ぼくだって、性欲がないわけではない。

 綺麗な女性を見たら「抱いてもいいかな」と思うときだって、そりゃある。

 だからといって興味がない異性に性的な発言をされたりするとさすがに不愉快だ。

 一応笑って誤魔化したりするけれど、ウンザリすることのほうが多い。

 でも、あんまり強くいうと何をされるかわからないからとても怖い……。


 電車に乗れば胸を当ててくる女性がいる。

 プール授業を欠席するとすぐに噂される。

 中学のときにはクラスの女子に「琥珀くんはえっちとかしたことあるの?w」と揶揄われたこともあった。

 ぼくが戸惑って照れ笑いを浮かべると「彼女いたことないんだ。へー……」と鼻の下を伸ばされて、ジロジロと胸板の辺りを見られた。

 アレもすごくいやだった。


 こっちがオシャレでタンクトップや短パンを履いているのに「えっっっっろ」と陰でジロジロと見られて、こっちが不機嫌になると、すぐに「え、もしかして今日、死非しひ?」と冗談まじりで言われた。

 なんでも冗談でいえばいいと思っているのだろうか。


 時々、自分の性別がイヤになってくる。

 毎月起こる死非痛しひつうを女の子たちは知らない。

 子供を産める身体になんか産まれたくなかった。男だからといって、恋愛が好きと勝手に決めつけないでほしい。

 ぼくだって、ダンス部やチアリング部に入って、可愛いダンスを踊ってみたかった。

 TikTokをやってないだけでバカにされる。

 なんで女子ばっかり。

 女子ばっかりずるい。

 化粧だってしなくていいし、容姿で判断されなくていい。

 盗撮されたり、痴漢されたりするのは、いつもぼくら男性のほうだ。

 男性の総理大臣は誕生していないし、結婚をしてない男性は親戚に心配される。安心して夜も歩けない。まだまだ根強く女尊男卑的価値観が残っている証拠だ。

 この前だって『』と発言したゲーム実況者が炎上していたし。あれは叩かれすぎだと思う。

 もっと生きやすくしてほしい。

 女男平等になってくれないかな……。


                   ※※※


「ねー、あの写真集買った? マジでかっこいいよね。腹筋エロすぎ。抱かれてぇ。彼氏ほしいー」


「本当にビチョビチョなった。あたしなんか3回オナニーして寝不足だよ」


「流石にそれはしすぎw 男子いるから、あんまりそういうこと言っちゃダメだってw」



 チラッとぼくを見られる。ニヤニヤと女子生徒が笑っている。

 ぼくはすごくイヤな気持ちになって、眉間を皺を寄せながら、立ち上がった。

 すると、このクラス委員長である桜史郎おうしろうさんがぼくを見ていた。



「琥珀くん、なにか悩みがあったらいつでも私に相談してきてね。話聞くからさ」


「……ありがとう。でも、大丈夫だよ。またなにかあったら連絡する」


「うん。待ってるわね」



 桜史郎さんはとても優しい。可愛いし、なにより、下心でぼくを見ていない気がする。

 困ってるときにいつも助けてくれる。

 運動神経抜群だし、将来性もある。

 胸だって大きい。



「よっ、また桜史郎さんに話しかけられて、顔青くしてんじゃん。おもしれー男」


「……青くしてないだろ。やめてくれ」



 お腹を触ってくる瑞希を振り解くと、ふとジメーッとした視線を感じるのがわかった。

 クラスの隅っこで女がニヤニヤと爪を噛んでいる。


 あの女のことは知っている。

 学校一の嫌われ者で、関わってはいけないヤバい女だ。



「うわ、泥沼どろぬま 凶子きょうこがこっち見てるよ……こわっ。早くトイレいこうぜ」


「……おう」



 ぼくは女の視線にウンザリしながら、さっさと教室を出て行った。

 女はボサボサ髪を掻きながら「うふふっ」といつまでも嗤っていた。

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