女優広瀬美希編
第19推活 女優は嘘が上手いってコト?!
「お邪魔しまーす。わ、思ってたより綺麗な家で安心した〜」
広瀬美希はそういいながら勝手に靴を脱ぎ、リビングに向かった。キャリーケースを持っている。
「待て待て、上がっていいなんて言ってないぞ」
「ねえ、私のこと知ってるんだよね?」
「女優の広瀬美希だろ。知ってるよ」
広瀬美希は若手の大人気女優だ。ドラマに映画、バラエティに引っ張りだこで、テレビをつけたら見ない日はない。
整いすぎているが自然な顔立ちに、エステに通わないと不可能なほどツルツルの肌、そして下品すぎないが、清楚すぎない、最も男性ウケのいい抜群のプロポーションをしていた。THE 女優という感じだ。
「なら私が住み込みで秘書をするって言ってるのに、そんな態度しなくていいじゃない!」
美希は頬を膨らませながらソファーに座った。
「はあ? 俺住んで良いなんて言ってないぞ。嫁や彼女が居たらどうするつもりだったんだよ」
「あのね、私ただ推されてるだけのバカ女優じゃなくて実力でも評価されてるの。ちゃんと演技出来るんだから、人を見る目はあるよ。世界君、素人童貞でしょ」
ギクゥ!!!!!!!!
な、なぜわかるんだ!!!!!!
「なぜわかるんだ、って思ってるね」
「すげえ。心が読めるのか」
「ついでにバカも追加。今のはわかるに決まってるでしょ」
「な、失礼な女だ! 出てってくれ」
「嘘嘘、ごめん」
「はあ……」
「もう許してくれた。想定よりも優男も追加と」
なんだこいつ、腹立つことしか言わないぞ!
「今日は泊まってもいいけど、明日には帰ってくれよ」
「えー、そんなこと言わないでよ、私ノーギャラで来てるんだよ、こんな奇跡ないよ? あ、晩酌中だよね。私のお酒も作っていい?」
「知るか! しょうがないやつだな」
俺がグラスと氷を出して渡した。
「私ウイスキーのロックなんて飲めないよ。こんなに強いお酒飲ませようとして、もしかして襲う気? きゃー!」
マジで手が出そうだ。暴力的な意味で。
俺はなんとか殺意を堪えて、グラスに苺ジャムを混ぜ、ウイスキーと炭酸水で割ってハイボールを作って渡した。
「2杯目からは自分で作れよ。ったく」
「ありがと〜! なんであの子達に好かれてるのか、分かってきた気がする」
何言ってんだ。みら〜じゅ!メンバーは俺に気を遣ってくれているだけなんだよ。Phantom攻略に俺が必要だからな。そんなこともわからんのか。
「うるせーよ」
俺はテレビつけた。画面の向こうでも、広瀬美希がバラエティ番組でお笑い芸人と絡んでいた。俺はそっとテレビを消した。
「あー! なんで消しちゃうの、番宣まで見てよ〜。え、待ってこのお酒おいしー!」
美希が俺の肩に手を触れて笑いかけてくる。あんまり俺をなめるなよ、接客されなれてんだこちとら。
……ちょっとドキドキした。流石に顔が良すぎる。
「二人も広瀬美希がいたら疲れる」
「意味不明〜。あ、パジャマに着替えるの忘れてた。目瞑ってて」
キャリーケースを開きガサガサと探し出した。俺は面倒なので素直に目を閉じる。
「待って本当に閉じてるんだけど、やば。もうあけていいよ。じゃじゃーん! 可愛いでしょ? どう?」
体のラインがよくわかる半袖のタイトシャツに、ホットパンツだった。
「うん」
「反応うっす!! 今まで出会った男達の中で、私にこんだけグイグイ来られてるのにここまで素っ気ないの、世界君が初めて」
「そんな初めてはいらん」
美希は俺の顔を覗きこんだ。お酒を一気に飲み干すと、俺の上に跨り、両頬を抑えられ無理やり目を合わせられた。
「ねえ、もしかして本当におじさんが好きなの?」
「はあ? 何言ってんだ」
じーっと見つめてくる。そのまま近づき、俺の鼻の先にキスをしてきた。
「お、おい、何すんだよ」
「おじさん好きではなくて良かったのチュー。あ、苺ハイボールおかわり!」
クソ、俺は自分で作れよと言ったことを思い返したが、新しい苺ハイボールを作って渡した。机の上に新しい炭酸水とジャムも持ってくる。
「本当に作ってくれるんだ」
「どこにジャムあるかわからんだろ。必要なものは全部机に置いたからな」
「私のこと好きなの? 嫌いなの?」
「さっき会ったばかりなのに何言ってんだ?」
俺はウイスキーを飲みほし、新しいものを注ごうと手を伸ばすと、美希がそれを奪った。文句を言おうと思ったが、美希はお酌をしてくれるようだ。丁寧に注いでくれた。
「あんがと」
「何このつれない感じ。私の方がハマりそうで怖い」
「それ口にすることか?」
