第43話
実質上、ヨコはウネが犯人であると1票を投じたような格好だ。証言自体はウネへの言及はほぼしていない等しいけれど、ヨコ視点ではサイとフラが犯人候補から外れて、自殺の線も無くなった。もちろんヨコが自身を疑うこともない。居るかどうかも分からない外部犯を疑うわけにもいかなくて、仮にその外部犯が存在したとしても凶器が被る、ないしはフラのボストンバッグにナイフがあるんじゃないかと体育館に潜入して盗んだ後にメグだけを刺すのは非効率極まりなく、実効性にも欠如する。
だからこれは謂わば、消去法だ。
ヨコの視点からは、ウネしか犯人になり得ないと。
「えっと……俺も話して、大丈夫そう?」
「ああ、うん。私はもう結構長く話しちゃったし、1人で時間潰すのも良くないと思うし、後でウネの弁解もあるだろうしね。あとフラにそろそろバトンタッチしようかなと思ってたところだったし、大丈夫だよっ」
どうぞどうぞと手土産を差し出すように、ヨコは発言権をフラに委ねている。
元々切り出したのも、2人での意見交換が発端だろうから、自然な流れと言えるだろう。
「んー……俺から言えること自体はもうヨコが喋ってくれているから、ほとんど憶測での話が大半になるのは申し訳ないんだけど。俺も結論だけ先に告白すると……ウネになる。ヨコは否定してくれたけど、俺でも自分のことが疑わしいなと常々思っているし、そうなってしかるべき盤面だと考えている。サイとウネの視点だと、俺がナイフを持ち出していない証明はどうやっても出来ないし、メグの身体を刺すことも、幇助することも出来てしまう立場……だから俺から言えるのは、サイとヨコが関われなさそうだなって感覚を言うくらいなんだよね——」
フラの立ち位置はヨコの証言に助けて貰っているのみだ。逆説的に考えれば、ヨコの述べること全てが嘘だった場合、一転してフラがメグを刺した犯人の筆頭に上がる。
それこそがヨコとフラの共犯を疑いを向けられやすくなる要因にもなり得てしまうけれど、2人が共犯にしては、お互いの不利益を顧みない姿勢を貫き過ぎて、やっぱり違うんじゃないかなとサイは考えてしまう。
「——だって行動経路を照らし合わせるとさ、サイは体育館に居る時間が長くて、出る瞬間をウネが視認していた。つまりそれよりも前にウネと別れているヨコが、体育館に入り込んで俺のバッグを漁る時間がどこにもない気がするんだよな。それでもし、準備室に居たこと自体が嘘だとしてもだよ? 俺としてはその証言で助けて貰っている印象だから、ここに関してはもう、俺視点では絶対にヨコを疑えない。サイも……俺がメグと別れた後に接触するのは難しく思うけどね……だって玄関でウネと逢っているんだよね? なら時間的にも、機会的にも、サイよりもウネを怪しむことになる……」
仮にフラがヨコを犯人だと疑うとしたら、ヨコの厚意を袖にすることになる。それがフラ視点では出来ない……裏切れないのは当然だとサイは思う。そしてメグの自殺の線はフラのみ完全否定が可能だから、他の犯人は誰かとサイとウネを比較したとき、ウネとなってしまうのは仕方のないことだろう。
フラは必ず誰か犯人かを突き付けないといけない。
そうしないと、彼自身が犯人として指名されてしまう恐れがあるからだ。
その結果、ウネになってしまった。
こちらもヨコと同じく、消去法だと思われる。
「……そっか。私がこんなにも疑われてしまうのは心外で、そう言われるのは仕方ないにしても、辛いな……」
「ごめん……ヨコは信じないといけないし、サイを疑う要素を全く拾えなかった。ウネが俺と入れ違えで、準備室にヨコが居ると知っていて、擦り付ける目的もあってあの場でメグを、船上で見ていた俺のナイフを体育館から持ち出して使って刺した……これが、今のところしっくりきているから」
「うん……」
落ち込み気味に感想をぶつけるしかないウネの立場は、本当にしんどくて辛いはずだ。4人全体でも既にヨコとフラの2人に犯人だと名指しされている状況で、残されたのは控え室で犯人だと真っ先に疑ってきたサイのみ。もうどう足掻いても、それが真実でもそうでなくても、ウネがメグを刺した犯人だという民意が覆ることは皆無。
ウネはもう、犯人ではないと弁解を行うことすらも憂いているようだ。
ならば、サイが行くしかない。
「ウネが疑われているみたいだから、僕が先でも良いよな?」
「……うん」
細々とした声の肯定が聴こえる。
意気消沈といった様子のウネの横顔。
サイは暫し流し見たのち、決断する。
こんな彼女は、サイが望む展開じゃない。
「ヨコとフラがウネを疑うのは、2人の立場や視点だと仕方のないことだと僕も思う……——」
これが正しい選択なのかは分からない。
自問自答を繰り返してもキリが無い。
でも、この答えこそがサイの真理。
昔馴染みの友達であるからこその願い。
「——でも真相は違う。メグを刺したのはウネじゃなくて……この、僕だ」
「「「………………は?」」」
堂々と胸を張って、サイは自白する。
ウネ、ヨコ、フラの思考は停止している。
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