第21話

 今日までに赴いたサイの進路だけではどうしても限界がある経緯を、ウネ、ヨコ、フラと偶発的なモノも含めたペア行動で、メグの真相に少しでも近づいて行く。


「あっサイどうする? 私も見つけたいモノは見つけたし。そろそろ2人とも、お話しが終わった頃じゃない?」

「おそらくメグに関することだろうから、そんなに長々と与太話はしないと思うし……そうするか」

「分かった。体育館に戻ればいい?」

「おお。もし間違っていたとしても、僕たちの荷物はそこにある。体育館に居ればいずれ逢えるだろ」

「ふーん。でも、サイが言うことだからな……」

「い、嫌ならここで別行動だ」


 気怠そうに踵を返すサイ。

 そんなサイと張り合うように、すぐに早歩きで追い越して構わず突き進むヨコ。

 昔馴染みだけれど、仲良く横並んで一緒に歩くことなんて少なかったし、彼女とはどうでもいいところで小競り合いをするくらいがちょうどいいなと、サイは徒歩速度を変えず遠くを眺める。


 一応は元気ではあるようで、なによりだと。いや、反対にサイがヨコに励まして貰っていたのかもしれない。


「僕もいつもより……冷静じゃねぇみたいだな」


 メグの真実に寄り添おうとして、サイは半ば躍起になっていた。しかし異なる表現があるとするなら、それはただ現実の直視を恐れた盲目的な行動原理だったとも言える。

 まるで生死を彷徨っているメグから距離を置ける理由付けを代わりに探しているみたいで、ヨコが心情を打ち明けなければ、サイは胸の痞えが軽減されていたことにすら気が付かなかったと。


 精神的に摩耗していた。当然だ。メグに、古くからの友達に刃物が刺さって血を流し倒れているのだから。

 おかしくならない方が、寧ろ狂っている。

 でもヨコからの指摘で、僅かながらサイの視界が拡大する。実体では分かりにくいが、思考がより透明度を跳ね上げる。だんだんとクリアになっていく。


「……当時の状況的に全員とも、メグの刺傷に関われる……メグ本人も含めて。それを改めて受け入れないと話が進まない——」


 もっと誠実にのめり込む必要がある。

 メグの真相を明かそうとするだけが、サイたちの全容じゃないからだ。

 これは画面の向こうの映画でもドラマでもゲームでも無い。そう……認識を転換しなければ、本格的に始まらない。


「——メグが誰かに刺された場合……まずヨコだとしたら、第一発見者だし、刃物を突き付けるタイミングは測りやすい。非情なことを考えると、準備室で眠っていた情報が本当かどうかはヨコにしか分からないし、嘘かも知れない……あと、関係ないかもだけど、メグの状態に対して気になる言い方もしていた——」


 どんなときでも、第一発見者とは真っ先に疑惑の矛先が向いてしまうモノだ。そしてメグの第二発見者のサイ視点ではそれが確実な情報となっていることから、これがメグの自殺未遂じゃなくて刺傷事件と仮定するなら、ヨコを起点に疑いの目を当てるのが定石と言える。


「——フラだとしたら……申し訳ないけど、外的要因なら最も怪しい。話している途中で不意を突きメグを刺し逃げたのなら、あの仰向けで倒れていたメグも頷ける。あと一緒に居た時間が長くて、ヨコの証言を是とするなら視認により、メグと教室で共にしていたことまで確定……2人して口裏を合わせていることも不可能じゃないが、ここでもし共犯を追うのなら、フラが逃げてヨコが留まり続ける利がない……そもそもそんなこと、アイツが許さないだろうしな——」


 第一発見者の次に疑われるのは、接触時間の長い人物。それだけ容易く犯行に及ぶ猶予が与えられていることと同意だからだ。サイとしては事件性があるとするなら、フラがメグを刺し、準備室で塞ぎ込んでいたヨコが発見の流れが極々自然だと所感せざるを得ない。メグの抵抗や叫声が皆無だったことも、残念ながら裏付けのようにもなってしまう。


「——次にウネ。ウネが校舎に立ち寄ったのは短いみたいなことを言っていたが、これも僕以外の情報は無いし、その校舎に長居していたヨコとフラがウネと逢っていないからな……やるとしたらフラがメグと別れて、ヨコが準備室から出て行く合間ってことになるから難しくはある……でも絶対無理なわけじゃねぇな。僕からの否定もしかねる——」


 接触時間に次いで捜索の対象になるのは、被害者の交友関係だ。これはヨコにもフラにも、サイ本人も当て嵌まるから差別化のこじつけに過ぎないが、メグと1番仲睦まじかったのは、サイの認識ではウネだ。

 交友関係の歪みは、根深い軋轢に直結しやすい。世の中の事件には無差別テロや殺傷なんて表現があるが、あれは不特定多数の人間及び生物への憎悪が抑制出来なかったが故の悲劇だ。つまりは皮肉でしかないが、他者と関われば関わるほど、交友を深めれば深めるほど、その接点の拗れが憎しみに切り替わり、表面化した事件の理由になってしまう。事件とはキッカケ無くして起こり得ない。


「——まあ僕は、これが刺傷事件とはそもそも思ってない……いや思いたくはないけど、さっきまでのはあくまで、もしもの場合だ。そのときは……いや、このことは思い出す必要は今はねぇか。メグの自さ……自傷行為なら、フラと別れたあとにひっそりと可能だからな。刃物も教室のどこかに隠しておくことも出来て、小島に渡航で手荷物検査は無い……から刃物の持ち出しも出来るか。ただ、準備室にヨコが居るだなんて想定外で、発見が早まってしまった……違う? 僕やウネが後から校舎に訪れようとしたのも誤算だったのか、それが狙いだったのか? くそっ、まだ纏まり切らねえ」


 サイは独りで、人知れず頭を抱える。

 メグが刺したとしても、刺されたとしても、どちらも穴だらけで、辻褄が合ってくれない。その道筋も掴めていない。

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