在る。
そういった輩の、排除を担っていたのが
そればかりか、同様の事を求められていたから、
禁忌の技を伝え聞く他の
『禁忌の一族』という異名を持つ、その最たるが
なにしろ、
他の
だが、
或いは、他の
それでも
嫌われても、恐れられても、構わない。
ただ、
「
今日は、もう帰って休みます。」
「ええ。」
事務所のドアの前、
「
伺いたい事があるので、明日以降、ご都合のいい時に、お時間を下さい。」
が、すぐに
「わかったわ。
明日、都合のいい時に、声をかける。」
「よろしくお願いします。」
頭を下げて、帝事務所を後にする。
ドアが閉まる金属音。
やがて、時計の針が進む音が、鮮明に
気を取り直し、大きく深呼吸すると。
「私も、今日は帰りましょう。」
誰に言うでもなく、声を発した。
ハイヒールからヒールの高いロングブーツに履き替え、ジャケットをコートに着替える。
脱いだ上着と靴は、それぞれ定位置に戻しておく。
パソコンの電源を落とし、カバンを持つ。
消灯、戸締りをしてから、
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