国家と美鶴編
第17推活 超スーパーハーレムってコト?!
紅茶を飲み終わってから牧町に皆一緒で構わないか交渉をすると、即答でOKだった。そのまま車で案内される。
しかし内閣府の閣議室に通されるとは思っても見なかった。
まあそうよな、ファミレスに集合するわけにもいかないよな。
4人は並んで座った。円卓の所謂上座側にミネラルウォーターのペットボトルが置いてある。
ここに座れってことか。せっかくなので桃を一番上座に座らせた。
「強制的な雰囲気や、こちらがへりくだらないといけないお堅い様子ならすぐ帰りますからね」
「そのようなことは決してありません! おタバコを吸って頂いても構いませんよ。お酒もご用意がありますのでお待ちします。ビール、ウイスキー、焼酎、日本酒がございますがいかがでしょうか?」
牧町はヘコヘコと言った。あれ、思ってた感じと違うな。総理と会うのに酒飲んでタバコ吸ってて良いなんてことある?
「いいんですか? じゃあ、ビール2つ。最上さんの分もお願いします。この子達にはオレンジジュースを」
「私はお水で」
「最上さん、遠慮したら負けですよ。牧町さんお願いします」
「畏まりました!」
扉の横に立っていた別の黒服がメモを取り裏に戻った。
牧町は俺のご機嫌取り係ってわけか。一体総理から何を要求されるんだろう。嫌だなあ。
すぐに飲み物が提供された。凛と桃は流石に緊張しているようだ。俺は昨日の邪竜の方がよほど怖かったので、もう現実世界にビビることは永遠にないのかもしれない。
「ビール美味いですね」
最上さんに話しかけると、まだ飲んでいなかった。かなり上等なビールだ。飲まなきゃ勿体無い。
「飲んだ方がリラックスできるかもしれませんよ」
「そ、そうですね」
最上さんはビールを手に取り、震える手でゆっくりと飲んだ。ビールには副交感神経を優位にする働きがある。少量なら飲んだ方がいい。
美味しかったのか、すぐ二口目を飲んでいた。最近最上さんも可愛く見えてきた。末期かもしれん。
暫くすると、扉をノックする音が響いた。
牧町がこちらを見たので、一つ頷くと扉を開けた。ゾロゾロと大人達が入ってきた。本来なら俺も一度席を立つべきだが、座り込みなど失礼な対応への仕返しに、座ったまま出迎えてやった。
上座の前に座る位置に居たはずの天野が、このまま行くと桃の正面になることに気付き、俺の前になる位置に調整するためにジタバタしていた。ざまぁ。
天野の隣に官房長官の黒瀬が座り、牧町は天野の背後に立った。彼らの前にも水が通される。
俺の左右には凛と桃が座り、桃の隣に最上さんが座っている。
「二鷹様。お越しいただきありがとうございます、内閣総理大臣、天野です。窮屈な思いはされていませんでしょうか」
「初めから色々知られていて、気味が悪いことと、そこの牧町さんに座り込みをされたこと以外は良くして頂いてます」
「ああ、それは本当に申し訳ないことを。大変失礼致しました」
天野は頭を下げた。日本で一番偉くなっても頭って下げるんだ。社会ってしんどいね。
「すげー!! 本物の天野ぢゃん!」
「桃ちゃん、静かに!」
「いいんです、いいんです。サイン書きましょうか?」
天野はこれまたわざとらしい笑顔を桃に向けた。
「マ?! 欲しいぢゃーん!」
天野が振り返ると、牧町が扉の前の黒服に目線を送る。黒服はそれに気付くとダッシュした。
サイン書きましょうかは十中八九冗談だ。桃が真に受けたので、色紙を買いに行ったんだろう。かわいそうに。
「それで、一体何故俺を呼びつけたんですか。大体予想はつきますけど」
「ええ、勿論Phantomのことでございます。ですが、ここからは大変恐縮ですが、こちらの契約書にサイン頂きたいのです」
全員の元に紙とペンが配られる。秘密保持契約書だ。
「取引もないのになぜ我々がサインをしなくちゃならないんですか。帰ります」
「お待ちください! 当然ご用意してあります。我々の話をお聞きくだされば、皆様に1000万円ずつお渡しします」
「1000万円?! 話を聞くだけで?」
牧町がアタッシュケースを開き、目の前に1000万円ずつの札束を4つ積んで見せつけてきた。
話がうま過ぎる。話を聞くだけで1000万円なんてあり得るわけがない。仮に本当だとしたら、聞くだけで命の危険があるような何かだ。
「あのねえ、そんな分かりやすい罠に誰がかかるんですか」
