第7話 困っちゃう

 イズミの言うようにそろそろ暗くなってきたのでキュークス殿下を馬車に戻し。

 サイズが合わなかった馬車の頸木を無理矢理ワイバーンの尾に括り付けて出発した。

「ギョエェ・・・」


 王都までの道すがらイズミは考えた。

 ざっと見積もって団長でワイバーン2体分くらい、団員たちは大体1体分に届くかどうかといったところ。

 もしや自分はこの世界でも割と強い方なのだろうか?


 よくよく考えれば地球を滅亡させるような能力があるのだからそれも当然だ。

 まぁそれでもまだ見ぬ実力者もいるだろうし地球にいるよりは目立たないだろう。

 あのままあっちで過ごしていれば実験動物のように扱われたかもしれない。

 気ままに生きられるのはいいことだ。


 惜しむらくは新しいオタク文化が見られないことか・・・


 いや、いやいや?ファンタジー世界の真っただ中、一生かけて味わうことができる超々巨弾コンテンツ、しかも自分の能力ならばアレやこれやが再現できるのでは?


 そんなことを考えているうちに街門が近づいてきた。

「イズミ殿、そろそろ街門だが我々は別の入口へ向かうことになる。ワイバーンの死体は予定通りギルドに預けていただけるだろうか?」


 イズミは、あ、街門でそれっぽい人を見たことないと思ってたけど貴族の方々用の通用門があるんだな。

 とそんなことを思いながら

「了解です。それではー」


 一行と別れたイズミは街門に向かい門衛に冒険者証を提示する。

「ん?あれ!?君お昼ごろ銅級じゃなかったっけ・・・?」

 門衛は混乱したが判定の魔道具は問題なしになっている。

「昇格しました!」

「あ、あぁ昇給・・・まぁこれに何も出ないってことは大丈夫か、通っていいよ」


 暗くなった街並は建物から漏れ出る光が幻想的で昼の雑踏とはまた違う雰囲気を醸し出していた。

「うん、やっぱり来てよかった。」


 冒険者協会の建物からも光が漏れている。

「ただいまー、まだ大丈夫ですか?」

 業務の終わりが近く、魂の抜けたような表情で窓口に座っていたアリサの表情がパッと明るくなった。


「おかえりなさい、イズミちゃん。協会はいつでもウェルカムよ!でも夜中になると交代要員の人に変わっちゃうからできたらあたしがいる時間に来てくれた方がうれしいわ、だってあたしがイズミちゃんに会いたいんだもの。」

「わぁ、あたしもアリサさんに会いたいです!夜遅くなっちゃったら朝になってから報告に来ますね!それじゃあ査定してきます!」


 査定カウンターに着くと相変わらずドワーフの男が豪快に笑いながら対応する。

「おう!嬢ちゃん、今日は何だ?ガハハ!」

「依頼のブレードウルフとあと別口があるのでそれはまた後でお話ししますね。あ、そうだ、お名前を聞いてませんでした。」


「おうおう!そうだな!俺はマツバラってんだ!よろしくな!」

 それにイズミはとても驚いた。

「え!?マツバラさん!?マツバラさんて松原さん!?もしかして日本って国のことを知ってますか!?」

「んん?んんん?俺はマツバラだ、松の生えた原っぱじゃねえぞ、あと日本?って国は聞いたことがねえな、ガハハ!」

 偶然名前の響きが同じだったらしい


「あ、そうですか。すいませんじゃあ気を取り直してとりあえずブレードウルフをどうぞー!」

 イズミはドサドサと査定台にブレードウルフの死体を積み重ねた。

「おうおう!5ひ・・・き・・・な、何だこりゃ」

 とマツバラは顔色を変えて死体の切り口を調べ始める。

 ワナワナと震える手で胴で両断された物を検分する。

「骨まで一発で両断されてやがる・・・肉が潰れてねぇ・・・ま、真っ二つになった背骨が削れても欠けてすらねえ、なんて断面だ。いったい何をどうすりゃこんな風になる」


「あの、査定は?」

 完全に自分の世界に入ってしまい、考え込んでしまっていたマツバラはイズミに話しかけられて跳び上がって驚いた。

「おわっ!?あ、あぁすまねえつい夢中になっちまって、いや、面目ねえ!ガハハ!そんじゃ査定っと」


 スポンッ!

 ジャキジャキチーンッ!

 ブレードウルフは吸いこまれ、マツバラは払い出された紙をイズミに渡す。

「よし、じゃあこいつで処理してもらってくれ、んで?別口ってのは?」


「えぇ、実は騎士団の方々からワイバーンを預かってるんです。ギルド経由で引き渡すことになってまして、5匹なんですが、台には・・・」

 イズミはそう言って台の広さを目算する。

「うーん、ちょっとはみ出しちゃうけど乗りそうですね。出しちゃっていいですか?」

「ワイバーン5匹?嬢ちゃんのはずいぶんデケェ収納なんだな。おうおう。出すのも引き渡しも問題ねぇぜ。やっちまってくれ。」


「それじゃあ、よいしょっと」

 台に載せられたワイバーンを見たマツバラは怪訝な表情で言う。

「嬢ちゃん、騎士団から預かったなんつってたがこいつぁ・・・これをやったのは嬢ちゃんだろ?」

「え!?」

「馬っ鹿オメェ、こんなもん切り口で一目瞭然よ」

「あー、あー、そうですか。」


「だがこいつを引き渡すとなるとギルドとしちゃぁカードに残った討伐実績の評価くらいしかできなくなっちまうがいいのか?」

「あ!それは大丈夫です。団長さんが十分な報酬を約束してくれているので!」

「そうか、ならいいんだけどよ!ガハハ!」

 そう言って魔道具を操作すると。


 スポンッ!

 いつもと違い死体が吸い込まれるだけだった。

「よし、確かに預かったぜ。」

「はい、じゃあよろしくお願いします!」

 そう言ってぺこりとお辞儀をしたイズミは

「アリサさーん!」

 元気に受付へと向かっていった。




 執務室、ライオベントが書類を確認しているとドアがノックされる。

「こんな時間に誰かな?はいはいどうぞー」

 返事をするとマツバラが入ってきた。

「おう、協会長殿、邪魔するぜ」


「おや?マツバラさん、珍しいね、どうしたんだい?」

 マツバラはソファに向かい腰を下ろす。

「なに、ちっと気になる冒険者がいてよ」

 その言葉にライオベントは左手をペチりと額に当てる。

「あー、あー、わかっちゃった気がするなぁ。イズミちゃんのことかな?」

「おう、話が早ぇな、まぁゴブリン騒動は協会長殿も見てたわけだしなぁ。」

「彼女がどうかしたのかい?」

 マツバラは一つため息をつくと

「実はよ・・・」


 話を聞いたライオベントは

「あー、まぁ、そうだね、あの子ならそれくらいやっても不思議じゃないんだけど、聞いた感じだとたぶん騎士団はほぼ手を出せてない感じだねぇ。単独でワイバーン5匹かぁ・・・いよいよ大鉄ってわけにはいかなくなってきちゃったねぇ、困ったなぁ」

 そう言って頭を抱えるのだった。

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