第9話 一度言ってみたかったんですよ。『おそろだね』って

 「ささささ咲織さん! 今日はとてもいい天気で~……」


 まずいまずいまずい。なんでここにいるんですか咲織さん……っ!!!


 「えっと……そうだね」


 あああああああああ!!

 僕が話題作り下手くそなせいで彼女に愛想笑いをさせてしまったじゃないか! しかもすごくこの場が気まずそうな感じだし……っ!!


 「茂木君は制服でこんなところまで来てどうしたの?」


 「あ―――ぶ、部活の帰りでどうしてもこっちで買いたいものがありまして……こ、このペンなんかめっちゃ多機能ですごいな~なんて……ははは……」


 そう言って僕は咄嗟に先ほど見ていた色々合体しているペンを手に取る。

 部活の帰りでも何でもないし、ただ遊びに来ただけなのだが、部活の一環(?)であることには変わりない。嘘をつくときは多少真実を混ぜろとは良く言ったものだ。


 彼女もなんとかそれを信じてくれたようで


 「分かる。これすごく便利だよね。この文房具屋さんでしか売ってないらしいから、私もどうしても欲しくて買いに来たんだ」


 「そ、そうなんだ。咲織さんって文房具好きなんだね」


 「そうなんです! 私は――」


 ……あれ? 今もしかして会話が弾んでる?


 苦し紛れに出した言い訳である文房具。彼女はそれを好んでいたおかげでこうして楽しく会話ができている。しかも彼女の好きなもので!

 これは好感度アップ間違いないのでは……?


 「――まさか茂木君とこういう話ができるなんて思わなかったです。そうだ! 良ければこれ一緒に買いませんか?」


 「え゙!?」


 彼女のまさかの提案に、思わず僕も聞いたことが無いような声を出してしまう。

 えっと、つまり、それは、お揃いってことでして……


 「私が欲しいのはこのピンク色のやつなんですけど、茂木君は何色が良いですか?」


 「ぼ、僕が買う前提で話を進められてる!?」


 「? 何も言わないから了承してくれたと思ってました」


 いやそりゃ他でもない咲織さんの提案なんだから断るわけ無い……じゃなくて!

 い、いいのかな? 自分なんかが咲織さんとお揃いにしてしまって……


 「あの、僕なんかとお揃いにしちゃっていいんですか?」


 「私、一度言ってみたかったんですよ。『おそろだね』って。実は私、誰かと何かをお揃いにしたことが無くて……」


 「咲織さん……」


 「それに、茂木く「っと、ようやく見つけたぞ。織部~会計終わったぞって……」


 最悪なことに、タイミング悪くそこに話しかけてきたのは英樹だった。どうやら会計が終わってから僕のことをうろうろと探していたらしい。そのまま見つけなければもっと話せたのに……


 しかも女子と二人で話しているところ、それも咲織さんと話しているところを見られたのだからもっと最悪だ。

 「ほうほう、なるほどね~織部」とでも言いたそうな目でこちらを見ながらにやにやしている彼。咲織は僕たちをきょろきょろと見ると


 「茂木君、あちらの方は知り合いですか?」


 「そうなんだよかわい子ちゃん。実は織部とは「よ~し! そろそろ戻りましょうか英樹先輩!!!」


 彼をそのまま野放しにしておけば何をしでかすか分かったもんじゃない。急いで英樹を連れてここを立ち去ることに。


 「あの……茂木君?」


 「ごめんね咲織さん! 僕たち急いでるから! それじゃあ行きましょう先輩ほら早く!」


 「おいおいもう少し会話させてくれたっていいじゃんかよ~……」


 なんか言ってるがこれも僕が平和に生きるための術だ。知らない知らない。




――――――――――




 「なるほどねぇ~? 彼女が織部の好きな人である沙織ちゃんだと」


 「……はい」


 「まさかここで会うとは思わなくてびっくりしたけど、話すことが嬉しかったと」


 「……はい」


 英樹をなんとか連行して再び服屋入り口前のベンチまで戻ってくることができた。二人はそこに座り、ふうと一息ついたところで来た質問がこれだ。もはや尋問だ。

 

 「いや~、ウブいね~! 織部! 女子と話せただけで嬉しいとかピュアすぎておじさん浄化されるっつ~の!」


 ……ぜったいこのおじさんは後でしばく。


 彼からあーだこーだ言われているのをなんとか受け流し、その数分後に彩奈と瑠々花の二人がこちらに合流した。というか、僕たちが一度離れて再び戻ってきた後でも着せ替え人形として遊ばれていたというのが驚きだ。しかもなんか紙袋持ってるし。


 「いや~遅くなってごめんね! 瑠々花ちゃんでいっぱい遊んでたら私も服欲しくなっちゃってさ~。でもでも瑠々花ちゃんとお揃いのやつもあるんだよ! ね~!」


 「……」


 「あれあれあれ? ツン子ちゃんどうしたの?」


 「うるさいうるさい! こっち見るんじゃないわよ!」


 「ほらほらそんなツンツンしないで! 今度一緒に双子コーデするんだから、ね!?」


 なにが「ね!?」なのかは全く分からないが、とりあえず彩奈のファッションセンスに合わせて双子コーデとやらを買ったのだけは理解できた。彩奈の私服は見たことが無いが、瑠々花と着る系統が全然違うということだけは分かる。女子も大変なんだなぁとしみじみ。



 ということで、部長以外の四人が再び合流し、その後グループのメッセージを確認したであろう紫月が合流。

 次はちゃんと全員揃って何かをしようとなった。現在の時刻はそろそろ昼の3時を回ったこともあり、おやつが食べたい! と彩奈が突然言い出し、次はひとまずフードコートへ向かうことに。


 この後は何もなく過ごせたらいいのだが……


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る