第12話 実験

「なるほど、魔法はイメージ、科学の知識も役に立ちそう。」

 指先から水をちょろちょろと滴らせながらイズミがつぶやく。

「そうなの?でも確かにイメージが難しい水の魔法も簡単に出せちゃうなんて・・・どんなイメージなのかしら」


「うーんそうだなぁ、今みんなが吸ったり吐いたりしてる空気は空気っていう物質じゃないんだ、目には見えないとても小さないろんな種類の粒が混ざってるの、その中に酸素と水素っていう二つの物も含まれてるんだけどその2種類の粒を水素が2つ、酸素が1つで組み合わせると水ができるんだよ。そういうイメージなんだけど・・・」


 それを聞いたベスペキネは人差し指の先を顎に当ててしばらく考えたがやがてかぶりを振った。

「想像もつかないわ、あたしには水が流れる様子をイメージする方が簡単。」

 そう言いつつ自らも指先からジョボジョボと水を垂れ流す。


「あー、まぁ子供のころからそういう教育を受けてるって言うのもあるのかなぁ」

 そう言いながら今度は風をクルクル回してと弄び始める。

「教育・・・そう言えばずっと気になってたんだけど、イズミって最初にとんでもなく上等な服着てたよね、その上教育って、やっぱり貴族だったの?」


「まっさかぁ、違うよ、ド平民のパンピーだよ、あたしの国では6歳になる年から15歳になる年まで国民全員が学校っていう場所で教育を受ける義務があったの、だから本当にごく一部の特殊な場合を除いて国民は全員読み書きや計算やさっき話に出てた科学の知識を持っていたの。」

 左手を顔の前で振って否定する。

「え!?パンピーがなんだかわからないけど信じられないわ。素晴らしい国だったのね。」


「そうだね、本当に平和で安全で、とってもいい街だったな・・・」

「あっ、イズミ・・・ごめんなさいあたし」

 ベスペキネが泣きそうな顔をしているとイズミはニヘッと笑った。


「大丈夫!さっきは少し感傷的になっちゃったけど、実はもう結構吹っ切れてるんだよ。それにさっき言ってくれたよね。アリサさんやネティさん、ベスペキネ、あなたもそう、とても大切なあたしの友達、だからあたしは一人じゃない。寂しくなんてない。」


 そう言ってニコニコと笑う笑うイズミに堪らなくなったベスペキネが抱き着いた。

「イズミー!」

 ネティは少し離れたところで恍惚としてビクンビクンと痙攣している。


『イズミ、大変なことが判明しました。先ほどの説明に有ったオドからマナへの変換、イズミ本人に加え我々ナノマシンユニットも実行できるようです。次元庫を経由して無数に存在する我々を利用することで、イズミはこれをほぼ無制限に行えます。また魔力切れとは一種の疲労のようなものだと思われますが、我々に疲労はありません。つまりイズミは無限の魔力線と無尽蔵の魔力量を持っています。我々にはこれ以上の進歩は無いと思っていましたが、こちらに来てまさかのブレイクスルーが発生しました。これは革新的なエネルギーです。』


 イスミはなんかヤバそうなことを聞いた気がすると思ったが、それはそれとしてもし本当にそうであるなら少し試したいことがあった。


「ちょっと試したいことがあるの、多分大丈夫だけどもしかしたら危ないかもしれないから少しだけ離れててね。」

 そう言って少し離れたイズミは両掌の間で上から空気を取り込み、螺旋状に空気を回転させ、徐々に圧力をかけて絞り、特定の気体だけを残して残りを下から排出、同時に残された分子の動きを抑制、つまり温度を下げるように意識する。


『その程度の容積ならば圧縮中の急激な開放による爆発、もしくは直接手で作用している空間に触れるなどしない限りは事故は起こらないでしょう。』

 イズミの意図を理解したナノマシンユニットの後押しもあり、ビュウビュウと音を立てて渦を巻く風の塊はどんどん圧力を高め、その温度を下げていく、内包する気体の圧力で風の塊は丸くなっていった。


「イ、イズミ・・・あなたの魔力線・・・とんでもないわ」

 イズミから発せられるとんでもない魔力の波動にベスペキネは少し顔を青ざめながら2歩ほど後ずさりした。


「なんだ!?何が起こってる!?」

 上階から焦った顔のライオベントがすっ飛んできた。

「ちょっと練習も兼ねて科学と魔法の実験を、事故ったりしないと思うので安心してください。」

 イズミが集中したまま答える。


「このものすごい魔力の波動はイズミちゃんかぁ、ちょ、お、うわぁ・・・なんだ、ありゃ・・・」

 イズミの両掌の間で風切り音を立てながら渦を巻く空気の塊にその目を剥いた。


「できたかな?」

 イズミ徐々に風を抑えて圧力を下げていく、するとその拳より少し小さな球状の白い物がポトリと落ちてコロコロと少し転がって止まったので完全に魔法を解除した。


「これ一体何だい?氷・・・とは少し違う感じだね。」

 ライオベントとベスペキネ、ネティの三人がしゃがみ込んで球を見る。


「氷ですよ。これはドライアイスって言って空気に含まれる二酸化炭素っていうものを冷やして圧し固めたものです。厳密には違うんですけど簡単に言うと空気の氷です。普通の氷と比べてめちゃくちゃ冷たいので素手では長時間触らない方がいいです。」


「なるほどねぇ・・・カガクってやつかい?」

「魔法と科学、二つの夢を彷徨さまようファンタジーです。」

 ライオベントの問いに得意げな顔で謎の答えを返したイズミだったが


「「「?????」」」

「あー、そりゃそうだよねぇ。えーっと、科学を魔法で再現してみたって感じです。」

 当然ながら三人には理解されなかったので無難な答えを返しておいた。


「へー、確かに普通の氷よりも冷気が強い気がするわ。」

「しばらく経って小さくなってるのに水が出てないですね。」

 イズミ以外の3人は興味深そうにドライアイスをつついて転がしたりしている。


 イズミはこれができたってことはもっと規模を大きくしてあれをあーしてうまいことすればあれができるかもしれない、ぶっ放すことはできないけど考えるだけでも楽しいなぁ・・・ととあることを妄想をしていた。


 そうこうしているうちにゲナウの治療が完了する時間が近づいてきた。

「そろそろゲナウさんのところに戻りましょう。治療が終わる頃合いです。」

「お、それじゃあおじさんも同席させてもらってもかまわないかな?」

 イズミの提案にライオベントが答え、残りの二人は不安そうに頷いた。

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