第10話 バックストーリー

「まぁそりゃそうだよねぇ魔法が使えない人間なんてこの世界にはいないもの、でも使ったことがないなんて珍しいね。イズミちゃんの故郷ではカガク?だっけ?そのおかげで必要に駆られないから発達してないってところかな?」


「そうなんですかね?あーでもそうか、なんかそれっぽい人たちの話は色々あったなぁ、あの人たち魔法使いだったのかな?まぁ、あたしの故郷はもう街ごと、ううん、もしかしたら国ごとかも、きれいさっぱりこの世から消えて無くなっちゃったんですけどね。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、友達も、みんな、みんないっしょに・・・」

 途中まであっけらかんと話していたイズミだが話すうちにぽろぽろと涙をこぼし始めた。


「あ、こりゃ、ごめんよ悪いこと聞いちゃったね・・・」

 アリサとベスペキネとネティが三人でイズミをギュッと抱きしめた。

「大丈夫よイズミちゃん、あなたは一人じゃないわ。あたしたちはみんなあなたの味方よ。あのデリカシーのないオッサンは減俸2か月、減らした分はあなたの協会口座に振り込むわ。慰謝料よ。」

「え?アリサくんそれマジで?」

 ライオベントの顔がサッと青くなった。


「イズミ、あたしはあなたのこと友達だって思ってるわ。あのデリカシーのないオッサンは元は高名な冒険者で今は協会長、きっとお金ならたくさん持ってるわ、2か月や2年くらい減俸でもどうってことないはずよ。」

「え?ちょ、さすがに2年はエグくない?」


「イズミさんはゲナウさんを救ってくれました。返せないくらいの恩があるんです。これはもう大事な縁ですよね。あのデリカシーのないおじさんは何ならしばらく無給でもいいくらいです。」

「え?あ、いやおじさん給料無しはちょっと困っちゃうかな」


「俺こういうの弱い」

 4人が抱き合って泣いている中スカムベも右手で顔を覆っていた。

「え?え?マジで減俸食らうの?マジで?アリサくんちょっと?」

 ライオベントも泣いている。


 皆が落ち着いた頃、ライオベントは先ほども思い浮かべた文献のことを改めて思い出した。

 何千年も前に天に届くような巨大な光とともに島ごと消失したという国、そこでは魔法とは違う技術が発達していたという。

「ミライテクノロジージッケン・・・えーっとなんだっけなぁ」


 その言葉にイズミは口を開けてポカンとした。

「え?それ・・・なんで?」

「あーなんだかそういう長ったらしい名前の国では魔法じゃない技術が発展してたっていう伝承があってね。昔わざわざ神様がお告げで教えてくれたとかで、文献に残ってるんだよ。」


「未来テクノロジー実験都市、高天原たかまがはら・・・あたしの故郷の名前です。それで、あの、信じられないかもしれませんけど神様が転移させてくれまして。」

「あぁー、やっぱりそういう感じなんだね。大体おじさんの予想通りだから信じちゃうよ。まぁその辺の細かいことは有耶無耶にしちゃって大丈夫だからテキトーにね。それで・・・ごめんね、余り思い出したくないかもしれないけど教えてくれないかな、イズミちゃん以外にはその国の人はいるのかな?」


「いえ、あたし一人だけが生き残って・・・あっ!」

 イズミはふと思いついた。


 この世界で存在し滅びたことになっている自分の故郷と同じ名前の国、わざわざお告げで知らされた伝承というのも引っかかる。

  地球の神はこちらのことを上位の神々が管理する世界だと言っていたことを考えると、自分がこちらに来ることは連絡されていて、突然この世界に現れた自分のバックストーリーのために用意されたものだろう。


「うん?何か思い当たることでもあったかな?」

「あ、いえ、何でもないです。生き残りはあたし一人で間違いないです。」


「なるほどぉ、そうなってくるともう一つのアレもイズミちゃんのことだろうねぇ。」

「もう一つのアレ???」

 ライオベントの言葉に首を傾げるイズミ。


「そこんとこは多分この国で一番偉い人が教えてくれるよ。またその内お呼びがかかるだろうからその時にね。ところで、お昼ごはんにしない?おじさんお腹空いちゃったよ。」

 ライオベントはにやりと笑い、それをはぐらかして昼食を勧めた。


 昼食後、アリサとライオベントは業務に戻った。

「ねぇイズミ、こんなことじゃお礼にもならないけど魔法の使い方を知りたくない?」

 ベスペキネがこう切り出し

「いいですね。ゲナウさんが目覚めるまでまだ時間もありますよね?そうしませんか?」

 ネティも乗り気で

「素敵!お願い!まさかあたしが魔法を使えるようになるなんて、やっぱりファンタジーはマイトアンドマジックだよね!」

 イズミはうっきうきだ。

「「「???」」」

 何を言っているのかは分からなかったが・・・

「ま、まあとにかく行ってくるといい、ゲナウは俺が見ていよう」


 スカムベにゲナウを任せ、三人はギルドの地下訓練場にやってきた。

「よし、じゃあまずは基本的なとこね!」

「はい!お願いしますベスペキネ先生!」

 イズミに先生と呼ばれたベスペキネは真っ赤になった。

「せ、先生はやめて、とにかく、えーっと・・・」


「ふふ、ベスペキネ、代わるわね?イズミさん、この世界にはオドと呼ばれる魔法の元になるエネルギーが満ちています。これは判りますか?」


『この惑星の中心部から湧き上がるように噴き出す未知のエネルギーが検知されています。おそらくこれがオドと呼ばれるものだと思われます。』

「ふんふん、なるほど、わかります!」

 わかるのはナノマシンユニットだがそれもイズミの力の一部と考えれば問題なかろうとイズミは考えた。


「そのエネルギーを体内に取り込み、利用できる形に変えたものがマナと呼ばれ、これを変換する能力のことを魔力線、一度に変換できる量が多い人は魔力線が太い、その逆を細いと評されます。そしてこれを扱うことのできる総量を魔力と呼び、多い少ないでその優劣を評します。つまり魔力線の太い人はそれだけ強大な魔法を、魔力が多い人はそれだけたくさんの魔法を使えるということです。」


「あたしは魔力は多いんだけど魔力線が細いの、地道に訓練すれば少しずつ改善するんだけどとても大変で、魔力線の太い人から矯正訓練をしてもらえばもう少し効率よく太くできるんだけど弟子でも無ければとても高額なの。」

 ベスペキネがションボリする。

「ベスペキネ・・・」

 そう言えばゴブリンがそんなこと言ってたな、とイズミは思い出した。


「さぁ、ともあれ実践です。ペスペキネ、お願いね。」

 微妙な空気を打ち払うようにネティがパンっと一拍した。

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