第34話
体育館の控え室に向かったサイは、自身の手荷物を弄る素振りをしながら、メグの一件について悶々と頭を働かせる。
この控え室には元々フラの荷物もあったが、既に体育館の中央付近に移しているため、ここにはフラが赴いておらずサイ1人だ。だからこそこうして、ゆっくり思考を纏め上げる猶予となる。
率直な所感は、メグの自殺未遂も念のため片隅に残しはするけれど、これはもう刺傷事件だろうと……最悪の場合は死傷事件になり得るかもしれないとサイは結論付けている。
もし自殺を疑うのなら、状況的にそれはウネかヨコくらいなものだろう。船上か小島での上陸直後にフラのボストンバッグからメグが凶器を盗んだとするなら、その場にいないサイが闇雲に疑えはしないし、フラに至っては行動経路的に自殺の幇助を疑われているため対抗状態だ。奇しくも残された女の子2人のみが、かなりのレアケースであると承知でも、辛うじてメグの自殺の線を押せる。
しかしやはり。誰視点でもメグが刺されたと見るのが、現実的だろう。
接触時間と凶器から疑わしいフラ。
第一発見者が故に無実の証明は出来ないヨコ。
実行に移せるタイミングこそ希薄だが、絶対に無理というわけじゃないウネ。
そして誰からも難しいとされているが、盲点となる死角を突いたならまだ犯行に関われなくもないサイ。
サイによる客観的な視点、誰の手による犯行でも有り得てしまうと考える。
事件が起きれば、特定の1人のみが容疑者位置に入るわけじゃない。その近辺に居た誰も彼もに、完璧なアリバイがあると他者からは断定し切れない。
つまりは事件の犯人を推理し、尚且つ容疑者が複数人居るとき。唯一犯行が可能な人物を指差すのが理想だ。しかしそう上手くもいかない。最後には個人的な雑感の欠片を集めた上での決め付けを、他のみんなに納得させられるかどうか……もしくは、当人から自供を引き出せるか否かだ。
それを可能とする素材としては、行動経路の齟齬、凶器の窃盗と刺傷のどちらもクリア出来ること、あとは単純に失言……。
けれどどんなに脳内を巡らしてシミュレーションをしても、どんな判断を下すのかは、もうサイの預かるところじゃない。要するにサイが疑念を向けた相手の裁量、もしくは4人の総意だけが一時的な真実となる。
ただ、サイのやることはとっくに決まっている。それが本当の目的と表してもいい。
そのための最善手段は、残念ながらとっくに失われた。となるとサイが行うべきは、4人の総意の分散だ。
「……アイツを、呼ぶしかねぇか」
ぼんやりとファスナーを閉めながらサイは独り言を零す。アイツというのは、サイがおおよその見当を付けた……メグを刺したであろう人物を指している。
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