第23推活 後戻りは出来ないってコト?!
「お邪魔します。なんだか久しぶりですね」
「Phantom攻略で忙しかったもんな」
メイド服を着るためにメイクをばっちり決めていたのか、いつもより大人っぽく見える凛と共に俺は帰宅した。綺麗な黒髪から甘い匂いが漂ってくる。
最近はランカーズとみらーじゅ!との行き来で、性獣を鎮める儀式(風俗)が出来ていなかった俺はこのシチュエーションだけでおかしくなりそうだった。
今日は酒を飲まないようにしよう。
ソファーに横並びで座ると、いつにない緊張が走る。
「映画でも見る?」
「はい! みたいです」
俺はAmazones Prime Videoをスマホで開く。凛が髪を耳にかきあげ、スマホを覗き込んできた。距離が近い。
「いっぱいあるんですね」
「アマゾネスプライム入ってない? 結構何でもあるよ」
凛はスワイプして探していたが、視聴履歴にズラッと並んだ美希の出演映画とドラマで手を止めた。
「……そういえば最近美希さん見ませんね」
「なんか急にいなくなった。女優業が忙しいのかもね」
凛は美希のことあんまり好きじゃなさそうだったからな。良くないものを見せたかも知れない。たまに見てながら美希を思い出してジンを飲んでいるなんて言ったら、怒って帰るかも知れないので口が裂けても言わないでおこう。
「このソファーで一緒に寝たんですよね?」
「うん。嫌だった? 凛あんまり美希と合わない感じだったもんな」
「いえ、嫌いとかそういう事はないですよ」
「そうか。ならよかったけど」
凛はスワイプして他の映画を探し出した。助かった、なんか不穏な空気なんだよな美希のことになると。
「あ、私この映画みたかったんです! CMで見てて気になってたんですけど、怖そうだから見れなくて」
凛は怖いと有名なホラー映画「貞男2」を指差した。
「じゃあこれにするか」
「うわー、決めといてなんですが、私ホラー苦手なんです。見てて霊現象起きたらどうします?」
「物が動くとか、声が聞こえるとか? 大した事ないっしょ、Phantomのモンスターの方がよっぽど怖いよ」
「確かにそうですね」
凛はクスクスと笑った。ギャンカワなんだが。凛は2人きりになると途端に子供らしい姿を見せてくれる。テンションも上がっているようだ。
今のうちに自分の爪を剥いどいた方がいいかもしれない。桃との約束を思い出す。大丈夫だ、俺は男を見せるよ。
「なんか飲む?」
「あ、私準備します。世界さんはお酒何飲みます?」
「んー、今日はいいかな」
自我を性獣に奪わせないためにも。
「休肝日です?」
「いや、凛が居るのに悪いかなって」
「それならむしろ飲んでほしいです! 私も桃ちゃんに教わってお酒作れるようになったんですよ。きたるべき世界さんとのお泊まりのために最上さんで練習してきました」
なんだと……これは断るのも悪いか。ロックじゃなくてハイボールなら大丈夫だろう。
「じゃあお願いしようかな。ハイボール頼むよ」
「はーい!」
凛は冷蔵庫から氷と炭酸水を持ってきた。俺はその間にウイスキーを取り出し、寝室から毛布を運んだ。ミニスカートだから寒いかもしれんしな。目にも毒だ。
「1対1ですよね」
凛は炭酸水とウイスキーを氷を入れたグラスにいれ始める。
1対4の間違いだ。氷も3つくらいしか入っていない。最上さんハイボール飲んでないなそういえば……
「う、うん。ありがとう」
不安そうにジッと見てくる。はい、飲みます飲みます。
「うん。うまいよ」
これはハイボールではない。しゅわしゅわするウイスキーだ。とは言えない。
「よかった〜! どんどん飲んで下さいね。あ、毛布ありがとうございます。一緒に入りましょ」
「お、おう」
飲み物を作る時に自然と距離が近づいて、その状態から凛は離れない。肩と肩が触れ合い、同じ毛布に包まれる。墓穴を掘ったかも知れない。
電気を消して、バカでかいテレビに映した。映画が始まると凛はすでに怖がっている様子だ。気付くと凛は俺に完全に密着し、横並びに太ももがくっついている。
スレンダーかつ高身長の、長い太ももがぷよぷよと押し当たる。
映 画 ど こ ろ で は な い 。
俺は素数を数える。手癖でお酒飲み切っちゃった。凛はそれに気付くと新しいのをすぐ作った。氷を入れ忘れている。
「きゃ!!」
序盤のちょっとしたホラーシーンで凛は叫び、俺にしがみついてきた。こんな序盤でこの怖がり方、最後まで見れるだろうか。まだ貞男も出てきていないのに。
「世界さん、お化けでたら倒してくださいね」
「倒すのは無理かも」
無茶言うな、俺は霊能力者ではない。
「じゃあ守ってください」
「それは頑張る」
「具体的にどのようにして?」
めちゃくちゃ怖がってるじゃん。時々凛と桃って言葉遣い面白いよな。俺は自分の性獣が怖くてそれどころではない。
「えいって感じで」
「お願いしますね」
