第8話 別行動なんてするから!!

 「キャ~! 瑠々花ちゃんこれ見て!!」


 現在、僕たちはショッピングモールの二階、とある服屋に来ていた。女性ものがメインの場所なため、僕と英樹は置いてけぼりだ。


 俗に言うウィンドウショッピングというやつだろうが、ぶらぶらとみんなで歩いていた時、彩奈が急に立ち止まり、服を見て叫んだと思ったらこれだ。


 「ちょ……っ、急に大きい声出したらびっくりするじゃないの!」


 「でも見てよこれ! めちゃめちゃ可愛くない~?」


 そう言って彩奈は瑠々花に対して服を広げ見せつける。

 それは黒を基調としたフリル付きの衣装だった。ロリータチックで可愛らしいそれに、瑠々花は少し恥ずかしさを覚える。


 「これ、アタシにはちょっと可愛すぎるというか……」


 「え~? そんなことないと思うけどなぁ……とりあえず試着してみようよ! ね! ね!?」


 「いやー……そのー……」


 こうなってしまっては、彩奈はもう止まらないということをわかっていた。


 しかし、これは彼女にとって最善の選択ということも僕は分かっていた。

 そう、僕は店内に入らず廊下で待っていたということもあり、周囲の状況がよく見えていた。その中で、瑠々花の友達がこちらに近づいているということも把握していたのだ。


 今、彼女はスマホを使える状況ではない。何とか伝わってくれ……! そう願いながら僕はアイコンタクトを取る。


 「……分かった。少しだけだからね……?」


 「――っ!! 実はまだまだ着てほしいものいっぱいあるんだ~!」


 「えっ!? ちょ、ちょっと!」


 瑠々花の返事でテンションが上がった彩奈は、そのまま彼女の手を引っ張ると店内の奥、試着室の方へと進んでいった。

 少しとか言っておきながら、いざ了承を得られたらこれだ。僕は瑠々花に少し同情しながらも、少し苦笑してしまう。


 さて、ひとまず一難は去った。英樹は先ほどのやり取りの間、ずっとベンチに座っていた。僕も失礼してその隣に座ることに。


 「っと……みんなにぎやかですね」


 「んねぇ……おじさんにはついて行けねぇや……」


 さっきまで彩奈ちゃん彩奈ちゃん言っていた男が何を言ってるんだ……なんてことは口には出さない。


 ところで、部長の姿がどこにもない気がする。思い出してみれば、服を見てわいわいしている場には存在してなかったし……


 「そういえば、部長ってどこに行ったか分かりますか?」


 「あー、あいつはなんか本が見たいとか言って本屋に行ってるわ。別行動ってやつだな」


 「あー……」


 確かに、ファッションよりも、本に興味を持っている方が部長らしいかも。と、少し納得してしまった。

 ひとまず、グループのメッセージに現在地を送り、迷子にはならないようにした。


 「ところで」と、英樹がいきなり口を開いて


 「織部、部活は楽しいか?」


 「な、なんですかいきなり」


 「いやなに、ただ気になっただけさ。ほら、紫月がお前さんのことほぼ強制に近い感じで入部させてただろ? まぁ、彩奈ちゃんも割とすごかったけどな……それで、日々の人生がだんだん苦痛になりました~とか、こっちが申し訳なくなるじゃんかよ」


 なんと、英樹は彼なりに僕のことを思ってくれていたようだ。確かに、部活加入の流れで、英樹がこちらを勧誘するようなことはしていなかったことを思い出す。


 そりゃまあ、初対面の印象はお世辞にも良いとは言えないし、その後関わっていてもその印象が変わることもなかった人もいるし……でも、ここに悪い人はいないってことは、僕が一番分かっているんだ。


 「――楽しいですよ。すごく」


 僕は彼に目を合わせてそう言った。多分だけど、その時の顔は笑っていたんだと思う。


 楽しい。その一言を聞けて安心したように、英樹がふっと少し微笑んだ。その表情は、まるで僕の保護者かのようで


 「……そうか」


 英樹は、溜まっていた疲れを取るかのようにぐっと腕を上げ伸びをする。そのまま掛け声とともにベンチを立ち上がると


 「よし、俺らも別行動だ! ここにいても暇だろ?」


 先ほどまでの哀愁漂う雰囲気が一変して、いきなり活発的になる英樹。僕は慌ててその後を追いかける。


 「ま、待ってくださいよ!」


 みんなで遊ぶとか言っておきながらこの別行動。瑠々花との作戦もあるし、大丈夫なのかなこれ……




――――――――――




 少し歩いて現在は一階。英樹のことだから、「そこら辺の女性をナンパしまくるぞ!」とかふざけたことをやると思っていたら全くそんなことはなく、どうやら文房具が必要とのことで雑貨屋に来ていた。……変なこと考えていた僕がまるで馬鹿みたいじゃないか。


 隣には本屋が隣接していたので、もしかしたら後で部長とも合流できるな、なんてことを考えながら店内へと進んでいく。


 「いや~丁度ペンのインクが切れてたんだよ。忘れる前に買っちまわないとな」


 「ですね」


 「買ってくるからちょっと待ってろ」と言われた通り、僕は店内を少しうろつくことにした。

 僕はあまり自身の文房具にはこだわらないタイプなのだが、やはり陳列された商品を見ていると、そのオシャレさに思わず手が伸びてしまいそうになる。

 

 このシャーペンなんてどうだろうか? 余計な装飾が無く、シンプルにメタリック加工されている藍色のデザイン。ちょっと心をくすぐられてしまうじゃないか。


 その横にあるのなんて、シャーペン、インクペン、消しゴム、すべてが一つに合わさったものなんてあるぞ。横にいる女子高生も手に取って見ているし、やっぱ今どきの子はこういうのが……




 ……ん? 女子高生?


 僕は今一度その横姿を確認してみる……



 「!!? さ、沙織さん……!?」


 「はい……って、茂木君……!?」

 

 私服に身を包んだ彼女はとても綺r……じゃなくて!!


 まさか、こんな形で作戦失敗するとは思ってなかったよ……っ!!!

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