第16推活 俺がブラッディポン酢だってコト?!
まずは状況把握だ。抑圧されし邪竜は後ろ足と翼を拘束されている。そのため前足で龍爪を使った攻撃か、炎のブレスしか攻撃手段はない。
そして、俺が壁際まで後退すると前足は届かないため、炎のブレスさえ回避してしまえばこちらは無敵だ。ブレスの前には必ず溜めモーションがある。ゲームと同じであれば、ダメージによって解放される別の攻撃モーションや変身もない。
俺の今の負傷状態は左手、左腕が骨折し、まったく動かないことを除けば全回復している。両足は動くし、剣も握れるし、マグナムガンもエンチャントも残っている。回復薬は内臓へのダメージを回復するために先ほど使い切ってしまったが、攻撃をくらわなければ問題ない。
わざと俺は邪竜の爪の攻撃範囲に近づき、攻撃速度を確認する。咆哮が煩いが、攻撃を見てからジャンプすれば充分よけられた。連撃も来ない。多少ぶつかりそうになっても、ロングソードでいなす事で、盾がなくても充分防御と回避ができた。
鎖で窮屈に抑えられているので、横から薙ぐような攻撃もしてこないだろう。
縦のラインと直線のライン以外警戒する必要はない。回避は基本横で確定だ。
そしてダンジョンの状態。横幅は抑圧されし邪竜より少し広いくらい。縦幅は邪竜の爪が届く範囲にプラスして10mほど。ブレスを吐いた後に首を動かすことは、抑圧されし邪竜程度のドラゴンでは行わない。
高さを見ると__邪竜の頭上に巨大な円錐型の岩が、鍾乳洞のように大量に出来ていた。先ほどダンジョン内の岩場が、邪竜の爪で抉れていた。つまり、変化を加えられるということだ。
「はは、負ける気がしない」
冷静になってしまえば、所詮中盤のダンジョンだ。攻略法はいくらでも思い浮かぶ。
俺はエンチャントされたロングソードを左手に持ち替えて、マグナムガンを邪竜の頭上の岩に向けて構える。
氷のリングを押し込んだまま、一番巨大な岩に打ち込むと、着弾し崩壊しながら巨大な岩が凍りつき、ツララに変わった。
「ギィィィィィイイイイイヤァァァアアア!!!!」
高所から落ちたツララは邪竜の体を突き刺した。上からも押さえ付けられ、前足での攻撃は伸ばすことしか出来ないだろう。残り2発のマグナムガンも邪竜の顔面に打ち込む。絶叫を上げながら龍鱗がパキパキと凍りついていく。
俺は予め氷属性がエンチチャントされたロングソードを両手で構え直す。
ステータスは入り口と出口でしか確認できない。が、このダンジョンの難易度から判断すると、俺のレベルは15以上には上がっているはず。その状態で、武器は基本剣類しか使っていない。となると、スキルが解放されている可能性が高い。
「試してみるか。【斬撃の刃】」
15レベルを越えると最初に覚えるはずの剣類のスキルを詠唱すると、ロングソードが薄く発光した。エンチャントも解除されていない。
俺は念のため邪竜の正面を迂回しながら駆け出した。
「うおおおおおおおおお!!」
右前方から飛び上がる。このダンジョンでレベルが上がったため身体能力が向上し、想定よりも高く跳べた。
邪竜の首を真横からロングソードで切り掛かった。
斬撃の刃によって、攻撃したラインに氷属性の衝撃波が生じた。邪竜の首は跳ね飛び、傷口は凍りつき、やがて全身ごと塵に変わった。完全勝利だ。
「やった、やったぞ!! うおおおおお!!」
俺は剣を振り上げて、サッカー選手がゴールした時のように喜んだ。心臓がドクドクと高鳴り、脳から大量のドーパミンが溢れてくる感覚。ゲームでは味わえなかった、本物の命をかけた勝利の味は、これ以上にない興奮を与えてくれた。
それと同時に、左腕に痛みが走った。アドレナリンで麻痺していた痛みが意識されるようになったんだろう。
出口が現れると共に、巨大な宝箱が出現する。今までの木箱のような宝箱と違い、装飾が施されていた。レアアイテム確定演出だ。俺は腕を押さえながら近づき、宝箱を開けた。
「おおお!!」
中には抑圧されし邪竜セットが入っていた。
鎧、腰当て、兜、盾、銃だ。
邪剣ではなく邪銃なのは残念だったが、これをみら〜じゅ!メンバーに渡せばレベリングがかなり楽になる。
当てることさえできれば、レベルの上がっていないメンバーでも、10階建てまでのモンスターなら1発で倒せるだろう。超強化マグナムガンってところだな。
ロングソードでもエンチャントとスキルを重ねれば、充分威力を発揮してくれていた。
邪銃でよかったかもしれない。
俺は出口でアイテムを保管する。レベルは28になり、あらたに斬撃系スキルを複数覚えていた。
さらに、称号という欄に【邪竜を狩りし者】と記載があり、派生スキル【龍の舞】を獲得していた。3分間肉体強化がおき、全ステータスが上昇する優れものだ。頑張った甲斐がありすぎる。
俺はホクホクした気持ちで扉の外に出た。塔だった建物はビルに戻った。
すると、封鎖作業をしている作業員がいて、その監督責任者らしき人と目があった。マネキンのように硬直している。
赤いphantomについて国も把握済みだったのね。見たことないから激レアだったのかもしれん。
みら〜じゅ!メンバーにも念のため赤いphantomには入らないように伝えておこう。
「あー、封鎖作業お疲れ様です。でももう終わったんで、大丈夫ですよ」
「…………」
返事がない。左腕の骨折も完治し、痛みは一切なかった。アバターと肉体は別の存在として扱われるのかもしれない。死ぬと戻れるのかどうかだけまだわからないが、生きた状態で外に出れれば、少なくとも問題なさそうだ。
「じゃ、そゆことで!」
「に、二鷹世界様ですよね? たった1人で、3階建てのレッドPhantomを攻略したんですか?」
「あ、はい」
なんで俺のこと知ってるんだ?
