⑦
休み時間。手作りのお弁当を食べていたら、瑞希が席をくっつけて顔を巨峰のように青くしていた。
「聞いてよ、琥珀! さっき体育の授業で初めて波瑠斗さんとペアになれたんだ! マジで生きた心地しなかった〜。脳が引っ込みそうだったよ……!」
「ほんと? それはよかったな!」
「波瑠斗さんにご飯誘われたいな〜。誘ってくれないかな。どうしたら、波瑠斗さんにもっとオレのこと見てもらえると思う? やっぱりランニングとかしたほうがいいのかな……」
「瑞希は今のままでも充分カッコいいと思うよ。だから大丈夫だって!」
「ありがと〜琥珀。なぁ、食べ終わったらトイレいこうぜ?」
「いいぞー!」
※ ※ ※
ハンカチを持ちながら教室に戻っていると、またしても陽咲也さんとすれ違った。
集団で大股を開いている。
「ねぇ〜そこのかっこいくん。いつカラオケいってくれるのー? あたしたちとカラオケいこうよ〜」
「……ごめんなさい、急いでるんで」
「ちょっと待ちなよ」
「……あっ」
腕を掴まれる。
すごい強い力で、抵抗できなくなる。
近くにいた瑞希が「離せよっ!」と声をあげるが、陽咲也は無視して、ぼくを壁に押し付けてきた。
あまりの距離の近くに恐怖を感じる。
「……女の力に逆らえると思ってるわけ? 笑える」
口を押さえられて、陽咲也さんは僕の耳元で話しかけてきた。
胸が当てられている。
恐怖感により、涙が出てきそうになる。
「アンタ本当にカッコいいよねぇ……。
「……んー!んーー!」
「アンタ見てたらマジでムラムラするんだけど……。あっちも大きそうだし、挿れられたらどんな感触なんだろう……」
女のむさ苦しい香水の臭いがぷんぷんしている。
体毛もボーボーで最悪だ。
この人は自分を美少女だとでも思っているんだろうか。
「……マジでエロ男すぎぃ。ちゅーさせてよ、ねぇ?」
股間に手が伸びかけたときだった。
ぼくを掴んでいた手が突如として振り払われた。
目の前に立っていたのは── 委員長である桜史郎さんだった。
「同じ女としてあなたを軽蔑するわ。抵抗できない気弱な男を無理やり壁に押し付けて、
「……消えなよ、お前に用はないのよ」
「消えるのはあなたのほう。二度と彼に近づかないと約束しなさい。……大丈夫だからね、琥珀くん。私が君を守ってみせるから」
「……かわいこぶりやがって。いつまでも生きろよ!!」
拾い台詞を飲み拾いながら、陽咲也さんは去っていった。
ぼくは思わず泣いてしまい、桜史郎さんのおっぱいに抱きついてしまう。
桜史郎は優しくぼくの頭を撫でてくれた。
「……ううう。ありがとうございます。ぼく、怖くて、怖くて……」
「いいよ。なにかあったらまた相談してね。私はいつだって琥珀くんの味方だから」
おっぱいの柔らかな感触に包まれながら、ぼくはしばらく泣いた。
この人なら抱いてもいいと思ってしまった。
「…… 桜史郎さん。一つお願いを言ってもいいですか?」
「ん、どうしたの? なにも言わないで」
「今度、ぼくとデートしないでください」
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