第9推活 この世の終わりってコト?!
「俺が出る!!」
「きゃっ」
俺は裸のまま浴室を飛び出した。凛にだらしない中肉中背見られてしまったが背に腹は変えられない。
フローリングを濡らしながら、靴も履かずに玄関を開けた。
「皐月、またせた!」
デリヘル嬢の皐月はインターホンから返事がなかった挙句、裸で飛び出して急に扉を閉めた俺を見て驚いた。
「え、まってここでしてってこと? 世界君の変態」
皐月は茶髪を耳にかきあげながらこちらをジッと見つつ笑って、膝をついた。腰に手を回され、股間に顔が近づく。
ちがーーう!!
でも興奮している自分がいる!!
今度頼んでみよう!!
「違うんだ、今日は帰ってくれないか」
「え? どゆこと? 皐月なんか悪いことした?」
瞬間、皐月の顔が泣きそうになった。隔週くらいで呼んでいたので、リピーターを失いたくないのか必死なんだろう。
「してないけど、頼む、帰ってくれ」
「まってまって、ほんとに怒ってないの? 皐月、世界君に嫌われたくないよ」
「本当に何の問題もないんだ」
まさか18歳のアイドルが家に来ているからとは言えない。なんとか誤魔化さなければ。
「じゃあ、また呼んでくれるよね? 約束のキスして」
皐月は目を瞑った。俺は早く帰さなければと思い、皐月の後頭部に手をかけてキスをした。
「また必ず連絡する。ごめんな」
「うん。ちゅーありがと、皐月も連絡するね」
皐月の寂しそうな背中を見送った。あいつ、プロだな。人気なわけだ。
部屋に戻ると凛はソファーに座って、テレビを見ていた。
「ごめんごめん、帰ったよ」
誰だったかの言い訳は思いつかなかったので、とりあえず触れずにいこう。
「はい」
心なしか凛の声が震えていたように聞こえたが、寒かったので俺は浴室に戻った。
流石に凛の残り湯を飲む気にはなれなかったので、大人しく浸かり、入念に体を洗う。
いや、やましい気持ちはないですよ。体臭予防です、ミドル脂臭ってやつ。
寝巻きのジャージに着替えて、化粧水をつけ肌を整える。
スキンケアは30歳から始めたが、中々さっぱりして気持ちがいい。
ドライヤーを取りに行こうとリビングに出ると……凛がいなかった。
コンビニにでも行ったのかもしれない。
机の上に置かれていたドライヤーを取り、脱衣所で髪を乾かす。
あれ、そういえば凛が持って来ていた、でっかいカバンもなくなっていたな。コンビニ行くだけなら、財布しか持たないような。
俺は不穏に思い、半端に乾いた髪の毛のままリビングに戻る。
机の上には、麦茶が入ったコップが2つ置かれていた。荷物は何もかも無くなっていた。
玄関の方を振り返ると、インターホンが視界に入った。
俺はその瞬間、全てを理解した。
扉の外でしていて、見られていないと思っていた会話とキスシーンは、全てリビングに嫌でも聞こえる音量でスピーカーされて、モニターから中継されていたことに。
「やっちまった」
窓の外を見ると、雨が降っていた。
○
「かんぱーい」
「桃さん、今日もお疲れ様でした」
最上と桃は事務所兼自宅で晩酌をしている。桃はハーブティで、最上は桃が注いでくれたビールだ。桃も酒を飲みたがるが、最上に止められている。
「最上っちもお疲れぃ。今日は色々あったねぃ」
「そうですね。世界様が優しい方でよかった、殺されるかと思いました」
「いや、なんでよウケる。最上っち考えの飛躍がぱねぇ。逆に切腹しようとしてたもんね笑」
最上はビールを一気に飲む。
「ぷは。いやー普通は少なくとも怒ると思いますよ。推しのVtuberが隠れバ美肉だったなんて」
「よかったね、世界っちが優男で」
桃はビールを注ぎながら答えた。最上は小さく会釈をする。
「ですね。凛さんと仲良くしてるでしょうか」
「ああ、凛々はもう世界っちLOVEだし、今頃良い雰囲気かもね」
「え?! そうなんですか?」
「まって、気づいてなかったの? やば。むしろ怖。ゲームしてる時も明らかにオキニ対応してたぢゃん。会ってからもずっと好き好きアピってたよ?」
「まったく気付きませんでした。広い布団で寝たいだけかと。そうですか、お二人がお付き合い出来るといいですね」
最上は独り言のように呟き、またビールを煽った。
「……ねえ、最上っちはいいの?」
「ええ、彼女ももう18歳ですし、1人の女性として恋愛を__」
桃は最上の話を遮る。
「凛々のことぢゃなくて。世界っちのこと、LOVEぢゃないの?」
「え? いや、美鶴は世界様のことが好きですけど、私はおじさんですし」
「おぢだからなんて関係ないよ、好きか好きぢゃないかの気持ちには。ぶっちゃけ最上っち、女の子に興味ないでしょ」