「信じられない……。はっ! これはこれは、大変失礼致しました。私、未確認建造物体呼称Phantom対策本部部長牧町と申します」
牧町と名乗った男は名刺を渡してくれた。社会人らしく受け取る。
ははあ、ブラッディポン酢からアプリを通して名前を調べられてたのか。世界ランク一位だったからな、このご時世じゃ国に調べられていてもおかしくない。
しかし、このphantom攻略が国絡みのいざこざに巻き込まれるのは面倒そうで嫌だな。
「夜分に申し訳ないのですが、レッドphantomについての情報共有のためご同行願えますでしょうか?」
「すんません、俺飲み会行かなきゃで」
言いながら携帯を確認すると、電話と場所のラインが入っていた。三次会中らしい。今日は酒が美味そうだ。俺は軽く会釈し、電話をかけながら移動した。
「お、お待ちください!」
「名刺の用意なくてすみません、何かあればTwitterに連絡ください。あ、もしもしごめん今終わった。すぐ行くわ〜」
振り向くと、そそくさと逃げるように飲み屋に向かう俺を、公務員達は呆然と見ていた。
○
次の日。みら〜じゅ!メンバーが作戦会議のために俺の家に集まってきた。三次会から行ったおかげで二日酔いもない。
「お邪魔します」
「失礼します」
「あーしが来た。てか待って。さっき気づいたんだけど、マンションの庭にあるphantomデカすぎぢゃね?」
「みんないらっしゃい。確かに11階建てだから、なかなか見ない高さだね。近くで確認したコトなかったな……念のためちょっと見てくるから、ここで待っててくれる? すぐ戻る」
「あーい」
俺は机の上にティーカップ4つと、茶葉とお湯をいれたポット2つと砂時計机に置いて、塔に向かった。
すると、スーツにトレンチコートを羽織った牧町が待っていた。こいつ、調べやがったな。
「二鷹様! お待ちしておりました」
「なんすか人んちの前で! 職権濫用ですよ」
「申し訳ありません、どうしてもお伝えしなくてはならないことがありまして」
牧町は90度をこえて頭を下げた。そこまでされるとこれ以上怒れない。
「はあ、なんですか」
「天野が二鷹様にご相談があり、至急お会いしたいと申しております」
腰を負ったまま顔だけこちらにむけて、わざとらしい笑顔で牧町はいった。
「天野? 天野って、誰ですか?」
「内閣総理大臣 天野秀史です」
「はぁああ?!?!」
俺は近所迷惑になるレベルの大声を上げた。鳥達が一斉に羽ばたき、木を揺らした。
「今から宜しいでしょうか?」
「嫌ですよ! 友人も来ていますし。あ、そうだ俺この塔見に来たんです。どいてください」
俺は封鎖のテープを勝手に潜ったが誰も止める様子はない。普通の色をした11階建てのPhantomだ。サクッと行って、皆の防具とってくるか。
「ちょっと行ってきます」
「え?!」
牧町は驚き、ついに姿勢を正したが、しったこっちゃない。俺は認証し、中に入った。
やはり封鎖はPhantomの入場に規制をかける効果はない。ただテープで貼って、人が勝手に入らないようにしていているだけなようだ。
入り口で邪竜セットを身につけて、【龍の舞】を発動する。そこからはノンストップで走り続け、モンスターは全員殴ってワンパンで倒し、罠は回避するか破壊して、ハシゴはジャンプでのぼり、ラスボスだったジェネラルゴブリンを邪銃1発で倒した。
宝箱が出現し、愛と加護の指輪とジェネラルゴブリンの鎧と兜が手に入った。
指輪は凛が欲しがってたなそういえば。あげたらきっと喜ぶぞ。
【龍の舞】はまだ発動しているので、2分くらいだろうか。レベルアップで体力も上がっていたので、疲れることもなかった。
出口を出ると、塔が消滅した。これで部屋からの景観が損なわれなくてすむ。さて、紅茶が冷める前に戻らなくては。
「ええええええええ?!?!!?!」
「うお、牧町さんまだいたんですか。大声出さないで下さいよ、近所迷惑です」
「居ますよそりゃ、仕事ですから! もう攻略されたんですか?! 一体どうやって?!」
「昨日入った赤色のPhantomで、いいアイテムが手に入ったんです。多分20階建てくらいまでは余裕ですね」
俺がマンションに戻りながら話すと牧町もついてきた。
