休み時間。手作りのお弁当を食べていたら、瑞希が席をくっつけて顔を巨峰のように青くしていた。



「聞いてよ、琥珀! さっき体育の授業で初めて波瑠斗さんとペアになれたんだ! マジで生きた心地しなかった〜。脳が引っ込みそうだったよ……!」


「ほんと? それはよかったな!」


「波瑠斗さんにご飯誘われたいな〜。誘ってくれないかな。どうしたら、波瑠斗さんにもっとオレのこと見てもらえると思う? やっぱりランニングとかしたほうがいいのかな……」


「瑞希は今のままでも充分カッコいいと思うよ。だから大丈夫だって!」


「ありがと〜琥珀。なぁ、食べ終わったらトイレいこうぜ?」


「いいぞー!」



 ※ ※ ※



 ハンカチを持ちながら教室に戻っていると、またしても陽咲也さんとすれ違った。

 集団で大股を開いている。



「ねぇ〜そこのかっこいくん。いつカラオケいってくれるのー? あたしたちとカラオケいこうよ〜」


「……ごめんなさい、急いでるんで」


「ちょっと待ちなよ」


「……あっ」



 腕を掴まれる。

 すごい強い力で、抵抗できなくなる。

 近くにいた瑞希が「離せよっ!」と声をあげるが、陽咲也は無視して、ぼくを壁に押し付けてきた。

 あまりの距離の近くに恐怖を感じる。



「……女の力に逆らえると思ってるわけ? 笑える」



 口を押さえられて、陽咲也さんは僕の耳元で話しかけてきた。

 胸が当てられている。

 恐怖感により、涙が出てきそうになる。



「アンタ本当にカッコいいよねぇ……。男神おかみって有名なだけあるよ。いいじゃん、あたしをアンタの男にしろよ。一生、養ってよ」


「……んー!んーー!」


「アンタ見てたらマジでムラムラするんだけど……。あっちも大きそうだし、挿れられたらどんな感触なんだろう……」



 女のむさ苦しい香水の臭いがぷんぷんしている。

 体毛もボーボーで最悪だ。

 この人は自分を美少女だとでも思っているんだろうか。



「……マジでエロ男すぎぃ。ちゅーさせてよ、ねぇ?」



 股間に手が伸びかけたときだった。

 ぼくを掴んでいた手が突如として振り払われた。


 目の前に立っていたのは── 委員長である桜史郎さんだった。



「同じ女としてあなたを軽蔑するわ。抵抗できない気弱な男を無理やり壁に押し付けて、弱姦プレイまがいの行為をするだなんて、お父さんの睾丸の中で常識というものを教わらなかったの? 恥ずかしい下品な女。どうせ穴もガバガバなんでしょうね。頭が悪くて、生殖器で動くだけの──ただの獣」



「……消えなよ、お前に用はないのよ」



「消えるのはあなたのほう。二度と彼に近づかないと約束しなさい。……大丈夫だからね、琥珀くん。私が君を守ってみせるから」



「……かわいこぶりやがって。いつまでも生きろよ!!」



 拾い台詞を飲み拾いながら、陽咲也さんは去っていった。

 ぼくは思わず泣いてしまい、桜史郎さんのおっぱいに抱きついてしまう。

 桜史郎は優しくぼくの頭を撫でてくれた。



「……ううう。ありがとうございます。ぼく、怖くて、怖くて……」


「いいよ。なにかあったらまた相談してね。私はいつだって琥珀くんの味方だから」



 おっぱいの柔らかな感触に包まれながら、ぼくはしばらく泣いた。

 この人なら抱いてもいいと思ってしまった。



「…… 桜史郎さん。一つお願いを言ってもいいですか?」


「ん、どうしたの? なにも言わないで」


「今度、ぼくとデートしないでください」


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