第13推活 ゴブリン強スンギってコト?!

「おお、一階増えるだけで急に建物感あるな」


「うう、ちょっと怖いです」


「登る仕組みになってんのかな?」


「そうかもしれませんね」


 俺達はファントムレーダーで予約しておいた2階建ての塔の前にたどり着いた。明らかに自分たちの身長より高くなると、オモチャ感がなくなって、謎の建造物としての威厳のような物が感じ取れた。


「フィンファンネル? って言うんでしたっけ、よくわかりませんが、宜しくお願いします」


 Phantomだ。マンションの公園に2階建ての塔が2つ、3階建ての塔が1つ出来ていた。マンションのオーナーは挨拶を済ませると、そそくさと何処かへ行ってしまう。

 もしかすると、よくわからないものだから怖くて近寄りたくないのかもしれない。


 塔の前で認証を済ませ、入り口についた。

 今日のダンジョン攻略で、装備はこうなった。


 鞘付きナイフ 世界

 木の盾    世界

 皮の上着   世界

 エアガン   桃

 木の盾    桃

 皮の上着   桃

 パチンコ   凛 

 加護の指輪  美鶴 

 エアガン   美鶴

 HP回復薬×3 美鶴


 俺が1レベル。3人は2レベルだ。

 このダンジョンの開始地点では、開始の意思なく手を触れるとステータスの確認と変更のみが出来ることがわかった。

 ダブったアイテムはポイントになって蓄積されている。アイテムに戻すことも可能だ。

 このポイントがどこで何と交換できるのかはわからないが、Phantomと同じなら鍛冶屋やアイテム屋があるはずだ。


 皮の上着は防御力を上げてくれるアイテムだ。アバターの上から着るとすぐに消えたが、出口で確認したところしっかり装備中になり、ステータス補正もかかっていた。見た目に反映されないだけなようだ。

 

