第49話

 富良野によるフラのロールプレイも、とにかく実直な少年という雰囲気を纏っていて、犯人ではないのに自らの行動が怪しいと認めた辺りは才原視点でも印象が良く映った。

 だからこそ最終推理議論での、他視点からは謎のカミングアウトに繋がったわけで、結果的にフラは誰からも犯人だと投票されずにエンディングを迎えた……最有力容疑者、スケープゴート位置では点数以上の名誉だと唸る他ない。


『それでは次……は、どうしましょうかね? いつもなら犯人役の人を最後に残すんですけど……自分の予想外のプレイングをした人がいますからね』

「だ、誰のことだろうな……」


 才原は茅ヶ谷が立つ反対側へとそっぽを向く。これがゲームではなく本当の事件ならあんな行動には出ないし、目的達成への決死ともいえる作戦も結局は嵌まらなかったしで、盛大にすかした面映さが彼を窓側観察者に無心させる。


『うんうん。これは畝村先輩から……ウネからにしましょうか?』

「そうね、私が目立ったところなんて犯人役であるくらいだし……才原が後回しなのは納得出来る。私もアレ、意味が分からなかったもの」

『ふふ、そうですね。特にウネ視点だと尚更そうなっちゃいますよね。というわけで、色んな意味で大活躍だった才原先輩のサイは最後に取っておきましょう』


 茅ヶ谷の不敵な微笑。

 何考えてたのと訴える畝村の流し見。

 その両方が窓ガラス越しに反映されてる。


「お先に才原……これは私のハンドアウトをみんなに開いて見せればいいの?」

『そうです。お願いします』


 すぐにウネのハンドアウトが机に開かれた状態で置かれる。場所でいえば横浜のハンドアウトと対になるように開示され、たった今窓外ウォッチングを終えて戻って来た才原からだと、4つのみのパズルピースの右下だけ大きく欠如しているような格好に見える。


「これでいいかな?」

『はい。それでは畝村先輩が演じたウネですが……ここは具体的に説明してしまうと長くなるので、まず簡潔に言うと、フラの荷物からバタフライナイフをこっそりと盗み、教室でメグを刺した犯人です』


 茅ヶ谷が淡々とウネが犯人だと告げる。

 既に大方判明していたことだけど、こうやって改まってウネが刺したんだと思うと少し胸が痛くなる。


 すると畝村は殊勝に頷く。

 ウネを演じていたのは他でもない彼女。

 誰よりもウネの痛ましさが感情に移入しているのかもしれない。


『こうなるとおそらく、ハンドアウトで経緯を知っている畝村先輩以外はなんでウネがメグを刺したんだって気になりますよね?』

「うん……ヨコからはなんか、舞台の小島から引っ越したことを妬んでいるのかなって感じだけど」

「これウネってフラと同じような境遇だったってことだよね……関係ないかもしれないけどフラのハンドアウトには、メグとその一家に復讐したい気持ちが当初はあったってあるんだよ……だからフラはなんとか踏み留まれたけどウネは……ってことなのかな」


 議論の途中で、フラはメグに対して不満をぶち撒けたと話していた。生まれ故郷から離れるしかなくなって、進学も断念して、沸々と湧く苛立ちを内心に抱え込むのも無理ないと思う。それとほとんど同様の環境に陥ったウネがメグに怨みを持つのもまた、おかしくない状況となり得る。


『富良野先輩が今言ったことも理由の1つですね。ウネも同じく小島の実家を失っていて、特待生枠を取らなければ高校に進学することすら叶わなかったぐらい火の車だったので——』


 これは要するに。ウネは頭脳を活かして進学を果たしたがために、一見してフラよりもマシな状態のように先入観が邪魔するだけで、実際は然程変わりないどころか、ウネの家の方が悲惨なまである。こういう家庭の事情を殊更比較するのは野暮でしかなく、また憶測に過ぎないが、同情の余地は少しあるように才原は感じる。それでも他人を刃物で刺すことは許されることじゃない、あくまで心情に訴え掛ける部分に限定しての言及だ。


『——ちなみに教室で、フラはメグに不満を吐き出していましたが、実はウネとメグはそれよりも前……船上で大喧嘩してます。内容はその……メグの家族を酷く罵るというか、もはや人格否定みたいなことをウネが言ってしまって、メグはメグではぐらかすような態度ばかり取って相手にしなかった……いやもう敢えて見下していた感じすらもあって、そこでまずウネの逆鱗に触れているんですよね』


 口論とは双方が白熱するのも角が立つが、一方がまともに取り合わなくなってもそれはそれで遺恨が深まってしまう。

 あくまで結果論だが、もしメグが応戦していればまた未来は違ったかもしれない。


「……小島に執着していたウネの家族が悪いみたいな口振り……って、ハンドアウトに書いてあった」

『……本当はそんなこと思ってなかったんだけどね、メグは。寧ろ心配していて、家柄なんて関係ないよって立ち回りたかったんだけど、掴みどころのない性分が災いして逆効果になってしまった。その反省を活かしてフラからの不満には真っ向から語り合って、一時的な理解は得られるんですけど……ウネとの軋轢を修繕する間もなく……』


 ウネとフラの心境の相違。

 口は災いの元というが、些細な一言で致命的な結果になってしまうことだってある。

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