第8推活 アイドルと同棲ってコト?!
「うわあ、すっごく広くて綺麗! 事務所と大違いです、東京でこんな広い家初めて来ました」
やけにテンションの高い凛が俺の自室にいる。大きなお泊まりセットのカバンを腕にかけている。
信じられないが、妄想すらしていなかった光景が、今目の前に広がっているようだ。
部活もサークルもしてなかったので、勉強は暇つぶしにそれなりにしていた結果、運良く一部上場企業に勤めること12年、それなりのサラリーをもらっていた俺の人生が報われていくようだった。ちょっと無理して良い家に住んでいて良かった。
「ソ、ソウカ。ヨカッタヨ」
「?? 凄いカタコトになってますよー?」
凛が俺を覗き込んで、上目遣いで笑った。
カタコトどころか言語ごと失いそうだ。
「ハハ、キノセイダヨ」
「そうだ、世界さん待たせたら悪いなと思って、お風呂も入らず来ちゃったんです。申し訳ないんですが、お借りしてもいいですか? 私ちょっと汗くさいですよね」
いいや??!!
強いて言うなら花の香りがしてますよ?!
蜂に狙われるよ?!
「ゼンゼンクサクナイヨ。モチロンオフロハドウゾ。コッチダヨ」
俺はロボットのようにガチガチに固まった体で浴室に案内した。凛がクスクスと笑っている。冗談だと思われているのだろうか。こちとらガチでガチガチだ。
しかし、扉をあけて第三者の視点で浴室を見ると、風呂掃除を全然してなかったことに気付いた。結構ピンクカビがはえている。
「ごめん、掃除できてなかった! ちょっと待ってね」
俺は洗面台の下からスポンジと浴室洗浄剤を取り出すと、腕を凛が掴んできた。
「私やりますよ! お風呂掃除得意なんです」
「いやいや、ゲストにそんなことさせられないよ」
「むしろ宿泊のお礼が出来て嬉しいです! そのままお風呂入っちゃうので、覗かないで下さいね?」
有無を言わさず俺は脱衣所から追い出される。凛がワンピースを脱ぐ衣擦れの音がした。
ゴクリ。
落ち着け。落ち着くんだ。
想像したら負けだ、凛が服が濡れないように全裸で掃除をして、そのままお風呂に入ろうとしていることを想像したら負けだ。
俺は、負けた。
脳は否定系を理解できない。ダメだと思いながらバッチリ想像してしまった。
みら〜じゅ!の曲を鼻歌しながら、シャワーを浴槽に流して浴室を暖かくする音と、ゴシゴシとタイルを擦る音が聞こえてくる。
自分の下半身に目をやると、痛いくらいにパンパンに聳え立っていた。そう、突如現実世界に顕現したPhantomの塔のように、ってやかましいわ。
俺はトイレに走って、鏡に映る自分を見ながら抜きまくった!!!!
鎮まりたまえ!!俺の性獣!!!!
なぜそのように荒ぶるのか!!!!
父と子、大地と精霊とおっぱいとうんち!!
……やれやれ。
どれくらいの時がたったのだろう。
3回目の放出でなんとか理性を取り戻し、支離滅裂オナニーを終えた俺は両手を合わせ、なぜ世界から争いが無くならないのか嘆き、世界平和を祈った。
トイレから出ると、湯上がりの凛が居た。思ったより時間が経っていたようだ。
というかパジャマの凛可愛すぎだろ!!
白く長い太ももが露わになるホットパンツと、チャックで前開きなすぐ脱がせるタイプのモコモコのパーカーを着ている。上下セットの白熊の着ぐるみのようだ。
「バスタオルお借りしました! お湯も沸かしてあるのでどうぞ。あ、私入っちゃったので一番風呂じゃなくなっちゃいましたね、すみません」
おい。
わざとやっているのか?
世界平和の気持ちが遠いて行き、カタコトになっていく。
「ソウジアリガトウ」
「いえいえ。あれ、なんか顔テカテカですよ? 美容のためにオリーブオイル塗ってます?」
「……ウン」
「お肌に良さそうですね、私も塗ろうかな」
「ハハ、ジャアオレモオフロハイッテクルネ」
「はーい」
脱衣所につくと、凛の脱いだ服と下着が綺麗に畳まれていた。
松田!!
誰を撃っている!!
これは罠だ!!!!!
俺は新世界の神だ!!
心のキィラが叫び出す!!
ダメだ、手を伸ばして嗅いだらおしまいだ。葛藤していると、俺の後頭部らへんに天使と悪魔が現れる。
天使「嗅いどけ」
悪魔「嗅いどけ」
おーーーーい!!!!!!
無能すぎるぞ天使!!
むしろお前の方が早く嗅いどけって言って___
ガチャ。
「すみません」
「うわぁ!!」
扉を小さくあけて、覗かないように凛が声をかけてきた。
「ドライヤーってどこにあります?」
「タガタメニカネハナル!!(誰が為に鐘は鳴る)」
「え?」
テンパって訳のわからないことを言ってしまった。マチカネフクキタル。
「ゴ、ゴメン。ハイコレ」
「きゃ! すみません私いつもの癖でお洋服置いたままで。洗濯するとき桃と下着をネットに一緒にいれてて」
ミスって下着とワンピースを渡してしまった。Dって書いてあった。もう少し小さいかと思っていたが、アンダーが細いんだろう。魂にタトゥーした。ついでに激アツ情報を口走っていることに気付いているのだろうか。
逆に冷静になった俺はドライヤーを手に取った。
「これだね。はいドライヤー」
「ありがとうございます」
「自分の家だと思って楽にしてて。冷蔵庫に麦茶とコーラがあるから飲んでね」
「いれて待ってますね!」
「ありがと」
ふ。俺は紳士だ。支離滅裂オナニーは遅効性の波もあり心を無へと誘う。俺は森林の奥深くで佇む、波一つない神聖な湖の擬人化だ。
バレエを踊るように脱衣所の扉をしめて、服を脱ぎ洗濯機に放り投げ、浴室の扉を開く。
??????
同じシャンプーとボディーソープだよね?
完全に股間にくる匂いに変わっている。
男女使えるようなタイプだったとはいえ、こんなこと科学的にどう説明すればいいんだ。
凛の体臭である花の香りとケミストリーしてるのか?
俺は自分の臭いが空間に混ざる前に15回ほど深呼吸した後、浴槽に溜まったお湯を見る。
やめろ、やめてくれ、頼む。
俺は自分に失望したくない。
しかし俺の手はゆっくりと浴槽の水を掬い、口に運ぼうとしている。
俺の中の天使と悪魔がまた現れる。
天使「飲んどけ」
悪魔「流石にやめとこ?」
俺は振り返ると共に、背後に浮かぶ悪魔を勢いよくぶん殴った。
天使と熱い握手を交わし、浴槽に顔ごと突っ込もうとした刹那___
「あの、すみません。女性の方がいらっしゃってて。インターホンの対応ボタン押しちゃったんですけど、私が出てもよろしいでしょうか?」
凛が脱衣所から声をかけた。全身の血の気が引いていく。
俺はデリヘルを予約していたことを、忘れていた。
☆☆☆
ご愛読ありがとうございます!
君のためなら生きられる。です。
ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、直木賞間近だ、直木賞は流石に無理だろ、のどれかを思って頂けた方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!
是非皆様のお力を貸して下さい。
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