第2話 やっぱり定番冒険者

 目を開くと緑の草原で、そこに蝶が飛んでいるのが見えた。

太陽は一つ、おそらく街道であろう土がむき出しになったものが一本通っている。

その向こうは薄暗い森が広がっている。

植生や環境は地球とあまり変わらないようだ。

「道沿いに歩けばその内町に着くでしょ」


そうして歩き始めてしばらく、イズミの前にとあるモノが飛び出した。

「ギャギィ!」

涎を垂らし、嫌悪感を抱く表情でイズミを見るそれは腰蓑を巻いた緑の小鬼、雑魚の定番、ゴブリンと呼ばれる者であった。


「神様は魔物がいるって言ってたしどう見ても住民って感じじゃないよね。」

襲い掛かってきたゴブリンの左腕を右足の甲で蹴り飛ばす。

「ギェ!?」

骨が砕ける音が鳴る。

電光石火の一撃はその腕に留まらずその肋を粉々に粉砕し、ゴブリンは絶命した。

「ふむん?まぁ街道も近いしそこに出て来るゴブリンならこんなもんなのかな?これって売れるのかな」

そう言ってその死体を別の次元、次元庫と呼ぶことにしたそれに放り込んだ。

そこはイズミたちが住まう世界とは法則が異なり、時間という概念がない。

物が腐ることもないだろう。


しばらく道を進むと言い争うような声が聞こえてきた。

知らない言語で何を言っているのかわからない。

「あぁー!そうか、転移チート的なやつが無いから言葉が分からないんだ・・・」

近づいて見るとどうやら人間同士が争っているようだ。

荷馬車の周りに護衛らしき4人の男女、それを20人ほどの野盗と思われる粗野な男たちが取り囲んでいる。

既に数人の盗賊が倒され地に伏しているが護衛側には疲労の色が見える。

どう見ても多勢に無勢だった。


「これは、テンプレってやつだね」

謎の言語を話す見た目が可愛い少女が現れた。

衣服は上等そうで高く売れるだろう。

獲物が増えたと盗賊たちは舌なめずりをした。


護衛と思しき4人組は何やら必死に逃げるように叫んだが、イズミにはその意味は通じない。


「多分逃げろ的なことを言ってくれてるんだね。いい人たちだ。なら、よし!」

イズミはパシンとその左掌に右の拳を叩き付けるとニコリと笑い

「悪即斬だぁー!わははー!」

 そう言って野盗どもに殴り掛かった。それを見た野党も護衛も皆驚愕した。

 突然現れた小娘が謎の言葉を発し笑いながら襲い掛かって来たのだ、無理もない。


 まさかそんな真似をされるなどとは思ってもみなかった最初の男は何も反応できずに顔面のど真ん中を殴り飛ばされ、半回転して地面で後頭部を強打した。


 二人目はそれに驚いているうちにその腹に強烈な横蹴りを食らって飛んで行き、背中を樹木に強かに打ち付けた。


 残りはハッと気づいて応戦しようと思ったが自分たちの攻撃はかすりもせず、次々に殴り倒されその数がどんどん減っていった。


恐ろしくなって逃げようとする者も居たがそれすら間に合わず手下たち全員がボコボコに殴り倒された。

 素手の小娘にだ。

 それは途方もなく恐ろしい光景だった。


 全部片付いたころにはイズミは会話のパターンからある程度単語を推測できた。

幸い日本語のような文法のようだ。


「アリガトウ、タスカッタ。■■■■■■■■■、■■■■ボウケンシャ■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 戦士風の男が若干ひきつった顔で何事か言って頭を下げた。


「イズミ」

イズミは身振りで言葉が理解できないこと、を示し、自分を指さしながら名前だけ名乗った。


 そうしているうちに馬車から男が下りてきて彼もまた頭を下げた。

「■■■■■■■■アリガトウ■■■■■。」


縛り上げた野盗どもを引き連れ町へ向かう最中もイズミは会話から単語を拾い上げ言語を理解していった。

すぐに言葉を覚えるイズミの高い学習能力に皆は目を丸くしていた。

御者の男は商人らしい。

 そうしているうちに巨大な外壁が見え来て間もなく城壁に見合う大きな門にたどり着いた。

 入門待ちの列に20分ほど並び、彼らの順番になった。

戦士風の男が門衛に野盗どもを引き渡し、数種類の硬貨のようなものをいくらか受け取りそれをそのままイズミに渡した。

「トウゾク、クビ、カネ」

盗賊にかかっていた懸賞金のようだ。

「アリガトウ」

金貨のようなものが混ざっている、イズミはこれは結構な高額なのではないかと思いながら次元庫につっこんだ。

それを見た5人はとても驚いているようだった。

 身分証明書を持たないイズミは水晶のような物に触れた後、商人の男が入場料のようなものを払った。

「オカネ」

イズミがそう言って商人の男に金を返そうとしたが

「タスカリマシタ、オレイ、アリガトウゴザイマス。マタオネガイシマス。」

そう言われては仕方ないとあきらめて町に入った。


5人はファンタジックな街並に感動するイズミをほほえましそうに眺めた。

その後、商人の男はイズミに何やら手紙のようなものを書いて渡した後、分かれて去っていった。


「コトバオボエル、ボウケンシャキョウカイ、ホンアル」

戦士風の男がそう言ったためイズミは同行していた4人にに案内を願って冒険者協会に行くことにした。

「ボウケンシャキョウカイ、イク、コトバオボエタイ。」

4人組はこれを快諾、イズミを連れて歩き始めた。



「おほぉー!?ケモ耳ぃー!鱗ぉー!前から歩いてきてる人もしかしてエルフ!?あそこの人はドワーフ!?」

 イズミは通りを歩いている最中、生で見る様々な種族に興奮し、同行している冒険者たちは苦笑した。


 しばらく歩き、剣と杖が交差する看板を掲げた建物にたどり着いた。

中はイズミにとっては物語やゲームでよく見る様式の建物だった。


同行していた4人はいくつかある窓口のようなもののひとつで護衛任務の達成報告をした後、受付嬢にイズミを紹介した。


「イズミ。コトバヲオボエテ、ボウケンシャニナリタイ。」

イズミがそう言うと受付嬢がカウンターの向こうから出てきてギュッと彼女を抱きしめた。

「トッテモカワイイ」

そう言われたイズミは真っ赤になった。


同行してくれた4人にお礼を言った後、受付嬢の案内で2階の資料室に入り椅子に座って待つように言われた。

「オベンキョウノホンデス。」

そう言って本を出してきた受付嬢はイズミの隣に座り本を広げて文字を一つずつ指さして発音して教えてくれた。

ローマ字と同じ形式の表音文字と数字構成され、文字の数はそう多くないようだ。

文法は日本語に酷似している。

「たったtwenty sixのパズルで想いを伝えられるよ。ってことだね。」

一度の説明ですぐに覚えるイズミに驚いた受付嬢は彼女の頭を撫でながら

「スゴイ、カワイイウエニトテモカシコイノネ」

そう言って感心した。

イズミはまた真っ赤になった。

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