第3話 初めてのお仕事
イズミはアリサという名前の受付嬢とこの辺りの情勢や貨幣の価値や協会のルール、簡単な冒険者としての心得などを学んだ。
ここはゼンリョーナ王国の王都エルデライトという都市だそうだ。
「すごいわ!ほんとに賢いのね!こんなに簡単に覚えちゃうなんて、もう言葉だって違和感ないくらいよ、実は最初から分かってたって言われても納得しちゃいそう」
「そんな、アリサさんとのお勉強が楽しかったからですよ」
「アァーッ!ほんとに可愛い!!」
ずいぶん仲良くなった二人は揃って受付に戻り、イズミの冒険者登録をした。
「はい、これでイズミちゃんは銅級冒険者よ。イズミちゃんの情報は協会の魔道具に記録されで全支部で共有されるわ。これが冒険者証ね。魔法で刻印されたカードは冒険者の証としてももちろん使えるし、討伐した魔物の記録や受注した任務の記録もされるわ。とっても便利なのよ。無くしたら再発行にはとってもお高い手数料がかかっちゃうから無くさないでね。」
「ありがとうございます!魔法の冒険者証!」
受け取った冒険者証を天に掲げ、キラッキラの笑顔で見つめるイズミにアリサもニッコニコだ。
「それとイズミちゃん、その恰好は少し冒険者向きじゃないと思うわ、あたしはじめ見た時はどこのお貴族様かと思っちゃったもの、お金は持ってる?」
そう言われるとなるほど、登校中に拉致されたイズミは女子高の制服にローファーという出で立ちだった。
上等な生地でピシッと誂えられたそれは確かに貴族の子弟のような姿なのかもしれない。
街中ならばともかく、自然がいっぱいの野外活動には向いていない。
「はい、なんかやっつけた盗賊の報奨金が割りと凄い金額だったので」
「だったら安心ね、今日はもう遅いしお買い物をして休んだ方がいいわ。お金に余裕があるうちは女の子ひとりなら少しお高くても安心できるお宿にしなさいね。精霊の宿木亭がおススメよ。」
「なるほどお買い物、あ!そう言えば・・・」
イズミは商人の男から受け取った手紙のようなものを次元庫から取り出した。
それを見たアリサは驚いた。
「まぁ!?イズミちゃん収納魔法を!?」
「え?ええまぁ」
「ある程度の魔法使いなら珍しくないけれど、新人さんで収納魔法が使えるなんてとっても有望だわ!イズミちゃんすごい!これならランクアップも早そうね。」
褒められたイズミは照れながら報奨金を受け取った時のことを思い出した。
なるほど、だからあの時みんな驚いていたのかと納得する。
文字が読めるようになった今、改めて見てみると手紙はどうやらお店への紹介状のようだ。
これをイズミに持たせた彼はムドロブさんというらしい。
アリサによると王都でも有数の大店なのだそうで、どうせならと必要なものはそこで買い集めることにした。
協会と同じ通りにあるその店はなるほど確かに大店と呼ぶに相応しい偉容を誇っていた。
「デパートかショッピングモールだわこりゃ・・・」
イズミが店内に入ると貴族のように見えるというその服装のせいか、執事のような姿の初老の男が声をかけてきた。
「これはお客様、本日はどのようなご用向きで?」
「わぉ、あ、いえ、これを預かってまして」
イズミは突然のリアル執事にテンションが上がったが平静を装いながら紹介状を手渡した。
「なんと、うちの番頭を盗賊から救ってくださったというのは貴方様でしたか、イズミ様はお若いのに素晴らしい身体強化魔法をお使いだそうで、おっと、申し遅れました。私この商会の主でマシューと申します。よろしくお願いします。」
「店主さんでしたか、こちらこそよろしくお願いします!」
呼び出されたムドロブとも挨拶をしたが流暢になった言葉遣いに驚かれた。
冒険者に適した服、着替え、外套、ブーツやグローブなどを購入、試着室を借りて着替えて紹介された宿に向かった。
「いらっしゃいませーおとまりですか?」
「はい、お泊りでお願いします。」
宿では猫耳の幼女が店番をしておりその姿に大変癒された。
「おかーちゃーん」
幼女に呼ばれ、奥から出てきた女将さんはどう見ても少女で驚いた。
「え!?おかあさん!?」
「あっはっは、猫獣人は初めてかい?こんな見た目だけど多分お嬢さんよりずいぶん年上だよ。朝夕食事付き、食事をしなくても料金は変わらないよ」
ということで料金を支払い、鍵を受け取ったら早速夕飯をいただくことにした。
ビーフシチューのようなものとパンとサラダだった。
パンは物語でよくある硬いものではなく柔らかくておいしかった。
翌朝、冒険者協会でアリサに挨拶をして薬草採取の依頼を受けた。
「アリサさん、おはようございます。これをお願いします」
「おはようイズミちゃん、初仕事ね、がんばって!」
「はーい、いってきまーす。」
森に出かけたイズミは早速発見したヨモギによく似た草を1本プチりと茎の部分で千切った。
こうするとまた生えると教えられたからだ。
「ふむん、これが薬草、今回のターゲットだね。10本で1束、5束採取で依頼一回分と、どれどれ?」
標的であることを意識するとイズミの視界に次々と赤い逆三角のマークが現れた。
「おぉ~!さすが未知の技術の結晶!便利便利~♪」
そうしてマーキングされた薬草を次々にプチプチと採取していった。
半日ほど採取をした帰り昨日の4人組と再会した。
彼らも流暢に話すようになったイズミに驚き、言葉も通じるようになったということで改めて互いに自己紹介をした。
「銅級冒険者のイズミです!」
ニッコニコの笑顔で冒険者証を掲げるイズミにほんわかした後、4人もそれぞれ冒険者証を掲げて名乗った。
「大鉄級冒険者で剣士のゲナウだ。」
「同じく大鉄級斥候のスカムベ。」
「鉄級回復魔法使いのネティです。よろしくお願いしますね。」
「鉄級冒険者で攻撃魔法使いのベスペキネだよ。よろしくね。」
彼らは4人で鋼の心というパーティーを組んでいるという話を聞いたイズミは惜しい、魂なら完璧なのに、などとくだらないことを考えた。
なおイズミは王都に着いた際、門衛にもニッコニコで冒険者証を提示してほんわかされた。
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