第20推活 ここがオタクの楽園ってコト?!
3人が到着すると、美希が皆に挨拶した。俺が昨日から美希が押しかけてきて、泊まっている話をすると驚かれた。
「美希っち、ずるくね?? あーしは一回泊まれたからまだいいけど、凛々が毎晩星にまで祈る大願なのに」
「めちゃくちゃ大袈裟だな」
「いやガチだが?」
「今日、私も泊まってもいいですか?!」
凛がめちゃくちゃデカい声を出した。凛、最近自分の意見をしっかり言えるようになってきたな。そんなに広いベッドが羨ましいのか。
「あー、でも昨日ソファーで寝たから狭くてさ。今日はベッドで寝たいんだよね」
「ね、狭かったねソファー」
「お前のせいだろ」
「ソファーで一緒に寝たんですか? わざわざ?」
「ん? そうそう、だから広いベッドでは美希も寝れてないんだ。あんま怒ってやらないでくれ」
あれ??
おかしいぞ、凛がプリキュアに変身しそうなくらい髪の毛を逆立てて、歯を食いしばり美希を睨んでいる。
美希は顎の下に手を当ててオホホホホとふざけて笑っている様子だ。
「ブラッディポン酢さん、おはようございます! 皆さんお早いですね」
世界ランカーの上坂ミミ、鈴代吉成、大橋ルナと、監視の牧町も到着した。大分大所帯になってきたな。
「世界でいいですよ、ブラッディポン酢って外で呼ばれるの恥ずかしいんで」
ミミのような低身長アイドルにブラッディポン酢と呼ばれると、物販交流してるみたいだ。
「せ、世界さん」
「はい、なんですかミミさん」
「キャーー!! ダメダメ限界オタク出ちゃう無理生ブラポンかっこよすぎて泣いちゃった」
ミミは叫びながらどこかへ走り出してしまった。牧町が走って追いかけに行った。
彼、結構大変なポジションかもしれない。あんまり冷たい態度をとるのはやめてやろう……。
「今日は2パーティで探索ですよね? あ、鈴代吉成です」
「そうみたいだな。覚えてるよ、吉成くん宜しくね」
「は、はい! 光栄です!!」
吉成君はただのゲームに課金ばっかしてたバチャ豚の俺に随分夢を見ているようだ。幻滅される時が怖い。
「行きましょ、案内しますわ」
大橋ルナが俺の手を握って肘に胸を押し当ててきた。目が合うと妖艶に微笑んでくる。スパイだ……スパイに違いない……
もう片方の腕を美希が取ろうとしたが、桃が素早くつかんだ。負けじと胸を押し当ててくる。辞めなさい、興奮するでしょう。
それを見て凛がジタバタとしている。最上さんは凛と桃の様子を見て困っているようだ。
大丈夫かな、このパーティ。世界救えるか不安でしかない。
ルナに案内されるまま進むと、10階建のPhantomの前についた。商業ビルが変わってしまったようだ。牧町とミミも合流できた。
「2パーティってことは1人足りないですよね。どうします?」
「私やりたーい。アカウントは持ってたから多分入れるよ」
美希が手を上げた。
「一回も現実のPhantomはやってない?」
「うん」
「なら危ないからダメだ。1〜3階建のところに一緒に行って今度レベリングしてやるから、今日は待ってろ」
「うん、わかった」
あれ、ワガママ言うかと思ったけどすんなり受け入れたな。なんだかニコニコと嬉しそうだ。昨日のこと本当に反省してるのかもな。
まあ10階なら俺1人でもいけるし、1人居なくても守れるか……。ランカーズの腕前もみたいし。
「じゃあ牧町さん、美希のご機嫌取り係お願いします」
俺が嫌味を言うと、美希はイーと口を広げた。変顔しても綺麗な顔だな。売れっ子女優は住む世界が違う。
「ひゃ、ひゃい!」
なんだか牧町さんは頬を染めている。美希相手には緊張するようだ。意外と美人な芸能人に弱いんだな。
俺たちはダンジョンの中に入った。
アバターに変身する。最上さんが美鶴になり、俺とワチャワチャしていると、ランカーズは驚いていた。そうだよな、人が変わってるもんな。いいんだよこれで。俺は心で美鶴と通じ合ってるんだ。
「桃、これ約束のお土産」
「なんだろ、あーしも指輪かなー? って、マ?!?!!」
「邪竜防具一式と、ロングソード。これ着とけば20階くらいまではラスボス以外からの攻撃は無効化できるはずだ」
俺は多分数回殴るだけでボスも倒せるから剣もあげちゃう。ショートソード一応持ってるし。
「待って世界っち。レッドPhantomってやつで、抑圧されし邪竜をソロ討伐したの?」
「よくわかったな、流石ゲーム配信者。邪竜が出るって分かってたら絶対入らなかったけどな。結果オーライってやつ」
「すごすぎ……。世界っちが命懸けで手に入れた防具、あーしが着ていいの?」
「当たり前だろ、他に誰が着るんだ」
俺はレベル上がってそもそも防御力が底上げされてるし、まだ低レベルタンクの桃が着るのが最善だ。
桃は装備すると俺からくっついて離れなくなった。やめてくれ興奮する。
「美鶴はこれ、邪銃と鉄の鎧と兜。6発しか打てないけど、10階程度ならラスボスも一撃だ」
「うおー! 強そうすぎるっぴ、ありがとっぴ〜!!」
美鶴大はしゃぎで可愛いな。というか何してても可愛い。鼻毛を抜いていても可愛い。そんなことしないけど。
「凛はジェネルオーガの防具一式と、俺が使ってたマグナムな。指輪もずっとつけとくといいぞ」
桃以外は基本遠距離攻撃だから、そこまで防具もこだわらなくて大丈夫だろう。
「ありがとうございます! はい、外でも常につけてます」
「無くしたら困るから、帰りにストレージに置いとこうな」
「え」
時が止まったかのように凛がフリーズした。外すと逆になくしちゃうとか?
