第51話
採点し終えた途端、畝村は茅ヶ谷の表情に頷いて応えつつ、そっと胸を撫で下ろすような溜息を吐く。それは初ロールプレイで難易度の高いウネという犯人役を背負わされた重圧から解き放たれたことによる安堵の吐息。
サイを演じた才原視点でも、メグを刺した箇所を詳細に言ってしまったこと以外の立ち回りはとても犯人役とは思えないもので、特にフラがナイフを所持していることを知っているとウネ自ら名乗り出たときは推理をする側の人の心理に感じて、これで犯人なんて有り得るのかと逆に疑ってしまうくらい潔白な行動だった。
結果として行動時間精査から消去法で詰まってウネが犯人だと特定されてしまったけれど、票数以上の落ち度はあまりなかったように才原は思う。
『それでは最後……才原先輩が演じたサイのハンドアウトですね。ここが先輩方みんなが気になってる視点なんじゃないですかね?』
「あっ、そうそう。あれってどういうことなのー」
「……俺も誰も、全く犯人だと疑ってなかったのに、あんなことをする理由がやっぱりないよね」
才原およびサイの投票先に関する疑問。
ほとんど確白位置に居ながら、最後の推理披露で自投票と自白をする意味。
『んー……横浜先輩や富良野先輩からだと、エンディングを迎えてもわけがわからないですよね。一応ゲームマスター視点だと、才原先輩とサイの意図は伝わってくるって感じなんですけど……それでも斜め上のカミングアウトだったなと自分も思います』
「……というか、エンディングのエピソードも、そのせいでちょっと噛み合ってなかったよね?」
『あ、そうなんですよ畝村先輩。予めこちらで何パターンかのエンディングを制作してはいるんですけど、サイの偽自白のパターンを用意してなくて、普通にウネが犯人に選ばれたときのものになっているから、サイが犯人だと名乗り出たことを揉み消したストーリーになったままなんです……このあと追加を考えないとなー……』
するとどこか恨めしそうに、それでいて戯けているように茅ヶ谷が才原をメガネレンズ越しの細目で見据える。
良い意味で捉えるなら物語の補完に一役買ってくれたと暗に言い、悪い意味で例えるなら余計な仕事を作ってくれたなと呆れている。正直どちらの解釈も可能な、メグの性分のように掴みどころのない視線だ。
「……悪かったよ、余計なことをして」
『ふふっ、違いますよ。才原先輩のような演技で製作者の想定外の展開にまで暴れられてしまうことを含めて、テーブルトークゲームの醍醐味ですから。しかも他視点では変人行動にしか移りませんが、サイの気持ちに寄り添っているのならこの行動に出るのも、全然ありそうだなって自分でも感心したくらいです……最高のロールプレイだと思います』
才原は俯き気味に聴き流したフリをする。
茅ヶ谷が予想に反してガチトーンで肯定し始めたから、どんな対応をすれば良いのか迷ったせいだ。
「サイのハンドアウト……どんな風になってたんだろう」
「俺も同感。才原のハンドアウトにはどんなことを書かれてたんだ?」
『……はい。じゃあ才原先輩はサイのハンドアウトに記述された目標を読んでもらいましょう……それが1番、先輩方の疑問符に答えられる気がしますし』
「お……了解——」
そう答えながら才原はサイのハンドアウトを、ウネ、ヨコ、フラのハンドアウトへと繋がるように、ラストピースを埋めるように開き置く。
これで図ってか偶然の一致か、4人分のハンドアウトを組み合わせて人繋がりの四角形を成す。こんなことで仲良しの証明だとするなら高校生にもなって早計もいいところだけど、嫌いじゃない意志の疎通ではあった。
「えっとじゃあ……サイの目的を今から言うぞ。まずは……自身が犯人として票を投じられないようにする3点、そしてウネの気持ちを知る2点、あと……特定の誰か(ノンプレイヤーキャラクターも含む)1人が最多得票数にならないようにする5点、って感じ」
「え……」
思わず呟かれた疑問が放たれる。
もちろん才原が呈する盤面じゃないから、ここに居る誰かだと軽く見回してみると、あからさまに口元を平手で覆い隠している畝村の姿を瞳孔が捕まえる。
「……なんか言いたいことでもあるのか、畝村?」
「……ううん。そういうことじゃないけど……茅ヶ谷さんが想定してなかった理由が分かったからさ」
『まあ。気になることは皆さん多々あると思いますが、先に才原先輩演じたサイの採点のしますね——』
手際良く進行する茅ヶ谷。
ゲーム本編が終わっても、感想戦やプレイヤーのみんなが盤面を片付けるまでがGMの役目だという矜持があるみたいだ。
『——自身が犯人として投票をされないは、まさかの自投票による1票が投じられているため達成ならず。続いてウネの気持ちを知る、これは畝村先輩演じるウネの告白を受けているかどうかなので、こちらも残念。最後に特定の誰か……ここにはメグも含まれるのですが、そのうち単独で最多得票になる人を作らない……これはかなり難関で、目的の中では最高得点に割り振っているのですが、今回の結果としてはウネに3票、サイに1票なので達成ならず……才原先輩は合計、0ポイントです』
「……はは。やらかしてるな、僕」
最後に盤面を引っ掻き回したのに、その行動も点数にも反映されない展開には、最上級の乾いた笑いしか込み上げてこない。
さぞかし横浜も富良野も、そして畝村も微妙な表情なんだろうなと流し見ると、そこに茅ヶ谷を含めても、0ポイントの才原をせせら笑う人物はいなくて、寧ろ神妙な趣きでサイのハンドアウトを凝視したままだった。
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