②
その日は夜から体調が悪かった。
気持ち悪くて、トイレで吸ってしまう。
早退しようと思ったのだが、桜史郎さんの機嫌が悪かったので、仕方なく、放課後まで一緒にいた。
ファミレスのメニューを開きながら、彼女はつぶやく。
「なんか最近、マンネリ化してきてるよねー」
「……なにが?」
「言わなくてもわかるじゃん。アレだよ、アレ。朝の触合い」
ぼくは「はぁ……」とため息をつく。
近頃の桜史郎さんはそればかりだ。
「……なにそのかんじ? 言いたいことがあるなら言ったら? 男っていつもそうだよねー。なにかあればすぐに黙り込んで逃げようとする」
「……言いたくないだけだから。もう帰っていい?」
「は? また家に来るんじゃないの? 帰るってなに?」
「……体調が悪いんだよ」
「でた。男特有の体調悪いアピール。うざー。ま、別にいいけど。じゃあ、お金貸して? アンタの家、結構裕福なんでしょ。おねがい」
「……え、なんで? 絶対いやだよ!」
「風俗いきたいの。しょうがないじゃん、女だから溜まるのよ」
「最低だよ、それは。貸さない! 貸すくらい別れるよ!」
「は? 男の分際で私に逆らうのかよ。いいから黙って私の言うこと聞けよ!!」
お水を掛けられる。
ビチョビチョになった顔をハンカチを拭きながら、ぼくはトイレに逃げ込んだ。
「うっ……うう」
涙がでてきた。なんでこんなことになっているんだ。
ぼくはただ、桜史郎さんと健全なお付き合いをしたいだけだったのに。
『──ほらね、言ったとおりでしょ。だから後悔するって忠告したのに』
鏡の前でぼくを見ている誰かがいた。
泥沼 凶子だ、泥沼 凶子がぼくをみている。
『女なんて所詮そういうモン。男とヤリたいだけ。オマエのことを人としてなんか見てないよ。アイツらはね、アイツらは、棒を見たら穴に挿れたいだけ』
泥沼がぼくを見ている。
泥沼が、鏡の中から、ぼくをみている。
※※※
妊娠していることに気づいたのはそれからすぐだった。
思えばずっと体調が悪かったのはそのせいだったのかもしれない。
ピルを準備しているって言ってたのに、あの人はずーっと嘘をついていた。
「……もうダメだ。別れよう」
泥沼の言うとおりだった。
アイツは最低な女だ。
完全に、ぼくの女を見る目を養えてなかった。
あんなやつに終体験を捧げてしまったのを、今でも後悔している。
「話ってなに?」
「単刀直入に言うけど、ぼく妊娠しているんだ」
「あっそ。昇したら?」
「……労わってはくれないんだな」
「別れたいって言いたいでしょ。じゃあ、別れよう。いいよー。私だって責任負いたくないし」
「……ふざけんなよ、クソが。最低だな、お前」
「は? なにが。勝手に妊娠したのはあなたじゃない。私はちゃんとピルを準備していたし。確率がゼロじゃないのはわかっていたこと。それなのに、身体を重ねあなたに責任があるんじゃない?」
「……なんなんだよ。なんで、そんな酷いことが言えるんだよ。ぼくのことを好きじゃなかったのか?」
いうと、桜史郎はぼくを嗤った。
「好きなわけないじゃんw ステータス。アンタと付き合ってたらさ、たくさんの男とヤレるんだもん。モテるの。男って、モテる女が好きじゃない。アンタって顔よくて、身体がエロいだけで、中身とか全然魅力ないし〜。もう飽きたらリリースさせて〜。本気になられたら困るからさ」
ぼくは悔しい気持ちを必死で抑えて、唇を噛みながら、帰り支度の準備を整えた。
親に相談して、弁護士を雇ってやる。
絶対に責任をとらせてやる。
男をバカにしやがって、ふざけんなよ。
「あ、そうそう。アンタの友達の瑞希くんだっけ? あの子さ、かっこいいよねー」
席を立つ、ぼくにそう言ってくる桜史郎。
彼女はスマホを開き、一枚の写真を見せながら、ぼくを嗤っていた。
「しちゃった、2P。あいつアンタへの復讐のためにあたしを抱いた。でも、本気になられるとウザかったから、動画に収めて襲われたって脅迫してる。ま、お金なら心配しないで〜。あなたの大切なお友達の瑞希くんが、私の代わりに支払ってくれるからさw」
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