第7話 アタシ達、協力しない?

 「ってわけで、まずはショッピングモール!」


 彩奈を先頭に、僕たちの行く先はショッピングモールだそうだ。

 そこに行くまでの道すがらでも、様々な建物が立ち並んでいる。普段来ない場所ということもあってか、目に見えるものすべてが新鮮で、興味あるお店が複数あった。


 ……まあ、それ以上に気にしているものもあるのだが。


 「~♪」


 僕たちの遥か先を歩いている女性――咲織は、どうやら鼻歌を歌いながら進んでいるようだった。最初から行く場所が決まっているような足取り。横の建物には目もくれず、まるで目的地が同じかの様に。


 「えっと……先に別の場所見て歩かない?」


 そこはかとなく、僕は提案をしてみた。それに反応したのは紫月であり


 「いきなり何を言うんだ織部。今日は彩奈の案内に従うと約束しただろう。土壇場で予定を変更する男はモテないぞ?」


 そうなの!? 彼女の指示に従って遊ぶなんて話聞いてないし、道理でいつもはうるさいのに、ここに着いた途端静かになったわけだ。


 「そうだぞ~? せっかく彩奈ちゃんが決めてくれたんだ。俺ら男どもは楽しむだけ。そうだろ?」


 「それか、急に行きたくなくなった理由があったりしてね。アタシの憶測だけど」


 す、鋭い……


 そんな感じで、僕が多少嫌な感じの態度を見せたこともあり、彩奈が少し悲しそうな顔を見せながらこちらへ振り向く。


 「モブ君、私たちと遊ぶの嫌だった……?」


 そんなウルウルとした目をしないでくれ……

 うぅ、僕は彼女のその表情に弱い気がするぞ……?


 「い、嫌じゃないよ! 急にみんなと遊ぶのが恥ずかしくなっちゃって!」


 我ながらなんて頭の悪い言い訳をしているのだろか。


 しかし、彼女は僕の一言でぱあっと明るい表情へと変わり


 「そっかぁ! もう、照屋さんなんだから~」


 集合時の明るいテンションに戻った彩奈は、そのまま先頭の方を向きなおして進み始める。


 これは、エンカウントは避けられそうにないな……と、半ば諦めモードに斬り替わろうとしたとき、ポケットに入っていたスマホからバイブレーションが鳴る。何かの通知だろうか?


 僕はメッセージアプリ以外の通知は切っているので、誰かからの連絡なのだろう。確認すると、そこには瑠々花と表示されていた。彼女とは同じグループメッセージに入っているだけで、友達ではなかったはずだ。ということは、わざわざ何かを伝えるために登録したのだろう。えーっと、なになに……


 『あんたのさっきの変な態度、咲織でしょ?』


 !!? まさか、僕以外にそれに気付いている人がいるとは思わなかった。急いでメッセージを返すことに。


 『そうだけど、なんで知ってるの!?』


 『見覚えのある顔だったからよ。女子と一緒にいるところ見られたら気まずいとか思ってたの?』


 『そんなことない!』


 『ふーん、まあいいや。実はアタシも今ここで会いたくない人を見つけちゃってね。友達なんだけど』


 『そうなんだ』


 『そうなんだじゃなくて、アタ「モ~ブ君! 何見てるの?」


 「どわぁ!?」


 瑠々花とのメッセージのやり取り中。彩奈に背後からスマホを覗き込まれそうになり、思わず変な声が出てしまう。ってかいつの間に僕の後ろにいたんだ!?

 スマホの電源は消しているので、なんとか瑠々花とのやり取りが見られてはいないだろう。


 「す、スイッター見てたんだ。なんか面白いのないかな~って」


 「え、私もスイッターやってるよ! 後でアカウント教えるからお互いフォローしようよ!」


 「そ、そうだね」


 危ない、苦し紛れだが何とか話を逸らすことができた。

 一方の瑠々花はというと


 「ツン子ちゃん、男とメッセージ?」


 「変な言い方はやめてよね。ただの友達よ友達。こう見えて私って忙しいんだから」


 「だったらおじさんのメッセージも返してくれよぉ。俺だけ無視はひどくない?」


 英樹がぶーぶーと少しふくれっ面な表情を見せる。それに瑠々花は少し苛立ちを覚えたようで


 「だったら返信しやすいメッセージを送りなさいよ! なんなのよこの文章! 普通に気持ち悪いんだけど!」


 このメッセージ履歴が目に入らぬかと言わんばかりに、英樹とのやり取りを目の前に突きつける。どれどれと僕もそれを除いてみることに。


 そこには可愛らしい猫の写真とともにメッセージが記載されている



 『おはようヾ(^∇^)♪ ツン子チャン!♡

 今日は、ウチで飼ってる、ネコฅ^•ω•^ฅをp[◎]qᴗ•,,´)パシャリ

 どう!? 可愛くないですカ!?』



 こ、これは……俗に言うおじさん構文……??


 「これをどうやって反応しろって言うのよ!! こんなの既読無視しちゃうに決まってるじゃないの!!」


 その文面に、紫月も少し呆れているようで


 「英樹、おじさんっぽい行動はやめろといつも言ってるのだがな……」


 「なんでぇ!? みんなこんなんじゃないのか!?」


 「そんなわけないだろう……」


 紫月は呆れて、もはや何も言えない様子。


 今日はこの男に構うために来たのではない。気にせず先へ進もうと、僕たちは先程のメッセージを見なかったことにした。


 瑠々花とのやり取りも再開される。


 『そうなんだじゃなくて、アタシ達、協力しない?』


 『返信遅れてごめん。協力?』


 『気にしないで。全部アイツが悪いんだから。そう、協力。今からショッピングモールに入って、もしお互いに知り合いに会いそうになったら、その場所をメッセージで知らせるの。アタシは英樹みたいな奴と一緒に歩いてるって思われたくないし、あんたも咲織に見られたくないんでしょ?』


 『そうだね。分かった』


 『そう言ってくれると思った。今その子たちの写真送るから、雰囲気はそれで覚えて』


 そのメッセージの後、瑠々花は今ここにいる友達とやらの写真を添付した。そこに映っていたのは、前回初対面の時、一緒にいた子ではない。友達が多いんだなあと、まるで小学生のような感想。





 ということで、歩くこと数分。無事ショッピングモールに着いた僕たち。


 「服見たいし~、雑貨屋行きたいし~あとはあとは~!」……と、はしゃいでいる女子もいるが、その裏で、互いに気まずい状況を作らないようにするための協力が結ばれていた……

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