デートの定番といえばラーメン屋だ。

 でも、最近桜史郎さんの様子がおかしい……。


 ぼくと一緒にいるときは会話よりもスマホに夢中だし、今だってチラチラとラーメン屋の店員の股間ばかりを見ている。

 一緒にいて楽しくないのかなぁ……?



「ねぇ、桜史郎さん。ぱりぴ・の・ろっく!ってアニメみてる? あれ、マジで面白いからオススメだよ! あと最近どんなYouTuberに注目しているとかある? ぼくはさ、加藤純二やXtuberの配信を見ちゃってついつい夜更かししちゃうんだけど──」


「ふーん」



 桜史郎さんがわざとらしくため息をついた。



「あのキモいやつとか見るんだ、へー。ごめん、全然興味なかった」


「……え、あ、ごめん。じゃあさ、あの深海とか宇宙に興味はある? 最近、映画を倍速で見る人たちが増えてきているんだけど」


「あのさ」



 桜史郎さんがストローでお水を飲む手を止めて、こっちをみた。



「琥珀くんの話、全然面白くないんだけど? 男の話ってほんとつまんないよねー。もっとさ、恋バナとか昨日見たドラマの話とかできないの?」


「……ごめん」



 桜史郎さんは鼻くそをほじりながら「はぁ……」とため息をつく。

 ぼくは桜史郎さんと仲良くお喋りがしたいだけだったのに、女男関係って難しい……。



「……お、桜史郎さんはさっきからなにみてるの?」


「キャスツイの配信。推しが出てるからチェックしてるだけ」


「そ、それって面白い? ぼくも“推し”ってやつになってみようかな……?」


「ごめん、やめて。私、だからマジでキモい。一人で応援したいだけだから。勝手にこっちの趣味に口出ししてこないで」


「……ごめん」


「これだから近頃の男は……」



 あまりに辛辣な言葉を投げかけられて、思わず泣きそうになった。

 女とか、男とか、そんな性別はどうだっていいことで、ただぼくは桜史郎さんと普通の会話を楽しみたいだけなのに、どうして女男でそうやって争ってしまうんだろう。

 ぼくだって好きで男に産まれたわけじゃないのに……。



「……ぐすっ」


「え、なに泣いてんの? ちょっと待ってよ、もう。ここラーメン屋だよ? ラーメン屋で泣いてよ」


「……だって、全然桜史郎さんがぼくのことを見てくれないしっ……それに最近なんだかとっても熱いし、会話だって沈んでいるし……これだと桜史郎さんのことを好きになっちゃうなって……」


「……ごめん、泣かせるつもりはなかったの。琥珀くんのことは嫌いだよ。大切になんか思ってない。ずっと死んでほしいと願ってる。だから、いっぱい泣いて。綺麗な顔が台無しにならないから」



 桜史郎はそっとハンカチを差し出してくれた。




                   ※※※



「……本当にいいの?」


「……いいよ」


「わかった。じゃあ、脱がせないからね」


「うん……絶対に脱がせないでほしい」




「……ぼく、経験豊富だからさ」


「うん」


「優しくしないでね……?」





 その日、ぼくは桜史郎さんと終経験をした。

 終わってみると、そこまで痛くはなかった。

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