第4話 昇格とゴブリン?と

「ただいまー」

「おかえりなさいイズミちゃん、鋼の心の皆さんも」

元気に帰ってきたイズミに冒険者協会の受付嬢のアリサは内心ほっとした。

「イズミちゃん、買取希望の物や依頼関連の提出物がある場合はまずあちらの査定カウンターで査定してもらってね」

「了解です」

鋼の心の面々はそのままアリサのところで完了報告をしている。


「おねがいしまーす!」

「おう!元気のいいお嬢ちゃんだな!よろしくな!ガハハ!」

立派な髭で筋骨隆々、そして背の低い、つまりはドワーフの男が豪快に笑いながら対応した。

査定カウンターは広めで天面が金属の板で出来ている。


「ここに出せばいいんですか?」

「おうよ!大海竜でも何でもバーンと出してくんなぁ!ガハハ!」

「それじゃあ、よいしょっと」

イズミはどっさりと次元庫から薬草の山を取り出した。


「300束あると思います。」

「おうおう、収納魔法か、やるじゃねえか!それにしてもこいつぁまたずいぶん採ってきたな、ふーん、よしよし、ちゃんと根は残してきてるな、どれどれ、勘定っと」

男が鉄板を操作するとスポンッと薬草の山が吸い込まれたと思うと

ジャキジャキチーンッ!

そんな音とともにひらりと一枚の紙が払いだされた。


「おう確かに、きっちりいい状態の薬草300束分3000本納品完了だ!いやあ助かるぜ!薬草はどんだけあってもいいからな!ガハハ!こいつを受付に持ってって処理してもらってくれや!」

男はそう言って先ほどの紙を差し出した。

「うへぇ凄い便利ですね・・・これって魔道具ってやつですか?」

「おうよ!こいつで一発査定して倉庫に直行って訳よ!ガハハ!」


イズミが紙を持って受付に向かうとアリサが手薬煉てぐすねを引いて待っていた。

「イズミちゃん凄いたくさん採ってきてくれたのね!依頼50回達成で大銅級だから昇格確定だわ!」

「わぁ、早かったですね銅級おさらばするの」

「ほんとに早いわ!大体の人は一か月以上かかるのよ?それじゃあ冒険者証を預かるわね」

「どうぞ!」

「はい、確かに、それではー、今回で依頼を通算60回達成しちゃったので今後イズミちゃんは大銅級冒険者となりまーす!おめでとう!冒険者証を返すわね!」

「ありがとうございます!」


そのやり取りを見ていた鋼の心の面々もイズミを祝福する。

「おめでとう。一日でランクアップか、なかなかいないよ。」

ゲナウがそう言うのでイズミは尋ねた。

「おぉ、なかなかってことはたまにはいるんですね」

「偶にいるんだよ。丸一日夜も寝ずに薬草をかき集めて必死に昇給するバカとか」

「えぇ・・・根性ありますね」

横から斥候のスカムベが

「ちなみにそれをやったバカの名前が確かゲナウとか言ったな」

横から斥候のスカムベが言った。

「自己紹介かーい!」

思わずイズミがツッコミを入れてみんなで笑った。


そんなやり取りをしていると突然ガラの悪そうな男が割り込んできた。

「おいガキ、収納魔法が使えるみてぇだな、このゴブナン様が使ってやる。ありがたく思え」

イズミは即座に返答する。

「はい?結構です。お引き取りください。」

「あ?大銅に上がったばかりのガキが銀級の俺様に逆らってどうなるか分かってんのか」

そうして脅しにかかった男にアリサが注意を飛ばす。

「ゴブナンさん問題は困ります。ペナルティーになりますよ。」

「うるせぇ!ちょっとした勧誘だろうが!受付は黙ってろ!どうせそいつらも収納が目当てだろうよ、そこの収納も大した攻撃魔法も使えねぇ役立たずの代わりによ!」

そう言ってゴブナンはベスペキネを指さした。


「ぁぅ・・・」

ベスペキネの目からポロリと涙が零れ落ち、イズミのこめかみにビキリと青筋が立った。

その瞬間協会内の気温が下がったように感じたものはどれだけいただろうか。


「ちょっと、なんで街中に、しかも冒険者協会の建物の中にゴブリンが紛れ込んでるんですか?ちゃんと駆除しないと」

イズミのその物言いに協会にいた者たちがブハッと噴出した。


「このガキャァ!!」

ゴブナンが全力で殴りかかり。

「イズミちゃん!!」

「イズミ!!」

アリサや鋼の心の面々が悲鳴をあげ。

イズミは羽虫でも払うかのように無造作に上げた左手で迫りくる拳を止めた。


「な!?」

「え!?」

殴りかかったゴブナンも周囲の者たちも驚愕している。

そんな中イズミは右拳を握り締めメキメキと音を立てた。

その時。

「そこまで!!・・・にしといてくれるとおじさん助かっちゃうなぁ?」

突然の闖入者は上等そうな衣服に身を包んだ無精ひげの男だった。

「協会長!?」

その驚愕の声は一体だれのものだったか、複数の声が重なり合っていた。


「協会長さんなんですね、初めまして、イズミです。ところでそいつも一発殴ってきたことだしこっちも一発で手打ちにしませんか?」

イズミはニコニコ笑顔で提案した。

こめかみは痙攣していたが。


「そうそう、協会長さんだよ。おじさんの名前はライオベントっていうんだ。よろしくね。それでね、確かにおじさんもゴブリンは駆除した方がいいと思うんだけどね?多分なんだけどさ、君がそのメキメキ言ってる拳でぶん殴ったらそのゴブリン死んじゃうと思うのよ、んでさ?誠に遺憾ながらそれ協会所属の冒険者であってゴブリンじゃぁないのよ。死んじゃったら後が大変だなぁって思うわけ」

その言葉を聞いたゴブナンは真っ青になった。

確かに自分の全力の拳をあんなに簡単に止められてしまったのだ。

もしそんな相手に思いっきりぶん殴られればどうなってしまうのか、考えたくもなかった。


「やだなぁ、ライオベントさん、か弱い女の子のパンチで死んじゃう銀級冒険者さんなんていませんて!」

「そう、そうね、か弱い女の子のパンチで死んじゃうようじゃあ銀級冒険者さん失格だよねぇ、ということでゴブナン君は銅級からやり直し、反対にイズミちゃんはちょっと大銅とかって感じじゃないよね、おじさん的にはさ、もうもっとズバーッと階級上げちゃいたいとこなんだけどね、いろいろあるからとりあえず鉄、あぁー、いやもう大鉄級になっちゃおうね?」


「銅って・・・そんな・・・」

イズミは茫然自失に陥るゴブナンを見て

「もう!仕方ないからそれで勘弁してあげます。」

そう言って頬をぷくりと膨らますのだった。


「いやぁ助かった、んじゃそういうことでよろしくね。」

そう言って協会長が引っ込んだ後イズミはベスペキネをギュッと抱きしめた。

「あたしのせいで酷いこと言われちゃったね。ごめんね。」

「ううん、イズミは悪くない。それにあたし頑張って馬鹿にされない魔法使いになるわ!」


そのやり取りを見たアリサは号泣した。

「あの子たち尊すぎる・・・」




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