第2話
俺は考え続ける。もしかしたら、救急車を呼んだけど、着いた頃には治っていたのかもしれない。一体何だったんだろう。
すると、しばらくして医者がやって来た。白衣を着ているからそうだとわかる。手には革の大きなカバンを持っている。正月に往診してくれるなんて、いいお医者さんだと思うが、かなり高齢の人だった。
医者が家に入って行き、しばらくして一人で出て来た。何だ。往診で何とかなるくらいの病気なのか。
すると、その後、黒いバンが家の前にやって来た。俺は固唾を飲んでその様子を見ていた。すると、ストレッチャーを持った喪服の男性が二人家の中に入って行き、遺体を乗せて道路に出て来た。顔には何もかけられていない。それは俺が朝見た奥さんの変わり果てた姿だった。
「え?」
警察呼ばないのか?だって自殺か急死だろ?
俺は考えた。きっと癌などの深刻な病気で自宅療養していたんだ。でも、スーパー行くか?死ぬ数時間前に?ご飯を食べる、トイレに行くくらいならわかるが。警察に連絡すべきだろうか?俺は悩んだ。もし、仮に奥さんが殺害されていたとしても、俺に関係なくないか?きっと、奥さんが邪魔になって、旦那が殺害したんだ。医者は知り合いか何かで金を払って、死亡診断書を書いてもらった。火葬したら証拠も残らないだろう。救急車なんて呼ばなくてよかったのでは?そしたら完全犯罪が崩れてしまう。
俺はその家族の秘密を握ったような気がしていた。近所付き合いのない俺が、他所の階ての秘密を握るなんて。面白いじゃないか。そう言えば、遺体を引き取ってから、家から誰も出て来ない。人が亡くなったんだから家族は嘆き悲しんでいるんだろう。どんな会話が交わされているんだろうか。
「パパ、どうしてママを殺したの?」
娘が泣きじゃくっている。
「ママは病気で死にたがっていたんだよ」
父親が宥めるように言うが、子どもたちは泣き止まない。
「ずっと前から、ママに殺してって頼まれてたんだよ。
「えーん。ママに会いたいよ」
娘は泣き崩れる。
「このことはみんなあの世まで持って行く秘密だからね」
父親は不敵に微笑む。きっと女が出来て妻を亡き者にしたんだろう。よくある話じゃないか。変な昼ドラなんかよりよっぽど面白い。
次の日。俺はダイニングで朝ご飯を食べていた。朝起きて新聞を見ながらトーストとコーヒーで朝食を取る。代り映えのしない朝の風景だ。すると、俺の耳に救急車のサイレンが飛び込んで来た。近いぞ!俺はすぐに窓に駆け寄った。すると、何と昨日、人が亡くなったばかりの家にまた救急車が来ているではないか。どういうことだろう。家族が次々と体調を崩す家。もしかしたら、家族全員がコロナで倒れて、救急搬送を断られたんじゃないか…。
いや、だって…お母さんは、朝、スーパーに買い物に行っていたのに?瀕死の状態の人が自転車に乗れないだろう?
俺が固唾を飲んでその家を見続けていると、中から救急隊員が出て来て、また消防車に乗り込んだ。暗い顔をして運転席で何か書いている。そして、サイレンを鳴らさずに立ち去った。また誰か亡くなったんだ!俺は確信した。変な家だと思っているだろう。二日続けて救急車を呼ぶなんて。
もしかしたら、亡くなったんじゃなくて緊急性が低いと言う理由で搬送してもらえなかったのかもしれない。そうじゃなくて、もっとドラマチックな展開になって欲しい。俺は新たな展開がないか、俺は窓際に張り付いて見ていた。
すると、ある人がやって来たので俺はぎょっとした。昨日の医者が往診にやって来たのだ。きっと死亡診断書を書くために呼ばれたんだ。俺の心臓は高鳴った。この人は殺人を自然死に見せかけるための、詐欺を行うために来たんだ。最近はコロナを怖がって診察を控える人が多いらしい。または、弱みを握られているんだろうか。この人、実は薬中だったりして。高級住宅街のセレブ妻も薬をやっている時代だ。俺の考えは飛躍する。
俺は窓際に座ってマグカップからお茶を飲んでいた。すると、さっきの医者が出て来た。そして、周囲をキョロキョロ見回して、俺と目が合った。窓際に座って他人の家を見ているなんて明らかにおかしかったろう。その人はじっと俺の方を見て、その後目線を落とした。俺の家を確認しているようだった。家主に言うのかもしれない。斜め向かいの家の人が友山さんの家をじっと見ていましたよ、と。今まで無関係だったのに、友山さんと接点が出来てしまったような気がした。
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