第2話 中

河上さんと山内くんのラブコメかと思いきや、まさかまさかのライバル登場か。

 まるで少女漫画のような展開だ。

 しかし、これで山内くんも鈍感を気取る余裕も無いだろう。彼女と早乙女との関係性を察するに幼馴染というアドバンテージはもはや意味を成さないし。


 哀れ山内、お前の鈍感プレイが仇になるとは。

しかも相手はあのイケメン……うーん、山内完敗です!

 このうえは、君も「僕の方が先に好きだったのに!」と負け犬の遠吠えををして自信を慰め、ついでに負け犬汁を出しながらもう一人の自分を慰めるほかあるまい。


 いやー俺、応援してたんだけどなぁ…ぷーくすくす。


 でもこれで早乙女の席が近くになったら、他人事では済まない。

だってさ、ほら、あの2人の近くとか絶対気まずくなるし、散々ラブコメ見せられて、次にNTRって僕の脳も破壊されそうだし。


「じゃあ、早乙女の席は…只野の隣でいいか」


 只野って誰だよ…そんな奴いたか?それにしても、可哀想だなぁ只野……いや、只野って僕じゃん。


「よろしく」


 早乙女はさっき迄、河上さんに見せていたような愛想はどこへやったのか、冷たい表情をして、一言そういうと僕の隣の席へと座った。


「……宜しく」


どうやら、僕はこのラブコメ戦線からは逃れられない運命らしい。

それも、こいつのせいで修羅場ルート化することは明白だった。


 河上さんは嫉妬を隠そうともせず、なぜか僕を睨んでいるし、山内くんも後ろの早乙女が気になって仕方ないらしい。


 僕の席替え迄の数か月完全に地獄です、ありがとうございました。

 ……いや、あきらめてはいけない。そうだ、居心地が悪いのであれば良くして行けばいいじゃないか!


  正直、山内の奴がNTRされようがどうでもいいけど。僕の環境のためにも2人には前のような関係に戻って貰うほかない。


 そのためにも、僕がするべきことは……


「あーそうだ、誰か空いてる時間でいいんだが早乙女に校内の案内を……」


「先生、僕がやります!」  



「……え、ああ、じゃあ頼む」


担任教師が言い終わる前に僕は手を挙げた。

普段の僕なら絶対に見せないような勤勉さに、担任は驚いたようだったが、そんなのは些細なことだ。僕にはすべきことがある。


僕がすべきこと……それは、早乙女と河上さんの進展イベントを悉く邪魔することだ!




◇◆


とまぁ、珍しく積極性を見せてみたものの実際二人で校内を回っていると気不味い。

早乙女は何か知らんが僕を警戒してる様に感じるし、僕も何を話せば良いのかさっぱり分からない。


それにしてもコイツは実質男同士で何を警戒しているっていうだろう。


あれかな、こいつ俺が自分と仲良くなる形で寄生して、寄ってきた女子のおこぼれにたかる奴だと思ってるのかな……


その手があったなぁ……いやダメだめだろそれは。

何というか、なけなしのプライドすらも無くなってしまう気がする。でもなぁ…


ある種の妙案に気づき、葛藤している俺に早乙女は訝しげな表情をして話しかけてきた。 


「ねぇ、只野くんだっけ……?」 


「あ、うん、そうだけど」


「あのさ……何が目的なの?正直、私はこうやって近づいてこられるのとかって慣れてるけどさ。あんまり好きじゃないんだよね」


 あ?何言ってんだコイツ。誰がお前みたいなイケメンと仲良くなりたいかよ。

 そうだよ。よく考えたらコイツの面目当てで来た女子が僕を相手にするはずない、よけい惨めになるだけだろうが。


そんなのは山内くんだけでお腹一杯だっての。


「僕がそんなにプライドの無い奴に見えるか?」


「え?」


「僕はただ、自分の環境をよくするためにしているだけだよ。正直、早乙女みたいなモテそうなと仲良くしてそのおこぼれに預かろうとか考えても……ちょっと考えたけど余計惨めになるって知ってるから。」


そう、僕はこんな奴と一緒にいたところでメリットは無いのだ。

ただ、あの二人の関係が拗れて、居心地が悪くならないようにする。それだけだ。


そんな意味合いを自分だけが分かるように、含ませたつもりだった。

早乙女からすれば、わけが分からないことを言っている奴だと思われただろう。

案の定、早乙女はポカンとした顔をしていたが、その後すぐに玩具を見つけた子供のような、それでいて加虐的な笑みを浮かべた。


「只野って鈍感とか、天然って言われない?」


なんだコイツ急に。


僕が鈍感?おいおい、あの山内くんと僕を同列にしないで欲しいなぁ。

僕は寧ろ敏感だ、主に人の悪意とか視線とか……


「僕が鈍感?、そんなわけないよ。鈍感って言うのは早乙女くんの前に居た山内くんの事とか言うんだよ」


「いや、君もかなりだと思うけど……。山内くん…あぁ、美菜の隣にいた子か。彼も鈍感なんだぁ」


「彼は、鈍感が服を着てるようなもんだよ。そのおかげで僕がどんなに苦労している事か、こないだなんて――」


 結局、早乙女の校内案内は途中からは完全に忘れ去り、僕はいかにあの席が苦行に満ち溢れているの愚痴り、早乙女は早乙女で前の学校でのあれこれを僕に聞かせた。


なんでも、前の学校で惚れた腫れたの問題で、色々とひどい目にあったらしい。

今回こんな中途半端な時期に転校してきたのも、それが原因だとか。

後々になって気づいたが、僕が前の座席の二人の関係性をこいつに喋ってしまったのは完全にマズった。


これでは、敵に塩を送ったようなものだ。でもまぁ、あいつの幾つか口を滑らせていたようだし、お互い様だ。そういう事にしよう。


それにしても、男子の制服着ているのに男にも告白されるのかぁ…大変だなぁ。

まだまだ理解ある社会は遠い‥そう感じた日だった。

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