「ま、まあ無理にとは言わないけどさ。新しいのすぐ手に入るかわからんし、ほら」
「わかりました……そうします」
凛、めちゃくちゃ悲しそうだ。
「じゃあこれやるよ。これはダンジョン外でつけてて、もし壊しても平気」
俺は力の指輪自分から外して凛につけてやった。これまた大袈裟に凛が喜んでくれた。いやこれ効果低いんだけどな。まあいっか。
そういえば桃にまだ指輪あげたことがないから次手に入ったら渡してやろう。
「ほい、3人にも余ってるやつ色々やるよ」
ランカーズにも使ってない装備を色々上げた。よし、ストレージが大分空いたぞ。3人は大喜びだ。特にミミが世界さんが着ていた装備だーといって喜んでいた。
そこからはいつもと同じだ。俺が先陣を切って進み、敵がいたら引き付けて、他の子達にキルさせる。これを繰り返した。
ラスボスも美鶴の邪銃1発が掠っただけで消えていった。思っていたよりイージーだったな。大体1時間半くらいで10階建をクリアすることが出来た。
宝箱はランカーズに譲ってやった。外に出ると、美希がスタボを飲んでいた。
「二鷹様、お疲れ様でした!」
「牧町さんもお疲れ様です。美希のご機嫌とり大変でしょう」
「いえ、一生でもしていた、いえいえ、光栄です」
「世界くん、これが私に対する普通の男の人の反応なんだよ」
美希が牧町をつっつきながら行った。牧町は嬉しそうにしている。こいつ本当に今公務中である自覚あるのか。
「悪かったな普通じゃなくて」
「んんん、悪くないよ。はいこれ、お疲れ様」
美希が俺の分のドリンクを買ってくれていたようだ。気が利くな。礼を伝えて飲むと、ニコニコと見つめてきた。なんだよ。
「牧町さん、10階前後までならゲームランカーチーム3人でも、新しく渡した装備なら余裕そうでした。なんで二手に分かれて、高層階の時だけ合流がいいかもしれません。俺はチームを行ったり来たりします。美希も戦えるように育てておきますんで」
「何から何までありがとうございます」
「天野総理に世界救ってやるって啖呵切った以上、やれる限りのことはやりますよ。それと」
俺は牧町に耳打ちした。
「二億円の件はマジですか?」
「勿論です。お仕事を辞めてこちらに専念して頂けるなら、固定の月給もお支払いします。1で宜しいでしょうか?」
「100万? そんな貰えないですよ、歩合もあるのに」
「いえ、1000万です。ご納得頂けて幸いです、すぐに手配します。お勤め先も我々が退社代行しておきます」
「え? え?!」
牧町は既にどこかに電話している。ああそうか、これはもう仕事辞める流れなんだな。まあいいか……。
「じゃあ一旦今日は解散で、ランカーズは明日、俺と4人でもう少し難易度の高いPhantomを回ってみましょう」
「私秘書だから登録しとく〜」
「お、じゃあ頼むわ」
美希が手を挙げたので、アプリを開いてスマホを渡した。今日一嬉しそうだ。なんで?