「罠だなんてそんな。あ、牧町、あちらのお嬢さんにお約束の1000万円を」
牧町が桃の前に1000万円を丁寧に置いた。
「ご、ごめち。秒でサインしちゃったぢゃん」
……桃が居たか。
「お金は世界っちに渡すよ? はい! ……帰りにスタボ奢ってくれりゅ?」
桃は手を伸ばし、1000万円を俺の前に置いた。良い子なんだよね。
はあ……。桃にだけこんな危険そうな話を聞かせるわけにはいかない。俺は凛と最上さんに目配せして、サインを書いた。
「スタボでも焼肉でも奢ってやるから、俺が良いっていうまでジッとしてるように」
「りょ!」
テヘペロだ。可愛い。全てを許そう。
それぞれにお金が積まれ、凛と最上さんも1000万円を俺の前に置いた。俺はそれを鞄に詰めた。
「ありがとうございます!」
「銀行強盗の気分ですよ」
「とんでもございません。それでは早速」
「官房長官の黒瀬です。ご説明させて頂きます」
室内が少し暗くなり、プロジェクターが起動する。
「まず初めに、地球規模での最大の危機からお伝えします。エッフェル塔がPhantomに変化しました」
「はあ?!」
俺は立ち上がってしまった。
たしかにプロジェクターに映し出されたパリのエッフェル塔があった場所に、超巨大Phantomが映し出されている。
「階層は目視する限り180階建て以上。情報統制されているため、フランス外に情報は漏洩しません。地球に現存するPhantomで最も高いモノがこちらになります」
俺は椅子に座り直した。牧町がおかわりのビールを持ってきた。飲んでる場合か!!
……いや、むしろ飲んでる場合か。
俺はジョッキのビールを一気に半分ほど飲んだ。
「次の問題はこちら。イギリスの4階建てのPhantomから、ゴブリンが塔外に脱出。警察が鎮圧しました」
「う、嘘ですよね? モンスターが外に?」
「事実です。イギリスの目撃者と警察には箝口令がしかれています。原因は不明。他にも外に出てしまった例が12件あります」
「そんなバカな……」
「真実です。中に人が住んでいない建物がPhantom化する傾向にあります。果たしてどこまで効果があるかは分かりませんが、各国は常に建物内に人がいるようにして対策してあります」
「てことは、日本の__」
考えたくもなくなって、言葉が詰まった。
「ええ。我が国には世界最大の電波塔、東京スカイツリーがあります。エッフェル塔の2倍の高さですから、もしPhantom化すれば、その難易度は300階前後の可能性があります」
はは。古龍討伐が150階のダンジョンだった。300階なんてゲームでも聞いたことはない。そうなれば終わりだ。巨大建造物からモンスターが溢れてくる可能性もあるだろう。
「例えば100階建て以上のPhantomから、一斉にモンスターが溢れ出てきたとしたらどうなるんですか?」
「国連の代表達は、その場合核攻撃を一般市民を巻き添えにしても行うことに調印しております。被害を最小限に抑え、他国に被害を及ばさない義務があります」
思っていた話の1万倍はヤバい話だった。俺1人でどうこうなるレベルではまったくない。核を放ったとしても、それが通用するかもわからない。3人を見ると、ただただ呆然として目を丸くしていた。
「そして、昨晩二鷹様が単独で制覇したレッドPhantomについてです。レッドPhantomは、難易度が階層の10倍前後と推定されています。そして、現状国家主導でのPhantom攻略において、最大のクリア階層は9階建てになります。10階建てから先に調査に入った人々は未だ帰還しません。3階建てのレッドPhantom、となると、30階建てを単独でクリアされたことになります。現存する国内のphantomは、全て二鷹様お一人で攻略できることの証明です」
やっぱり中で死ぬとそのままなのか……
「世界様! そんな危険なことをなぜ相談もなしに!」
「すみません最上さん。赤いだけで違いがわからなかったので、ちょっとレアな3階建てかなーと思って、甘くみてました」
「ぢゃあ、世界っちにこれからエッフェル塔に向かえってコト?!」
「いえ、現段階ではあり得ません。ですが、今後そういったお話もご相談させて頂きたく存じます」
黒瀬は深々と頭を下げた。
「そこで二鷹様には、世界のPhantom問題を解決する英雄として、我が国と契約して頂きたいのです」