俺に腕を通して、指の隙間から見始めた。凛のDカップの意思が思いっきり当たっている。性欲を失うスプラッター映画にするべきだった。
○
映画が終わる頃には激濃ハイボールを5杯も飲んでしまった。凛は俺に横から完全に抱きついて、両足は俺の上に乗っている。太ももの裏側の肉感が凄まじい。これはもはや俺に取っては性の暴力だ。
「ううう、怖かった……世界さん怖くないんですか?」
顔がもうマジで真横にある。
俺は正直言って酔っ払ってしまった。正常な判断が出来なくなっている自覚がある。なんとかせねば。
「それどころじゃなかった」
「どういうことですか?! まさか部屋のどこかにお化け見えてます?!」
キョロキョロしながら、さらにキツく抱きしめてくる。俺は本当に爪を剥ぐ覚悟を決めた。これは無理だ。
「いや、そういう意味じゃなくて。トイレ行ってくる」
爪を剥ぐために。3枚ほど。
「待って!! 1人にしないでください私も行きます! 実はずっと我慢してました!!」
凛が立ち上がる俺の手を掴んだ。一緒にトイレについてきてしまう。
「扉閉めないでくださいね」
「お、おう」
半開きの扉でトイレを済ませる。これでは爪を剥げない。凛が交代でトイレに入った。
「世界さーん、いますか?」
「いるいる、トイレの前にいる」
凛が入っている間も扉が半開きだ。まだ用は足されていないようだが、このままでは凛から溢れるいけない音が聞こえてしまう。
新居には音姫を導入しよう。新しい性癖の扉が開かれてしまう。
凛が動かずにいたので、感知タイプの照明の電気が消えた。
「ひぃ!」
動くとまた電気がつく。
「ひゃぁ!! 世界さーんでででででんきがぁ!!」
「大丈夫だ、それは霊現象ではない」
今一番危険なのは凛が性獣の前で下半身を露わにしていることだ。貞男より俺を危険視するべきである。
「ううう泣いちゃう……ダメです、怖くておしっこ出ません」
おしっこ言うな!!!!
興奮するだろ!!!!
「私に背を向けて、トイレの中に入ってくれませんか?」
ッッッッッエ?!?!?!
「それは流石に」
「このままじゃトイレから出れずに膀胱炎で死にます」
膀胱炎って死ぬのか。知らなかった。死なれるのは困る。
「わ、わかった」
俺は背を向けた状態でトイレに入り扉を閉めた。密室の真後ろに下半身裸の凛がいる。凛は俺の手を握った。
「恥ずかしい……ホラー映画なんて見なきゃよかった、あんなに怖いなんて……」
俺はどちらにせよ前を向けない。俺の下半身も天を突いている。残念ながら、新しい扉が開かれたようだ。
「あ、出そう……出るっ……」
ジョジョジョジョ。
これは川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ川のせせらぎ
「恥ずかしくて死んじゃいそうです。嫌いにならないで下さい……ごめんなさい……止まらない……」
凛は用をたしながら泣き出してしまう。
俺も泣きたい。こんな変態になってしまって、ご先祖様に申し訳ない。
「嫌いにならないよ」
「っん」
繋いだ手からブルブルと凛の体が震えるのが伝わった。どうやら終わったようだ。カラカラとティッシュを巻き取り、下着を履き立ち上がった。
凛は俺に手を引かれてソファーに戻った。
よほど後悔しているのか、黙りこくってしまった。
俺は激濃ハイボールを飲み干し、歯磨きに向かう。凛はまだ怖いのか、慌ててついてきた。歯を磨き、凛はポーチからメイク落としシートを取り出した。明らかに元気がない。
凛を寝室に連れて行き、俺がソファーに戻ろうとすると腕を掴まれた。
「……やっぱりおしっこ女とは一緒に寝れませんか?」
おしっこ女ってなんだ。
「いや、そんなことはないよ」
「嫌いになりましたよね。ううっ」
また泣き出してしまう。
これは逆に可哀想で興奮しなくて済みそうだ。促して2人でベッドに入った。
可哀想なのは抜けない。
「まったく嫌いになってないよ。むしろごめんな、恥ずかしいよな」
「……どうしてそんなに優しいんですか?」
どうしてってそりゃ推しだから?
「誰にだってじゃないよ」
「……お休みなさい」
「うん、おやすみ」
凛が眠ると俺の張り詰めていた緊張の糸が解けて、一気に酔いが回った。グワングワンする視界の中、俺も眠りについた。
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
ここまでで少しでも面白い、続きが読みたいと思っていただけた方は星を送って頂けると幸いです!
すでに送って頂いてる方、ありがとうございます!!
気付くと女の子が居なくなる世界の部屋ですが、朝に凛はいるのでしょうか?
是非続きもお楽しみくださいませ!
星はこちらから↓
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