第26話
段々とメグに関連した議題の焦点が、刺されたであろう推定時刻から凶器であろうフラの調理用バタフライナイフの入手機会にシフトする。
「でもでも、たまたまサイがフラのバッグの中身を綺麗にしたままバタフライナイフを手に入れたってことも無くはないよね?」
「んーそう言われたらそうなんだけど……」
ウネとフラとしては、所在を知らなかったサイが無実である確率が高いとするなかで、まだ早計だとヨコが制止を促す。
事件でも事故でも、たまたま噛み合うケースは少なからず存在する。体育館に唯一残っていたサイは館内を巡っていた時間の長さが圧倒的で、同時に荷物を無断で漁る時間も確保出来たことになる。
「いや、俺が船の上でヨコにナイフを見せただろ? それで再度しまうときに手頃な場所にあると知ってないとあんな綺麗には探らないと思うよ。だってこの場には俺の他に全員分の手荷物があるし……というか、俺と同じときにウネも自分の荷物を確認して変に思わなかった……よね?」
「あっ、そうだね。私の荷物も詰め込んだときの記憶、そのままの状態だった……サイが凶器となり得るモノを探していたのならきっと手当たり次第、私やヨコやメグの荷物も漁るだろうし……あと、私が体育館付近でサイを見掛けたのがヨコと別れてそんなに経ってないくらいで、もしかしたら私たちの誰かが体育館に引き返す場合だってあった。そうなるとサイが他人の荷物を漁ってたら不審者だし、そんなリスクを負わずに自分で持って来た方がいいし、仮に凶器を見つけたのなら、あんなのんびり校舎裏になんて向かうのかなとは思う——」
荷物が置かれていた体育館に長居していたことでサイが若干疑われはする。だけどサイはこの中で最も他4人の情報を知る由もない人物だ。
「——それともう1つ。私はサイが関わらない証明として、ヨコの悲鳴が上がる前に私とサイは校舎の玄関口で逢ってるんだよね。そのときに凶器らしきモノ……いやバタフライナイフだから折り畳んでポケットに忍ばせてるはあるのか……」
「あっ! もしかしてサイって、私がメグを発見する直前に刺すことしか出来ない感じであってる? ウネウネ」
「……ウネウネじゃないけど、私視点ではそうなるよ。窓は閉まってるみたいだし、叩き割ったりしたら分かるだろうし、いくら廃校舎とはいえ人間が玄関口以外に侵入可能な抜け道も無い」
「なるほどね。それならウネウ……を信じるとするとね、サイがナイフを持っていることの否定は出来ないけど、サイがメグを刺せないと私は思う——」
ヨコとしてはサイのナイフ所持の否定はしにくい。ウネとフラとは異なり、荷物精査のしようがないからだ。しかしメグを刺すタイミングが難しいのなら、それでも十分信頼に値する。何故ならナイフ所持とメグを刺せる機会、双方の条件を満たさなければ、単独である場合は間違いなく実行犯ではない。
「——だってサイがメグを刺したとするじゃない? そうしたら多分、準備室に隠れるしかないと思うんだよ。だって玄関口にはウネが居るのが分かってるんでしょ?」
「あくまでその仮定をするなら……そうなるんじゃないかな?」
渋々とした表情で吟味しながらウネが肯定する。
すると自信がみるみると漲って来たかのように、ヨコが胸元に手を当て、揚々と堂々と背筋を伸ばす。
「なら、サイは絶対に有り得ないよっ!」
「え?」
「随分とはっきり断言するんだね?」
まだヨコが伏せていた行動経路を知らされていないウネとフラは、その自信に疑問形をぶつける。
だけど事前に告げられていたサイと当事者のヨコは、ウネの証言によってサイが刺傷事件への無関与の確証であると悟る。
「だって私、ずっと準備室に籠ってたんだもん」
「……へ?」
「……な、ん? そんなことさっき言ってたっけ?」
ウネとフラは、ヨコの発言に困惑する。
それも仕方ないだろう。2人は今、初めて告げられた行動経路を提示されたのだから。
「ごめんねウネ、フラ。多分このことを言っちゃったら絶対疑われると思って隠してたんだよ。メグを助けようとしてたサイにはちょっと言ってたんだけどね……ナイフのことを除けば、あんまり疑ってなかったしさ——」
ヨコが教室とほぼ対面にある準備室に居た。この後出しはヨコとフラの疑いが一層強くなり、またメグの自殺説も深まるが、サイとウネが介入出来る時間は狭くなる。
「——だけど、ウネが言ったようにサイが隠れるとしたら準備室しかないのなら、そこに私が居るから絶対に無理。間違いなく鉢合わせになるし……私そこで眠ってた時間が長いんだけど、扉が開かれたら位置的に起こされるはずだよ、寄り掛かってたし」
「……私とヨコのニアミスはあり得る?」
「うーん。でもサイは私の後に廊下を駆けて来たんだよね……多分だけど準備室に隠れたら私と鉢合わせになって、廊下を戻ったとしたらウネと鉢合わせるかもだし、フラとも逢うかもしれない? そのまま廊下に居たら準備室を出た私と確実に逢う……ニアミスがあり得たとしても、私はサイよりウネとフラの方が、メグが刺されたときは濃厚かな? サイは誰からも、どこに動いても八方塞がりでかなりキツいなって感じる」
「そうね……」
フラがナイフを持ち出すのは困難だという主張から、サイの精査をウネとヨコを交えて展開されている間、当人のサイは口数少なく行く末を見守っていた。サイ自身がメグを刺していないことを自分の中では分かっているので、変に弁解をする事も無くて、毅然とまとまっていくのを待っていれば良いからだ。
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