「全部思ったこと口にするようにしてるの。感情が新鮮なうちに。ドラマとか映画って、黙ってる芝居殆どないでしょ。リアリティを求めると、言わなくなるんだけどね。大御所芝居ってやつ。私はまだまだ、全部台本に必要な情報は言葉で伝える役しか貰えない」
「ふーん。色々あるんだな」
「うん。ちなみに私のお酌、1時間で20万円だよ」
「金取るのかよ」
「いやいや、流石に勝手に押しかけといてそんなわけないでしょ。でもそんくらい貴重なんだよってこと。家に呼び出すことはどんだけ積まれても出来ませーん」
こんだけ売れててもギャラ飲みみたいなことがあるんだな。むしろ上部関係者とのコネクション作りの一環なのかもしれない。ま、芸能界のことはネットニュースに書いてあることしかわからないし、桃と凛に汚れ仕事が来なくて済むように俺がもっと頑張ろうと思った。
「はいはい、ありがたや〜」
俺がそういうと、美希は満足そうな表情をして、苺ハイボールを飲み出した。俺もつられてロックのウイスキーを飲む。不思議と自分で入れるより美味しく感じた。
「どう? 私が入れたウイスキー」
「なんか、いつもより美味しいかも」
「でしょ! 美女の私がたっぷり愛を込めてるからね」
「自分で言うなよ」
「自他共に認める美女、それが私」
俺の方に顔を向け、目を瞑りピースをおでこに当てている。苺ハイボールを飲み干すと、おかわりを作り始めた。
「たのしー!!」
「そりゃ良かった」
「仕事ばっかりでこういう自由な時間が無かったの」
「へー。売れっ子女優にも悩みはあるんだな」
「悩みまみれ!! はー、でもこれで変われる気がする。ねえ、秘書って何すれば良いの?」
美希は酒を飲み干すと、俺の膝の上に倒れ込んだ。体が熱い。こいつ、本当に酔っ払ってるな?
「いや、知らんよ。俺社長じゃないから秘書とかそもそもいらんし。Phantom攻略のスケジュールなら最上さんが組んでくれるし。平日は家に居ないしな」
「まって。世界君仕事続ける気?」
「そりゃそうでしょ。Phantom攻略なんていつ出来なくなるかわからんし」
「天野総理と牧町部長が話してたけど、多分もう一生分のサラリーは振り込まれてるよ。レッドPhantom攻略の謝礼金って言ってた。アプリ見てみたら?」
「そんなわけ……マジだ」
Phantomレーダーの獲得金額の部分に2億円と書いてある。
「換金したことないからな、これ嘘かもしれん」
「そんなことして信用失ったら2度と協力してもらえなくなるじゃん。そこまでアホなこと国のトップがするわけ無いよ」
確かに。じゃあこれ、マジなのか。2億……何しよう。逆に現実味がない。
家広くしてみら〜じゅ!メンバーと一緒に住むか。家買いますだと遠慮されそうだし。
「2億……すげえ」
「私の映画の出演料一本分」
「うるせーよ、サラリーマンの生涯年収をバカにするな」
「ごめん、張り合いたかっただけ。私も凄いんだよって」
こんだけ売れててもまだ承認欲求があるのか。飽くなき承認欲求が満足を知らせずに貪欲に活動できる原因なのかもしれない。
「広瀬美希は凄いよ、売れてる女優なんだから」
「え、そう? 嬉しい」
女優の笑顔ってすごいよな、子供みたいに無垢な表情だ。演技だと分かっていても、心が揺れてしまう。
「明日最上さん達に相談してみる。そろそろ歯磨いて寝るぞ」
「はーい」
美希は起き上がると、キャリーから歯ブラシと歯磨き粉とメイク落としとパックを取り出した。
「本当に準備万端だな」
「コンドームはないから、準備しといてね」
「はあ?!」
「嘘嘘冗談。持ってきてるよ」
「はあ?!?!」
「ねえやめて何でも信じるの、お腹痛い」
美希はお腹を抑えながら洗面台に向かっていった。二人でシャカシャカと歯を磨く。口に溜まったものを美希は吐き出す。
「同棲してるみたいだね。私同棲したことないの。これって同棲?」
「知らん。明日帰れよ」
「ねー、泣くよ」
「どうぞ」
俺も吐き出し、口をゆすいでソファーに毛布を運び寝転んだ。女優の美希様はベッドを使うだろうと思ったからだ。
しかし、中々洗面所から出てこない。不審に思い向かうと、美希が声もあげずにパックをつけたまま、床に滴るほどの号泣をしていた。
「お、おい。どうした」
「……なんでそんなに冷たいの」
パックがついていて情報過多だ。笑っちゃいけないこの感じ、困る。
俺はパックを勝手に剥がした。
特に抵抗することもなく剥がされると、軽くにらみつけてくる。怖いと言うより、可愛い顔だ。
「嫌なのに押しかけてきたんだろ。無理すんなよ」
「違うって言ってるじゃん。こんなに男の人に冷たくされたの初めて」
「はあ。よくわからんが、とりあえず寝な。ベッド使って良いから」
「……うん」