「いや、無理ですよ! 30階想定でも死にかけたんです、それが確定しているだけでも180階建てだなんて……この子達を危険に合わせるわけにもいきません!」
「勿論それには及びません」
黒瀬は室内を明るくした。天野が合図すると、牧町が扉を開ける。
4人の女性と、1人の男性が入ってきた。うち2人には見覚えがあった。若手のスーパースターである女優の広瀬美希と、AV女優の響ノリカだ。
「自己紹介をお願いします」
天野が言うと、1人の女性が前に出た。
「世界ランク6位、ユーザーネームミミちゃんこと、上坂ミミです。ずっと憧れていたブラッディポン酢さんとPhantomが出来るなんて夢見たいです。宜しくお願いします」
上坂ミミはツインテールの地下アイドルのようなルックスと服装の女の子だ。俺にファンがいたなんて知らなかった。
「世界ランク15位 ユーザーネーム抹茶飲みたいこと、鈴代吉成です。同じく憧れのブラッディポン酢さんに会いたくて来ました。ネットも追ってます。宜しくお願いします」
彼は20代前半の好青年だ。営業の仕事が出来そうだ。
「世界ランク39位 純白の翼こと、大橋ルナです。お会いできて光栄です」
彼女は色白の20代後半だろうか、落ち着きのある美しい大人の女性だ。
「残りの2人の女性はご存じでしょうか?」
「はい、勿論。女優の美希さんと、AV女優のノリカさんですよね」
いつもお世話になってます。
「このお二人は、契約後二鷹様専属かつ住み込みの秘書となります」
「ええ?!」
2人を見ると、とんでもなく愛想のいい笑顔と、目が合うだけで興奮しそうな妖艶な眼差しで見つめられた。
「そして、日本の上位ランカー3名とチームを組み、Phantom攻略を行って頂きたいのです。契約金は10億円になります」
「じゅ、10億円?!」
「はい。月あたりの報酬が、です。攻略して頂いた塔に応じてボーナスもお支払いします」
「どこにそんなお金が」
「国家予算と国連からの支援金です」
国家予算。年間単位だと110兆円。10億なんて端金ってわけか。国やべえ。
「二鷹様。私は天野個人としてはお話しているのではありません。国を代表して、申し上げているのです。ご契約頂けますでしょうか」
「契約内容はなんですか」
「護衛を5名常に付けさせて頂きます。そして、Phantom攻略に全面的に協力頂くこと。こちらが提供する住居に住んで頂くこと。またすべてのPhantomに関わる情報を共有頂くこと。がメインとなります。こちらが契約書です」
150ページ近い甲が乙となりわけがわからん契約書ならぬ契約本が天野から渡された。特に、Phantom攻略に全面的に協力頂く、がネックだ。契約すれば総理の指示で確実にエッフェル塔攻略に参加させられるだろう。そしてそれを断れば、現実世界では無力な俺は護衛の人間に逆に拘束されるってわけだ。
Phantom未経験の天野が的確な判断を取れるとは思えない。
「申し訳ありませんが、お断りします」
「二鷹様! そこをなんとか! この通りでございます!!」
俺は武力で制圧されるかと構えたが、なんと天野が筆頭に椅子から降り、官僚達が土下座をした。
ナメられないようにふんぞりがえってた俺も、流石に椅子から立ちあがり、天野たちの前で膝ついた。
「天野総理、やめてください!」
「いいえ辞めません。入ってきてください!」
天野の合図でまた部屋にゾロゾロと人が……なんと、水着を着た18〜26歳くらいのスタイルもルックスもいい女性が入ってきた。
「ここにいる皆様は、全員二鷹様のハーレムとして住み込み可能と答えた女性達です」
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、直木賞間近だ、直木賞は流石に無理だろ、カクヨムコン10万文字間に合うの?、人の金で焼肉を食べたい、牛丼は吉野家より松屋派、学生時代突然教室にくる悪漢を倒す妄想をしていた、ミスタードーナッツはゴールデンチョコレートしか勝たん、おでんはセブンイレブンだよな、WindowsかMacならWindows、血液型はA型、のどれかを思った、もしくは当てはまる方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!
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