「なんと……二鷹様は人類の希望です!」
「はあ、そうですか。とゆうか、どこまで着いてくるつもりですか」
「天野にお会いして頂けるまでです!」
「ええ……」
スーパーヒーローでも見るように目を輝かせて、鬱陶しい牧町は言った。勘弁してくれよ……
「ここで一生でも待ちますんで!!」
本当に玄関の前までついてきて、座り込んだ。良かった、中に入ってくるかと思った。流石に立場上、国家公務員が嫌がる市民の家に押し入ることは出来ないか。
「ただいまー」
「おかえりなさい。世界様、塔がなぜか消えましたよ! これで見晴らしがよくなりますね」
「ああ、今俺が攻略してきました」
「今なんと?!」
「いや、実はめちゃくちゃ強いアイテムが手に入りまして」
3人は驚いているようだが、わりとすんなり受け入れてくれた。
「世界っち流石No.1プレイヤーぢゃん」
「怪我はないですか? 無理しないで下さいね」
左腕が複雑骨折していたことは、今は黙っていよう。
「大丈夫、俺最強だから。そうだ! 凛、お土産あるぞ」
「なんですなんです?」
ワクワクと寄ってきた凛の左手をとり、ダンジョンから持ち出してた愛と加護の指輪を人差し指嵌めた。
凛は右手で口を抑えて喜んでいる。
「体力と防御力が上がる指輪だよ。指輪欲しがってただろ?」
「嬉しすぎます〜! 大事にします!」
凛はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。なんだ、そんなに嬉しいなら指に全部指輪つけてやろう。
「ずるーいずるーい、世界っち、あーしのは?」
「桃のも凄いぞ、デカすぎて持ってくるの面倒だったから、後でな。最上さんにも勿論ありますよ」
「やった〜」
「え、私にも?」
「そりゃありますよ、愛する美鶴ですから」
「あ、あいする…!!」
最上さんの頬が赤く染まった。やばい、おじさんがおじさんに愛するとか言っちゃった。嫌がってなければいいが……
「紅茶淹れますね。丁度いい頃合いです」
俺が空気を変えるためにポットを取ろうとすると、桃が「あーしがいれたげる」と言ってティーカップに注いでくれた。
もう一つのポットも凛が指輪をもらって上機嫌の凛がすでに注いでくれている。
2人に礼を告げるとニヒヒと笑った。
最上さんはまだ心ここにあらずな感じだ。
紅茶がいれ終わる頃に、インターホンの呼び鈴がなった。
「私出ますね」
最上さんが自我を取り戻したように立ち上がった。
「あー、いや多分スーツの人ですよね」
「はい、男性です」
「実は国の人が総理に俺を会わせたいって煩くて。無視して下さい、行きたくないので」
「よ、宜しいのですか……?」
面倒でしかないでしょ、知らん偉い奴に会うのも嫌だし。頭を下げるのは仕事中だけで十分だ。
「あーし生の天野っち、見てみたいかも」
「わ、私も」
2人がミーハー心を震わせているようだ。たしかに芸能人みたいなもんか。
「そんなら、みんな一緒でいいなら会ってやるって言ってみる?」
「いえーい!」
「良いんですか?」
「まあ面倒そうだから断ってただけだし。2人が会いたいならいいよ。紅茶飲んだら話してみるよ」
「先にお話しなくて宜しいので?」
「勝手に調べられて家まできて座り込んでるんだ、好きなだけ待たせておきましょう」
「ひゅー、世界っちかっけえー」
「素敵です!」
「そ、そう?」
俺は照れながら紅茶を啜った。桃がいれてくれた紅茶は、いつもより美味しく感じたのだった。
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、直木賞間近だ、直木賞は流石に無理だろ、カクヨムコン10万文字間に合うの?、人の金で焼肉を食べたい、牛丼は吉野家より松屋派、学生時代突然教室にくる悪漢を倒す妄想をしていた、ミスタードーナッツはゴールデンチョコレートしか勝たん、おでんはセブンイレブンだよな、WindowsかMacならWindows、のどれかを思った方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!
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