「うううどうしよう、私ワクワクして眠れないかも」
「ボクもですよ、見ましたかあの剣捌き」
「どうにかして私にも振り向かせたいわ……」
え、ショートソード適当に振ってただけなんだけどな。1人不穏なスパイがいるが気にしないことにしよう、貴重な戦力だ。
○
みら〜じゅ! メンバー達と事務所に戻った。俺の両隣に美希、最上さん、机を挟んで桃と凛が座っている。
そういえば事務所に来るの初めてだ。配信部屋覗いてみたい。後で頼んでみよう。
「なんであんたもいるんぢゃーん??」
「秘書だから」
「ヒショ? ヒショってなんなん?」
桃が美希につっかかったが、秘書がわからずに敗北したようだ。学力って大事なんだな。
「お話というのは何でしょうか?」
最上さんが尋ねた。
「……みんな落ち着いて聞いて欲しいんですけど。えー、レッドPhantom踏破のボーナスで国から二億円もらいました」
暫く沈黙が続いた。
「えええええええええええええ!?!?」
堰を切ったように凛、桃、最上さんが叫んだ。やっぱりそうなるよね。
「それで、みんなが良ければ広い賃貸借りて一緒に住まないかなって。配信部屋わけるとなるとそれぞれの部屋、とまではいかないかもだけど、寝室にキングベッド二つ用意すればいいかなって」
みんなの方を見る。やはり即答で喜んでくれる感じではない。ひいているようだ。やっぱり俺と一緒に住むのは嫌だよな。
「すみません、俺抜きでも大丈夫ですよ。お金は出すので」
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
3人からの総ツッコミだ。最上さん、そんな顔できたんだ。美希は口をおさえて笑っている。何がおかしいんだ。
「この前借金の肩代わりをして頂いたのに、流石にそんなことまでして頂くわけには」
「え? あ、そんなこともありましたね。忘れてました」
銀行強盗した金みたいなもんだからな。
「あーしは一つだけ条件がある」
桃は人差し指をたてて顔の前に置いた。
「桃ちゃん、どの立場から言ってるの?」
凛が桃の口をおさえた。よく見るなこの光景。尊い。
「いいよ桃、言ってみて」
凛は俺をみると、ゆっくりと手を離し着席する。
「あーしと同じベッドで寝る事」
「はいはいはいはいはいはい!! ストップストップなら私もそれが条件です!!」
凛が立ち上がって騒ぎ出した。なんだなんだ、どういうことだ??
「いやいや、俺は最上さんと寝るか、部屋数に余裕があるならベッドわけるよ」
「ええ?! 私と一緒に寝てくれるんですか?」
「あれ、嫌でした?」
「めめめめめめ滅相もないです」
そうだよな、こんだけ色々されたら、逆に気使っちゃうよな。
「まあ、直ぐにとは言わないので、考えといて下さい」
「は、はい」
「あーし家探しとく任せて」
「桃ちゃん静かに」
「あの、むしろ世界様のために我々が出来ることはありますか?」
最上さんが聞いてきた。
おー甘えちゃっていいのかな?
「あー。……配信部屋、見てみたいです」
「お安い御用です!!」
最上さんに促されるまま進むと、俺はオタクとしての天国に辿り着いてしまった。
そこには今までのグッズ全種類が飾られている。
webカメラでVtuber studioをトラッキングしているところも見せてもらった。
俺の動きに美鶴のイラストをトラッキングしてくれたんだが、宇宙創生のような感覚になり怖くなってすぐ辞めた。
あれを続けていたら俺は俺じゃなくなる気がする。
「世界っち、全然変わらずオタクなんだねウケる」
「そうだといつも言っているが?!!?」
俺は鼻息荒く答えた。なんだここ、すごすぎるだろ。
「そしたら、あーし達のライブが見れるのは嬉しい? 広い家ならちょっとしたステージ作って、そこであーしと凛が歌って踊るよ。それ見ながらお酒飲むとか?」
何それ?!?!?!!?!???!?!
やばすぎだろ?!?!?!?!?!?
「何それ?!?!?!???!?!!
やばすぎだろ?!?!?!?!?!?」
まずい心の声と現実の声が脊髄反射で漏れ出てしまった!!
「ぢゃあ決まり。他にもあーし達に出来ることあったら言ってナ。メイドの格好で出迎えて欲しいとか」
そんなこと言えるわけないだろう!
「出迎えて欲しい!!」
ああああああ本音と建前がぶっ壊れてきた、このままだとまずい。
「りょ! ドンキで一番エロいやつ買っとく。他にもなんかある?」
何を言っているんだ君は?!
凛をみると頬を抑えて目線を逸らしている、これはやってくれるつもりだ!!
このままだと俺は何を要求してしまうかわからない、内なる性獣が恐ろしすぎる。
「きょ、今日は帰る! すまん、このままいたら俺が俺じゃなくなりそうだ! 美希、帰るぞ」
俺は寂しそうに眺めていた美希の腕を掴んで、そそくさと逃げた。
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、直木賞間近だ、直木賞は流石に無理だろ、カクヨムコン10万文字間に合うの?、人の金で焼肉を食べたい、牛丼は吉野家より松屋派、学生時代突然教室にくる悪漢を倒す妄想をしていた、ミスタードーナッツはゴールデンチョコレートしか勝たん、おでんはセブンイレブンだよな、WindowsかMacならWindows、血液型はA型、おっぱいよりお尻派、ゴッホより普通にラッセンが好き、夏のオリンピックより冬のオリンピックが好き、のどれかを思った、または当てはまる方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!
星はこちらから↓
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます