マキシマイズ! ‐こっち世界なら目立たないって話だったので‐

たまにわ

第1話 こうして彼女は異世界に

彼らはまずこの惑星の文明レベルを測り、自分たちに遥か及ばないことを確認した。

そしてそれを築いている現住生物の雌のうち若い個体のうち一体を転送によって拉致し、その身体能力や繁殖力が奴隷に適したものであると判断した。


まずは適当な地域を攻撃し、力を見せつけてから降伏勧告を出す。

それは彼らにとっていつも通りのこと、この方法で多くの星々を支配下に置いてきた。


今回もそうするつもりで攻撃を行った結果、半径数十キロに及ぶ地域が更地になった。

どれ降伏勧告を行おうかとナノマシンユニットに指令を出し、惑星内を飛び交う情報通信網から言語を吸い上げ、学習した。


はるか昔、ある日一人の科学者が完成させたそれは極微細な機械で、自らと同じものを製造して増殖した。


それは汎用性に優れ、まさに万能と呼ぶにふさわしい物で、間を措かず彼らの全ての技術に成り代わった。

神の如き力に長い年月依存し尽くし、それに合わせて身体能力や免疫力の退化した彼らにとってそれは最早命そのものだった。


脳に直接作用し、快楽そのものを得る手段を持つ彼らの文明は娯楽という物が少ない。

その数少ない娯楽の一つが奴隷を飼うという物だった。

さて、この現住生物たちを隷属化するために精神構造でも調べておこうか、そうして脳を精査し始めた彼らは驚愕することになる。


それは素手の一撃で惑星を真っ二つに分断した。

それは指先から発生させる巨大なエネルギーで惑星を爆散させた。

それは上位の次元に倉庫のようなものを持ち、あらゆる道具を持ち出した。

それは複数の惑星を巻き込み、粉砕しながらドッキングする想像も及ばぬ超巨大建造物だった。

他にも数えきれないほどの途轍もない兵器や超常の力を持つ者たち、そんな記憶がどんどん出てきた。

そして極めつけのそれは自分たちの全てと言っても過言ではないナノマシン技術を更に上回る類似の性質を持った物だった。


いわゆるオタクであるその少女の脳にはこれでもかとばかりにとんでもない兵器の情報が記憶されていたのだ。

もちろんこれらは想像の産物フィクションなのだが、その手の娯楽を持たない彼らにその判断はできなかった。


この惑星の文明レベルは低いと判断したがそれは誤りだった。

自分たちですら一つ隣の次元に倉庫のようなものを持つ技術がある。

ならばそれを上回る技術を持つ彼らは自分たちには感知できないさらに上位の次元にその文明を隠しているのであろう。

こうしている間にも恐ろしい力を持った侵略者が母星を攻めるかもしれない。

彼らは恐怖に震えながらそう考えた。


それらの情報は直ちに母星の上層部に共有された。

彼らの議会では当初、そんな恐ろしい文明を持つその惑星がどうしてこんなに脆弱なのか、捨て石にしても問題ない労働者階級が住まう植民地性のような物なのではないかという推論が立った。

しかし彼女の所属する日本というコミュニティーはその国民一人一人を大事にしており、奪われた場合は奪還にその力を尽くすというような情報が新たに得られ、即座に共有され、その考えは改められた。


対応を協議した結果、拉致した現住生物の希望をできる限り叶え、精いっぱいの誠意で謝罪することになった。


そうして彼らは捕らえた少女の意識に覚醒を促し、この惑星で最も普及していると思われる言語でその望みを問うた。

「Hello young lady, we would like to fulfill all wishes that we can. what are your wishes?」


彼女は朦朧とする意識の中で考えた。

ここはどこだろうか、事故にでもあったのか、彼らは何者だろうか、何か聞かれているようだ、とにかく名前を伝えよう。

巻島泉まきしまいずみ・・・」

その後彼女は再び意識を失った。


Maximize me.英語で話しかけた彼らは彼女の返答をそう理解した。意味合い的には自分を最大に、最高に、最強に、そんなところだろうか?

彼女の言葉を伝えられた議会は紛糾した。

この惑星の文明レベルをはるかに下回る自分たちは一体どうすればその願いを聞き届けられるのだろうか?

持てる全てで叶えるならば自分たちの命は無い。

だが半端に叶えたところで彼女は自分たちを許すだろうか?


ここで彼らは自分たちがこれまで奴隷たちをどのように扱ったかを考えた。

あんな扱いを受けるならば死んだ方がまだ幾分ましだ。

彼らは自殺を決意した。


再び眠った彼女を安全な地表に下ろした後、全てのナノマシンを譲渡した。

そうして宇宙最強を誇った銀河帝国は誤解からその文明に幕を下ろした。


眠っているイズミの身体はナノマシンユニットによって強靭に作り替えられた。

目を覚ました彼女が見たものは一面の荒野、ここで朧気だがよくわからない物と何やらやり取りをしたことを思い出した。

「もしかして、異世界転異ってやつ・・・?」

そう独り言ちた彼女に応えるものがあった。

「いいえ、それは違います。」

イズミは辺りを確認するが誰も見当たらなかった。

「え!?どどどなたですか!?」

「この惑星を管理している者です。有り体に言えば神と言ったところでしょうか」

神を名乗るそれはイズミにここに至る経緯を説明した。

「そんなことが・・・」

家族や親類、友人たちを住んでいる地域ごと失ってしまったイズミは悲しんだ。

涙も出たし気分は落ち込んだが、すぐに立ち直った。

ナノマシンユニットの影響で精神構造に変化があるのだろう。


「どうにかできれば良かったのですが、彼らの力は私の能力を大きく逸脱していました。そしてそれをすべて取り込む形となったあなたにも同じことが言えます。あなたの力はこの地球で過ごすには大きすぎます。持て余してしまうでしょう。」

生体サイボーグとでも言うべきものになったイズミは地球上で最強の生物で有り最強の兵器であった。

「そこで私よりも上位の神々が管理する別の世界にあなたを送ろうと思うのです。その世界は科学文明は未発達ですが代わりに魔法があり、それによる文明が発達しています。魔物と呼ばれる脅威があり、人々はそれらと戦いながら日々を過ごす。その世界ならばあなたのように超人的な力を発揮する者もいるでしょう。」


確かに不必要に大きな力を持って過ごすには地球はいささか住みにくい。どうせ繋がりはすべて消えてしまった。


そう考えたイズミは異世界に行くことに同意した。

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