「よし、開始しよう。いつも通り、俺が先頭、皆は後ろをついてきてくれ。周りをよく観察するように。2階層から罠があるかもしれない」


「りょ」


「はい!」


「畏まりました」


 手を一斉に当てると、幾何学模様に室内が光り、そのまま輝きが膨らむ。腕で目を抑えるといくらかマシなのでそうしていると、アバターへの変身が済んでいた。 


「美鶴! 4時間ぶりだな、レベルアップおめでとう」


「世界た〜ん! ありがとだっぴ」


 俺は美鶴との再会を喜び、名前を呼び合った。バカップルのようだ。5分ほど戯れた後、扉を進み、罠がないか探りながら道を行く。


「初めての2階建てダンジョンだ、気をつけてな」


「わかってるっぴ!」


「そういえば、美鶴って最上さんの時の記憶はどうなってるんだ?」


「共有してるっぴよ。というか見てるっぴ」


「そうなのか! そりゃなんか嬉しいな。いつも一緒にいたんだな」


「っぴ〜!」


「もうすっかり最上さんと美鶴ちゃんを別人格として接しているのです」


「世界っちの順応力すげ〜よな、あーしらも結構最初戸惑ったのに」


「まあ、俺の場合はアバターで見た目変わってるからね。おっとストップ! 罠だ。やっぱりあったか」


 洞窟のような道の真ん中に、四角い窪みがある。そこを避けて進んだ。 


「なんでわかったっぴ?」


「序盤の罠は落とし穴か、上から降ってくるものが多いだろ? だから上下には特に気を使って進んでるんだ」


「踏んだら落とし穴かな?」


「かもな。ゲームならダメージを少しくらうだけだが、現実のPhantomだとどうなるかわからない。登れず戻れないとかありそうだしな」


「剣山みたいなのがあったら痛いのです」


「痛いというより、死んじゃうっぴぃ」


「そういえばダンジョンの中で死んだらどうなるんだろ?」


 やはりその疑問にたどり着くか。 


「わからないから、死なないようにしとこうな」


「ひぃ、怖いっぴぃ」


「よしよし」


 美鶴が凛にしがみつき、頭を撫でられている。それにしても凛の格好エロいな。これ毎回思ってるな。

 次の扉をあけると、スライムが二体いた。地を這うアメーバがこちらに気付き、這い寄ってくる。 


「2体?! やば、どーしよ!」


「落ち着け、大丈夫だ。隊列を崩さずに。右側のスライムから先に美鶴と凛で攻撃を!」


「わかったのです!」


「っぴー!」


 核はそこまで小さくはない。適当に打っても4〜5発で核に球が当たる。冷静に対処し、難なく2体とも倒せた。 

 すると、上に登るハシゴが出てきた。 


「クリアってことか。宝箱はないみたいだな。先を進もう」


 隊列のまま登っていく。皆のスカートが丸見えなので一番最後に登りたかったが、仕方ない。


 登り終えると、タッチパネルのない入り口のような空間だった。

 先へ先へ進む。道中に罠と単体のスライムが出た。それは俺がレベルアップのために倒した。ステータスは入り口と出口でしか確認できないためわからないが、おそらくこのダンジョン攻略で俺もレベルアップできるだろう。

 それにしても一階増えるだけで、だいぶ難易度が違うようだ。

 次の扉に手をかけようとした時、中から音がした。


「静かに。こいつがボスかもしれない」


「何っぴ?」


「Phantomと同じ敵が今後も出るなら、順番的にはゴブリンか、ジャイアントスライムだろう。ゴブリンの場合は俺が戦闘で前に出る。桃は打たなくていいから、タンクとして美鶴と凛の護衛を。美鶴と凛は俺が合図した時にすぐに打てるように構えて、敵に照準を合わせていてくれ。ジャイアントスライムなら、スライムと同じ作戦だ。いいな?」


 3人は頷き、武器をお守りのように握った。


「よし、いくぞ!」


 扉を開けると、中にはやはりゴブリンがいた。緑色の肌で170cmくらいだろうか。筋肉質な体と、木の棍棒、下半身には布が巻かれている。

 いざ目の前にいるとめちゃくちゃ強そうだな。しかし、振り向くと怯えている推しが3人いた。やるしかない。あと、いいところみせたい。


「いくぞ、作戦開始!」


 俺はゴブリンに駆け寄った。大きく振りかぶり、ナイフで切り掛かる。皮膚が硬く傷は浅い。だが、完全にゴブリンのヘイトはこちらに向いたようだ。怒りに歯を剥き出し、棍棒を構えた。俺は距離を取り、合図する。


「打ってくれ!」


「はい!」


「っぴぃい」


 スライムと違い的が大きいので、基本的に全弾命中できるが、エアガンとパチンコなので致命傷は与えられない。

 ヘイトが2人に向いたので、桃が盾を構えた。


「かかってこいぢゃん!」


 ゴブリンは走っているのに対して、桃は静止している。まずい、このままだと体重差で恐らく跳ね飛ばされてしまう。棍棒で叩かれれば、最悪死んでもおかしくない。

 俺は盾を捨ててナイフを両手で握りしめ、ゴブリンと桃が衝突するラインの真横へ走った。 


「おおおおおおおらぁ!!」


 桃とゴブリンの接触ギリギリに間に合い、勢いよく腕を伸ばし、ゴブリンの首元へ横からナイフを突き刺す。今度は貫通し、ゴブリンの頭は首から千切れた。それと共にゴブリンは塵になって消滅した。

