第9話 報告

「アリサさん!会議室を開けてください!!早く!!」

「イズミちゃん!?え!?さっき王城に・・・キャアア!!ゲナウさん!?分かったわ!すぐに開ける!」

 協会に駆け込んだイズミの剣幕に驚いたアリサだったがゲナウを見るや慌てて2階に駆け上がり会議室を開けた。


 イズミも続き、会議室に入るとすぐに医療ポッドを生成した。

 霧が集まるように金属質の物体が現れるのを見たアリサは驚愕する。


「これは!?イズミちゃんあなたいったい・・・」

「話は後で、まずはゲナウさんです。」

 アリサと協力してゲナウの上半身を脱がし、ポッドに横たえるとガラスのようなフタが閉まり、中に液体が満たされる。


「え!?これ大丈夫なの!?」

「使うの初めてだけど大丈夫、だと思います。アリサさん、防音の魔道具を。」

「え、ええ分かったわ。」

 アリサがドアについている金属プレートを操作すると施錠され、聞こえていた1階の喧騒がぴたりと止んだ。


「これで大丈夫だよね。」

『はい、問題ありません。肉体の修復に7時間48分必要、状態は随時モニタリング可能です。』


 チリンチリン

 そんな音が聞こえアリサが誰何をするとライオベントと鋼の心の面々だった。

「イズミちゃん」

「大丈夫です。入れてあげてください。」


 鋼の心の面々は液体につかるゲナウを不安そうな面持ちで眺めていた。

 ライオベントは

「これは・・・イズミちゃん、ゲナウくんは助かるのかな?」

「大丈夫、夕方には元気になります。ネティさんはもう平気ですか?」

「あ、はい、少し自然回復しましたので」


『イズミ、どうやら魔力とはこの惑星の大気中に満たされたエネルギーのようなものを様々な用途に変換して使用するためのスタミナのような物のようです。』

「なるほど、全力疾走でへとへとだったけど少したって落ち着いたみたいな感じかぁ・・・」

「え?あ、そんな感じ・・・なんですかね?」

 ネティは首を傾げた。


「さてそれじゃあ、鋼の心の諸君、何があったのかな?」

 それぞれ適当な席についたところでライオベントが切り出した。

「俺たちはマシュー商会のムドロブさんからの護衛依頼を受けて王都から東、リンデライトへ向かっていた、直轄領からカルメオ領へ領境を跨いでしばらく進み最初の集落から煙が上がっているのに気が付いた。行商で寄る予定だった集落だったこともあり様子を見に行ったが集落は全滅、男の死体しかなかった。これは良くないとムドロブさんも行商を中止、協会へ報告に戻ろうとした時にゴブリンの奇襲を受けた。通常よりもはるかに強力な個体4匹とさらに強力なリーダーと思しきものが1匹。」


「あたしの鑑定眼ではゴブリンブレイブソルジャー、強力な一匹はゴブリンブレイブソルジャーチーフと出ていました。」

 スカムベが答え、ベスペキネが補足する。


「何とかかんとかギリギリで5匹を片付けたがゲナウがリーダーの個体と相打つ形になってしまった。完全に致命傷だったがムドロブさんが商会の上級回復薬なら助けられるかもしれないというのでそれに頼り、ネティが回復魔法をかけ続け大急ぎで帰還したというわけです。」


 スカムベの報告にライオベントは顎に手を置き思案する。

「聞いたことないモンスターだね、しかし、ソルジャー・・・兵士、ね。しかも隊伍を組んでいたと、それに集落に女性の死体が無かったんだっけ?おじさん超ぉー絶に嫌な予感がするね。アリサくん、緊急調査、銀級以上で参加数上限なしね。」


「はい、この場で書類は作成済みです。今日はもう出てしまっているパーティーが多いので明日の朝貼り出します。承認をお願いします。」

 アリサがサッと書類を差し出す。


「さすがだねぇ、いつもいつも優秀でおじさんほんと助かっちゃうよ。あとでハンコついて届けるね。それで、イズミちゃんゲナウ君だけど。」


「あ、はい、それじゃあゲナウさんが助かったことについて、皆さんは心臓や脳がどんな働きをするものかわかりますか?」

 イズミが問い。

「えっと・・・脳は考える場所?で心臓は血のめぐりを作る場所」

 それにベスペキネが答えた。

「そう、じゃあどうして血を巡らせるかわかる?」

「・・・わかんない」

 全員が首を振った。


「あたしたち人間を含め大抵の生き物は生きるためには酸素という物が必要不可欠なんです。これを全身に届けるために血流があります。酸素の供給が滞るとその部分が死んでしまいます。心臓が止まって血の巡りがなくなって時間が経てば経つほど体が死んでいきます。そして死んでしまった脳は機能を取り戻すことはありません。今回ゲナウさんは確かに心臓や呼吸が停まって死亡と言える状態になってしまいましたが、心臓が止まってすぐの状態だった。その場ですぐに身体に保護を掛けたので助かりました。とっても運が良かったんです。」


「なるほどねぇ、なんとなくだけど分かったよ。ところでイズミちゃん、その知識はどこで?君が身体強化を使わずにとんでもない力を発揮してるのと関係あるのかな?」

「身体強化無し!?」

 スカムベが驚愕の声を上げ他の面々も一様に驚いた顔をしている。


「あー、それはですねー、あたしも強化はされているんです。皆さんとはアプローチが違うというか、皆さんが魔法の技術で発展しているのに対してあたしが住んでいたところはそれとは別の、科学という技術が発展していたんです。科学というのは自然の中で起きるあらゆる現象に対してなんでそうなる、どうすればそうなる、っていうのをどんどん突き詰めていく学問です。その遥か延長上にあるのがあたしの使用している力、って感じですかね?」


 その答えに顎に手をやり考えるライオベント

「なるほど・・・確かはるか昔そういう大陸があったって文献が・・・だから魔力の波動が感じられないのか・・・よし、イズミちゃんにはおじさんから一つアドバイスをあげよう。」

 彼はひとしきり考えた後にやりと笑った。


「なんですか?」

 キョトンとするイズミ。

「こういう時はね、内緒♪って言っとけばいいんだよ。力の起源を明かさないなんてのは冒険者じゃ当たり前だからね。じゃあイズミちゃんは魔法は使えないのかな?」


「え?魔法?どうなんだろう・・・使ったことないな・・・」

『おそらく使用可能だと思われます。』

「あー、うん、使ったことないんですけど多分使えます。」

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