⑨
その日は髪を乾かすのに時間がかかってしまって、家から出るのに遅れてしまった。
髪の毛にクシを通してから、早足で駅まで向かう。
いつもなら男性専用車両に乗るつもりが、今日は普通車両に乗ってしまった。
「(うっ……)」
車内が臭い。汚いおばさんたちが、脚を広げて、雑誌を読んでいる。
今日は日曜日だ。明日は土曜日。
だから月刊少女シャガミの発売日。
「(お風呂とか入ってないのかな……)」
すいません、と謝りながらカバンを抱いて、おばさんたちの間に入り込む。
電車の吊り革広告には芸能人のスキャンダルと共に『超イケメン俳優の衝撃マル秘ヌード』という文字が書かれている。
隣には美少年キャラが抱き合って、電車の宣伝をおこなっていた。
こんなのの、なにがいいんだろうか。
電車が走り出して数分後のことである。
ぼくがカバンを抱きながら、身を潜めていると、お尻になにか感触があるのを感じた。
「(さ、触られてる?)」
人がぎゅうぎゅうであまり確認できないが、手がぼくのお尻を撫で回して、股間の辺りに伸びていっているのがわかった。
怖くて、涙が出そうになった。
声が出ない。
ぼくの股間に手が伸びてきたとき、隣にいたスーツのおじさんがその手を掴んで、叫んだ。
「ちょっとなにやってるんだ!?」
ぼくは「はぁはぁ」と息を漏らしながら、痴漢の主を見た。
肌が荒れている、髪の毛がボサボサの女がチッと舌打ちしているのが見えた。
「こ、この人……痴漢です!」
勇気を出して叫ぶと、女は逃げるような素振りを浮かべたが、すぐに乗客に捕まえられていた。
サラリーマンのおじさんがぼくを見た。
「大丈夫だったかい? 気をつけるんだよ」
駅員に連れて行かれて、ぼくも同行することになりそうだったけれど、学校があるので断っておいた。
あまりおおごとにはしたくない。
学校で変な目で見られるのが怖いから。
あとから聞いた話だけど、痴漢女は警察にこのように述べていたらしい。
『昔からDKが大好きだった。だからついつい触りたくなってしまった。でもあの男子も悪い。なぜなら無意識のうちに痴漢されたいという雰囲気を出していたから。私はその願いを叶えてあげたまで』
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