 宝箱が現れる。 


「みんな、怪我はないか?」


「大丈夫っぴ、世界たんは平気っぴか?」


「俺は大丈夫だ。桃、いいガッツだったな。普通ならビビって逃げ出すぞ」


「あーししか木の盾も皮の上着も着てないから、避けたら2人が危ないぢゃん」


 桃、俺よりカッコいいよ。俺はすけべ心で奮い立っただけだったよ。


「世界さん、桃ちゃん、かっこよかったのです!」


「これは平日は一階建てだけ行ってもらうことになりそうだ。レベルが上がれば遠距離2人の攻撃力も上がりそうだし、コツコツやっていこう」


「賛成すぎ」


「私も賛成なのです」


「っぴぃ」


「よーし、じゃあお宝ゲットと行こうか」


 開けると中にはウサギの耳のカチューシャが入っていた。同時に電子パネルと出口が現れる。クリアで間違いなさそうだ。


「ウサ耳カチューシャだ。速度アップと跳躍力アップだな。俺がつけてみる」


2階でウサ耳カチューシャが手に入るのはラッキーだ。


「つけてあげるのです」


「お、ありがと」


 凛が受け取り、俺が頭を下げると、見た目上のヘルムの上に被せてくれた。すぐに見た目からは消えてしまう。

 見た目にも残るならこれは是が非でも凛につけて欲しい。

 俺は試しに走ってみた。 


「おお!! これは流石にわかるぞ! 体感1.25倍速くらいで体が動く」


「世界たん、うさたんみたいっぴ!」


「ほーら、ぴょんぴょん!」


 俺は美鶴が嬉しそうにしていたので、ウサギのふりをして飛んでみると、ジャンプ力もかなり上がっていた。

 桃と凛も真似して飛び跳ね出した。美鶴はそれをみてキャッキャと笑い一緒に飛び跳ね出した。尊い。

 一通り遊び終わり、俺のストレージから鞘付きナイフとうさ耳を桃に預けて出口にでた。


「ふぉー、帰ってきたぢゃーん」


「毎回戻って来るたびに安心しますね」


「お疲れ様でした」


「最上さんもお疲れ様でした。現実Phantomの攻略のキモはアイテム集めと、堅実なレベリングにありそうですね」


「そのようですね」


「めちゃくちゃスムーズに美鶴と最上っち入れ替わってるぢゃん」


「大人って凄いです」


「いえ、私はまだ恥ずかしいです」


「え、そうなんですか?」


 4人は笑い合った。今日も無事帰って来れてよかった。


「じゃあそろそろ解散しますか。進捗は出来れば細かめにディスコードに連絡下さい。俺も平日仕事終わりにフラッとPhantomに寄ってレベリングしておきます」


「1人で大丈夫なん?」


「このくらいの階層ならむしろ1人の方が、皆を守らなくていいから動きやすいよ。元々ソロプレイヤーだし」


「必要であればいつでも呼んでくださいね! 私だけでも行きますから」


「ありがとな。でも夜は配信しなきゃだろ。土日に配信なかっただけでTL結構荒れてたぞ」


「やべ、ツイートするのも忘れてた」


「私もです」


「恥ずかしながら私も」


「あくまでアイドル活動費のためのリアルPhantomだからな。最上さんは活動者しながらマネージャー業完璧にこなすなんて無理ですから、肩の力抜いてくださいね」


「世界様、ありがとうございます」


「とんでもないです。じゃあ、また来週に!」


 手を振り解散し、家に戻った。洗い物などは出る前に皆がしてくれていたので、部屋は皆が来る前より綺麗になっていた。 

 逆に、賑やかだった分寂しいな。祭りの後ってやつか。しかし、昨日からドタバタだったのと、ピンサロで6回転していたので疲れがドッと溢れて、俺はすぐ眠りに着くことにする。


 次の日。出勤中の俺に、ダンジョン攻略を終えた皆からの進捗報告や集合写真がディスコードに送られてきた。めちゃくちゃ嬉しくてちょっと泣いた。

 仕事終わりの夜は、伝えていた通り1人で1〜2件の1階建ての塔を回った。1人だと全部自分に経験値やボーナスが入るため、レベルアップで遅れることも無さそうだ。

 ディスコードにこちらも進捗報告を忘れずに入れる。

 帰り道にみら〜じゅ!がメンバー入れ替わりで雑談配信をしていたので、聴きながら帰った。スパチャも投げた。

 約束していた皐月も呼んだ。なぜか喜びすぎて泣いていた。プロにもほどがあるだろう。

 未来のソープにも、清潔感を勧めてくれたお礼で行ってきた。


「世界君絶対もっとカッコよくなれるよ、もったいない」


 と言葉を選んでいたが、多分くせーから体よく洗え、しわしわの服で来るなってことだったんだろう。今となっては感謝しかない。


 あれ、もしかして俺風俗行きすぎ?

 まあいっかまだ貯金あるし、働ける体もあるし、性獣もおさまるし。

 風俗の帰り道に凛や桃からソロの自撮りが届くと少し心が傷んだが、この子達に手を出すわけにはいくまい。それに、俺は今充分幸せなんだ。

 

 こんな毎日がずっと続くのかもと、気楽に胸を膨らませていた自分を、俺は許せなくなることをまだ知らない。


        ☆☆☆

 ご愛読ありがとうございます!

 君のためなら生きられる。です。

 ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、直木賞間近だ、直木賞は流石に無理だろ、カクヨムコン10万文字間に合うの?、人の金で焼肉を食べたい、牛丼は吉野家より松屋派、学生時代突然教室にくる悪漢を倒す妄想をしていた、のどれかを思った方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!

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