泣き続ける美希を、親に手を引かれる子供のようにベッドへ運んだ。女優だからな、嘘泣きもいくらでも出来るだろう。初めての連呼も逆効果だ。接客マニュアルにでも書いてあったのだろうか。
「おやすみ」
「どこ行くの」
「どこって、そりゃソファーだよ」
「じゃあ私もソファーで寝る」
「なんでだよ、狭すぎだろ」
「泣いてる私をほっといて別々に寝ようとするなんて信じられない」
「よっぽど大事に可愛がられて生きて来たんだな。羨ましいよ。じゃあな」
流石にちょっと言いすぎたかもしれないな、と反省したが、俺は背を向け、寝室を後にする。
「大っ嫌い!!」
叫ばれたが無視した。丁度良い、これで明日には帰ってくれるだろう。
ソファーで毛布にくるまり、ウトウトして来たころ、寝室からノソノソと美希がやってきて、毛布の中に潜り込んできた。
「おい」
「落ちちゃう。捕まえてて」
「ったく」
俺が体を横に立ててスペースを作り、美希が落ちないように抱き寄せた。
「ねえ、ずるいよ。本当に好きになっちゃう」
「なんで? あ、嘘泣きすんなよー」
「いや、あれガチなんだけど。嘘だと思ってたの?」
「女優の涙の、嘘とガチの違いがわからん。眠いから寝る」
「私もわかんなくなってきた。うん」
自分で嘘か本当かわからないのは難儀だな。
美希がこれでもかってくらい密着してきた。まあでも寒かったし丁度良い。ベッドに移動するのも面倒なほど眠かったので、俺はそのまま眠りについた。
翌朝。
目覚めると、美希がキッチンに立っていた。既に軽いメイクを済ませていたようなので、早起きの習慣があるのかもしれない。
「おはよー。ご飯勝手に作ってるけど平気?」
「おはよ。ああ、むしろ助かる」
「ん、良かった」
綺麗な笑顔を向けられる。朝から美術品でも眺めた気分だ。俺は顔を洗って口を濯いだ。
机の上に目玉焼きが乗ったパンと、玉ねぎとウインナーのコンソメスープと、ジャムを乗せたヨーグルトが並んでいる。控えめに言って、最高。
「どう? やれば出来るでしょ?」
「ああ。家事とか出来ないと思ってた。食べて良いか」
「勿論! 私も食べよ。いただきまーす」
ソファーの隣に座り、朝食を取った。パンも目玉焼きも焼き加減が絶妙で、黄身がとろけていた。
「んまい。良い焼き加減だ」
「良かった。……ねえ、昨日はごめんなさい」
「ん? ああ、いいよ」
「世界君みたいな人初めてで、どうしていいかわからなくなってたら、気づいた頃には酔っ払いすぎてた」
「嘘泣きするしな」
「本当に泣いてたよ……?」
「はいはい」
あんなボタボタ泣けるわけないだろ、初対面の人間が冷たいってだけで。
「私、帰らないとダメ?」
「え、うん」
「掃除も洗濯も食事も作るよ? 仕事の時だけ出ちゃうけど。晩酌もするよ?」
「えー」
それは正直、いいな。だけど、みら〜じゅ!と住むかも知れないしなあ。皆が俺と住むの嫌がるだろうか。最上さん以外はクイーンベッド目当てで泊まりに来るくらいだからな、広いベッドで各自の部屋作ればいいか。
「お願い! もう泣かないしワガママ言わないから! もう一晩だけ」
「ああ。もう一晩なら別に良いよ」
「本当? やったー!」
広瀬美希は子供みたいなオーバーリアクションを取る人のようだ。
演技のために我々の私生活を覗きたいとかよくわからんことを言っていたが、そんなに喜ばしいことなのだろうか。
本当はやはり、国から俺の私生活を報告することと引き換えに、主演ドラマでも約束されてるのかも知れない。
食べ終わり歯を磨く。やけに美希はニコニコしている。俺たちは電車で事務所に向かった。腕を組んで歩くもんだから目立って仕方ない。
美希の身長は168cmはあるだろうし、サングラスをかけて変装しているつもりなのか知らないが、逆にオーラが際立っていた。
集合時間の10分前に集合予定の代々木駅に到着した。
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、直木賞間近だ、直木賞は流石に無理だろ、カクヨムコン10万文字間に合うの?、人の金で焼肉を食べたい、牛丼は吉野家より松屋派、学生時代突然教室にくる悪漢を倒す妄想をしていた、ミスタードーナッツはゴールデンチョコレートしか勝たん、おでんはセブンイレブンだよな、WindowsかMacならWindows、血液型はA型、おっぱいよりお尻派、ゴッホより普通にラッセンが好きのどれかを思った、または当てはまる方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!
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