第42話
同時にヨコがウネこそがメグを刺した犯人なんじゃないかと告げたとき、ウネの様子は変に冷静だったとサイは所感する。この前にサイからも犯人扱いされたせいもあって耐性が付与されていたのか、堂々と振る舞っている方が掻い潜れそうと踏んだのか。サイは心中焦りに締め付けられながら、行く末を見守る。
「突然ごめんね。本当は私もウネのことを疑いたくは微塵もないんけど……」
「……ヨコだけが謝る事じゃないよ。俺がサイとウネに共有するべきだって、言ったからであって……」
どこか言葉苦しそうにフラがヨコをフォローする。きっとサイとウネが別室にて密談を交わしている間に、そのような結論になったらしい。
「どうして、私だと?」
「あっ、そうだよね。理由を説明しないと納得するわけない……——」
優しく自身の胸に手を当て祈るようにして、ヨコはウネにヘイトを向けた苛虐と緊張からか、やや上擦った声のまま推理を述べる。
「——まず私視点だと、サイは絶対に疑えないんだよ。私がメグが倒れているところを発見して、そんなに時間が経過せずに廊下から走って来たからね。どこかに隠れるにしたって、準備室には私が居たし、職員室とかの別室だとしても扉が開く音とかするだろうし……ウネに見られてしまう場合だってあるし、そもそもそれなら私の後に続いてメグのところに現れる必要がない……ずっと隠れておけば良かったと思うんだよ」
「……まあ、サイに関してはそうなるよね。私も疑えないなと思ってるし」
サイの犯人軸は誰の視点でも追いにくい。
それはサイ自身でも、行動経路的にそうだろうなと早々に感じてしまうくらいだ。
「ついでに言えば、血を流したメグを土砂降りなんて構わず診療所に連れて行ったのもサイ。ナイフで刺すような殺意があるのなら、そんなことをする意味がわからない。だから真っ先にサイが犯人候補から外れて……次にフラ。これはメグの自殺の場合も含まれているんだけど、私はフラとメグが教室で話している姿を目撃しているよって言ったでしょ?」
「そうね」
この発言は真実であれ、虚偽であれ、ヨコが犯人ならば自らの首を絞めかねない視認情報だとサイは思っていた。けれどそのおかげでフラとメグが教室で会話していたことの真実味が帯び、流れで準備室の利用も白状し、犯人の逃走経路の選択肢を塞ぐことに貢献した証言だ。
嘘を吐くにしてもヨコにメリットが何にもなくて、単独犯である確率がガクンと下がる。辛うじてフラとの共犯がある程度だろう。
もしウネが犯人じゃないとすれば、この場合しか現状はない。
しかしサイからは共犯の線は追えない。
メグの刺傷に複数人の怨恨が絡んでいるとは、到底考えられないからだ。
「それってサイとウネからだと、どのくらいの時間だと思ってる?」
「どのくらい……か」
「え? ああ……そういうことか——」
少し間を置いて、サイは意図を理解する。
確かにその部分は見落としていたというか、若干の先入観があったなと改める。
「——僕はてっきり、ヨコすぐにこっそり準備室に身を隠したのかなと思ってたが……長々と覗き見ていたかも知れない懸念が抜けてたわ」
「そうだよね。私はフラとメグがどのくらい教室で話していたのか正確に分かっていない……それは同時に、どのくらい2人のことを見ていたのかの時間も分かってないし、サイとウネからもおんなじなはずだよ」
このヨコの主張を要約すると、フラの発言から40分くらい話し込んでいたとあるだけで、他からの時間軸の推定は難しい。更にヨコがこの様子を見たのがどの瞬間か、またどれくらいの長さだったのかも曖昧。
つまりヨコが言いたいのは、どこで視られてしまうのかも不明な状況下でフラがメグを刺してしまうと、もれなくヨコが目撃する蓋然性が高い。例えばその覗き見た時間が数十分にも及んでいた場合、フラが刺している瞬間の目撃はもちろんのこと、ナイフを所持しているところを視認したって不思議じゃない。
「私はフラとメグが教室に居るのを、そこそこじっくり眺めていた自覚があるんだよ。だけどその間にフラがメグを刺してないし、バタフライナイフを持っている様子も、見せびらかしている様子もなかった……これって私視点だと、フラが自分のバッグの中から凶器であるバタフライナイフを持ち出していない証明にならないかな? なるんだとしたら持ち出すタイミングがみんなで別れる最初しかないフラは犯人にはならないし、同時にメグの自殺を手助けしたことの否定にもなる。とにかく私目線だと、絶対にフラじゃない。外部犯とか疑いたいけど、だからもう……この4人だったら、ウネしかいないんだよ……ごめんね」
ヨコの視点はもしかすると、サイよりもクリアで見通せる位置に居るかもしれない。第一発見者であることもそうだけど、犯行現場と近しいところに潜んでいて、体育館で別れた後にサイ以外の全員と接触している。
第一発見者であるが故に犯人じゃない否定は叶わないけれど、なんだかんだでもっとも有益な情報を残し続けていて、メグを診療所に連れて行くにも付き添っており、サイとしては単独犯でもフラとの共犯でも疑い辛く、今の発言でその傾向に促進して確信が持てる。
皮肉ながらも同時に、ウネの単独犯である確信にも変わる。
推理を当人に披露しておいて矛盾することを思うと、ウネがヨコからも疑われるのは、少々複雑な心境にサイは晒される。
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