第13話 大鉄(級の)人(間)
イズミたちは4人で会議室へ向かい、ライオベントが呼び鈴を鳴らすと真っ青な顔をしたスカムベがドアを開けた。
「良かった。ちょうど今中の水が引いた。それで正しいのかどうかもわからず恐ろしいから呼びに行こうと思ったところだ。」
「大丈夫、治療が終わったんです。そろそろ目覚めるはずです。」
5人が見守る中プシュっと小さな音を立てて治療ポッドのフタが開き、寝台がせり上がるとゲナウの目がゆっくりと開いた。
「ここ・・・は?」
起き上がった彼の右胸は痛ましかった傷が新しい皮膚が少し色合いが白いことを除いて完全に消えていた。
立ち上がろうとするゲナウにスカムベが肩を貸してポッドから出すと、役目を終えたそれは塵になって消えた。
ように見えただけで実際はナノマシンが散って見えなくなっただけだが
「ゲナウ!ほんとに治った!良かったよぉ。もう二度とあんな無茶しないで!」
「ゲナウさん、もう本当にダメだと思いました。」
ベスペキネとネティはゲナウに縋りつくようにして泣いた。
「みんな、俺は一体・・・」
「ゲナウ、あれを見ろ」
スカムベが指さす先には右胸の辺りが半ばまで断ち割られたブレストプレートがあった。
「あれ、は、俺の?」
ゲナウは青くなりながら無残な姿を晒すそれと新しい皮膚が白く目立つ自分の右胸を見比べ、左手の指先で断ち割られていたであろうその部分をなぞった。
「そうか、俺はあの時あいつと刺し違えて、剣を・・・」
「あの後ムドロブさんが店の高級回復薬なら助かるかもしれないと馬車をつぶしてまで走ってくれたんだが、間に合わなかった。ゲナウは死んだ、少なくとも俺は、いや俺たちはみんなそう思ったし、実際お前は鼓動も息の根も止まった。」
「じゃあムドロブさんが助けてくれたのか・・・?」
「いや、偶然その場に居合わせたイズミが助けてくれた。血潮が停まって時間が経てば助からなかったらしい。運が良かったんだそうだ。」
「イズミが!?」
驚愕しながらイズミの方に向き直ると彼女はにこりと笑いかけながら聞いた。
「ゲナウさん無事に治ってよかったです。体調はどうですか?」
「あぁ、元気だ。信じられないくらい。」
「なによりです。でもきっと血もお肉も足りてないのでたくさんお肉を食べてくださいね、レバーも!」
「イズミ、本当にありがとう。このお礼は改めて必ずさせてもらうよ。」
「イズミ、あなたのおかげであたしたちはリーダーを失わずに済んだわ、本当にありがとう」
「イズミさん、ありがとうございます。」
「イズミ、感謝する。」
「いやぁゲナウ君も元気になったみたいだし良かった良かった。ところでおじさんから鋼の心のみんなに緊急任務を与えよう。ゲナウ君はすぐに服を着なさい。そんでもってみんなでマシュー商会にお礼を言って謝ってきなさいね」
「はい、もちろんです。」
そうしてゲナウたちはマシュー商会に向かっていった。
「さて、イズミ殿」
二人になった会議室でライオベントはイズミが見たことのない神妙な顔つきで切り出した。
「はい?なんですか?」
キョトンとしたイズミが答えるとライオベントは腹部に左手を当ててすっと頭を下げた。
「今回は我が協会所属の冒険者を救っていただきありがとうございます。」
「そそそんな、できるなら誰だってすることです。」
イズミが両手を振って謙遜すると彼はいつものようにヘラッと笑った。
「君はそう言うけど誰にだってできることじゃない。彼のような誠実で将来有望な若い冒険者は協会の宝だよ。失うことにならず本当に良かった。本当に冒険者協会という組織の長として感謝に堪えない。ついてはイズミちゃん、君を特例で銀級に昇格させたいんだ。本当はもうちょっとややこしい条件とか試験があるんだけどね?どうかな?」
その言葉にイズミは慌てた。
「あえええ!?困ります!まだ大鉄級でいさせてください!」
ライオベントは目を剥いて驚いた。
「えぇ!?そ、そりゃまたなんでなのかな?普通なら飛びつくと思うんだけど」
「ライオベントさん、あたしは16歳なんです。」
イズミは両手を握り締めて力説する。
「えええ!?イズミちゃん16歳なの!?おじさんてっきり13~4歳くらいかなって、あ、いやそれは置いといて年齢のことは気にしなくていいよ。」
「ライオベントさん!あたしは今大鉄級の冒険者です!」
イズミはずいっと一歩踏み出す。
「う、うん、そうだね?イズミちゃんは今大鉄級だね。」
ライオベントが一歩下がる。
「そして人間です!」
イズミが更に一歩詰め。
「そ、そうだね。」
ライオベントが一歩引く。
「つまりダイ『こら』ジンにはなれたわけです!」
イズミが更に一歩詰め。
「うん??ダイ・・・テツジン・・・?」
ライオベントが一歩引く。
「来年になったら大鉄級の人間で17歳になるんです!」
イズミが更に一歩詰め。
「そ、そりゃまそうだね、道理にかなってる。」
ライオベントが一歩引く。
「わかりますか!?大『やめなさい』7なんですよ!さすがにあたしだって鉄級の人間28歳は諦めました。でも来年くらいなら諦めたくない!」
イズミはずんずん踏み出しグイグイ詰め寄る。
「うん??う、うん???」
ライオベントは困惑しながらどんどん後ずさりしていく、そうしてついに壁際に追い詰められてしまい、背中がドンッと壁に当たる。
「ひぇっ!?わ、分かった!分かったよ。全然分かんないけどとにかく分かった。昇格は無し、それでいい?」
イズミの謎の迫力に冷や汗をかきながらライオベントが言うと
「はい!それでお願いします!」
彼を追い詰めた少女はニッコニコの笑顔で答えた。
「ふぃ~・・・やれやれ、イズミちゃんは変わった子だねぇ・・・」
ライオベントは長いため息をついた後に天を仰ぎながらぽつりとつぶやいた。
そうしていると呼び鈴が鳴り、ライオベントが対応してアリサが入ってきた。
「ゲナウさん、先ほど降りてらっしゃって挨拶された後マシュー商会の方へ向かわれましたよ。無事治ったみたいで本当に良かったです。イズミちゃんありがとう。それと先ほど団長さんがいらっしゃって伝言を預かっています。三日後今日と同じ頃に迎えにあがるとのことです。」
マキシマイズ! ‐こっち世界なら目立たないって話だったので‐ たまにわ @tamaniwa
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