「あー、そう、ですね。あまりないです。昔は女性とお付き合いしたこともありますけど」
「え?! そうなん? まって、あーしいつも結構エロい格好してるけど実はムラムラしてるの我慢させてた? 男の人が好きなのかと思ってた」
桃は露出の高いランジェリーを着ていた。胸を手で隠す仕草をわざとらしくしている。
「いや、桃さんと凛さんは娘みたいなものなので。男性とお付き合いしたことはないですね。なんていうんでしょうか、あまり性欲ががないのかもしれません」
「へー。アセクシャルってやつかも」
「汗臭い?」
最上は風呂に入り寝巻きに着替えていたが、自分の匂いを嗅ぎ始める。
「アセクシャル! 最上っちはいつも甘い匂いしてるよ。最上っちの世代だとあんまり解明されてなかったかもだけど、そういうのがあるんよ」
最上の食生活は果物と野菜とパフェがメインで、動物性タンパク質を殆ど摂らない。ヴィーガンというわけではなく、肉を食べると胃もたれする体質のためだ。
体臭が減るが、副作用でタンパク質不足から髪が減り白髪が増える。
「たしかに、普通の男性なら桃さんや凛さんのような若くて綺麗な女性が下着姿でウロウロしてたら、何かしら思いそうなもんですね」
「そうだよ! 今とかヤバいよ? 19歳のアイドルにランジェリーでお酌されてるよ?」
「ははは。面白いこといいますね。いつもお酌ありがとうございます」
「こちとらガチだが? それで、最上っちはほんとに世界っちのことは好きぢゃないの?」
桃は新しい缶をあけ、最上のコップにビールを注いだ。最上はまた小さく会釈をする。
「うーん。正直、この気持ちがなんなのかわかりませんが、世界様には幸せになって欲しい、と思っています」
最上はまたビールをグビグビと飲んでいく。今日はどういう訳か、いつもより酒が進む。
「愛ぢゃん。LOVE越えてるよそれ」
「だから、凛さんが世界様を好きで、お二人が結ばれるのであれば、私としてはこんなに嬉しいことは……あれ」
最上は気付くと唇を震わせて泣いていた。
「お、おかしいですね。嘘偽りないはずなんですが」
「最上っち!」
桃が最上を抱きしめた。豊満なHカップに顔を埋められたが、最上はデレデレする様子はない。
最上はゲイというわけではない。ただ、世界に対して何か特別な感情を抱いていることは確かだ。
それは美鶴の状態で美少女として接している感情が混ざっているからなのか、それとも自分自身の感情なのか、わからずにいた。
「嫌ですね、歳をとると涙脆くなるみたいで」
「よしよし、辛かったね。話してくれてありがとぢゃん」
「ありがとうございます。私の気持ちは正直まだよくわかりませんが、凛さんも世界様も大切なことは確かです」
「あーしもだよ」
最上が落ち着き、顔を上げるころに、玄関の扉があく音がした。事務所兼リビングへは廊下にあるキッチンを挟むだけだ。
「え? 不審者?」
「桃さん、ここにいて下さい」
最上が申し訳程度の武器としてコップを手に取ったまま、ゆっくりとリビングから廊下への扉をあけると、びしょ濡れの凛が玄関でしゃがみ込んで泣いていた。
「凛さん!」
最上が凛を呼ぶ声を聞き桃は飛び出した。
「凛々どうしたの?! まさか世界っちに乱暴されたの?」
凛は無言でフルフルと首を振る。
相当無理やり乱暴に扱わなければ、凛が世界を拒否するとは思えない。
だが、世界が凛を泣かせていることは確信出来た。
世界が関係ないのなら、凛ははっきりとそう伝える子だからだ。
つまり凛は今、世界のせいでこうなったにも関わらず、世界を庇っている。
最上はお湯を温め直し、凛の肩を抱き浴室に連れて行った。ひどく体が冷えている。この雨の中傘もささずに走ってきたんだろう。
桃は上着を羽織り、携帯と財布の入った鞄を取り家を飛び出した。
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
ついにシリアスシーンがやってきました。果たして二鷹世界は、ここから信用を取り戻すことができるのか!
ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、直木賞間近だ、直木賞は流石に無理だろ、星1000個あげたい、のどれかを思って頂けた方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!
是非皆様のお力を貸して下さい。
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