第6推活 この気持ちはわからないってコト?!

 最上さんは子供のようにキラキラとした表情から、徐々に険しい表情に変わっていった。憑依していた美鶴がとれたかのようだった。


「申し訳ございませんでした!!」


 男最上、全身全霊の土下座である。おでこが庭の土についている。


「あ、いえ、むしろなんかすみません。中で女の子扱いしちゃって」


「いえ、それは嬉しか、いえいえいえ!! なんとお詫びしたら良いか!!」


 ヨレヨレのスーツのおじさんを土下座させるのもなんだか居心地が悪い。


「顔を上げてください」


「は、はい!」


 俺もしゃがみ、最上さんの肩に手を置いた。


「俺は怒ってないんです。本当です。ただ、今だけは、泣かせてください。っう……ううっ」


「ああああ!! し、死んでお詫びします!!」


 最上さんは俺が持っていた、ダンジョンで手に入れたナイフを奪い取った。


「最上っち! はやまっちゃダメぢゃん!」


「そうです、落ち着いてください!」


 俺は慰めるつもりだったが、突然溢れ出した自分の感情を制御できず、逆撫でする結果になってしまった。2人が最上さんを押さえつけてなだめているが、最上さんが落ち着く気配はない。


「私は取り返しの付かないことをしてしまいました! 責任をとって今ここで腹を切っ……て……」


 最上さんは、ナイフを持った手に目をやると、自分の中指についている指輪に気付き、動きを止めた。今度は怖いほど冷静に、最上さんは淡々と顔を歪ませた。


「ううっ……私の中の美鶴が……まだ死にたくないと……」


 なんなんだこの感情は。しらない感情だ、恋でも、憐れみでもない。ただただ溢れ出るこれは、なんだ。

 俺はもう最上さんの言葉を最後まで聞けずに、最上さんが大切そうに見つめる指輪をしている手を握った。


「最上さん!」


 呼びかけると、最上さんはハッとして俺と目を合わせる。しかし、すぐに逸らしてしまう。俺は手を握ったまま、言葉を続けた。


「いいんです。むしろ俺の推し、美鶴を産み出してくれて、感謝しています」


「……世界様」


「時間はかかるかもしれませんが、お互いに尊重し合えるラインを探しましょう。俺は最上さんとも仲良くしたい。だってこんなに必死に、みら〜じゅ!のために尽くしてくれてるじゃないですか」


「許して下さるのですか」


「許すも何も、最初から怒っていませんよ」


「うっ……なんとお優しい」


 凛が隙を見せた最上さんからナイフを奪った。桃は最上さんの背後をとり、脇をくすぐりだす。


「あーしは暗い空気嫌いなんだよ、笑えよ最上っちぃぃいい」


「ひー!! や、やめてください桃さんっあっ!ちょっと、あー!!」


 こうして、最上さんの切腹未遂事件は幕を下ろした。くすぐられて声が高くなった最上さんは、時々美鶴みたいな声を出していた。

 俺はその時、美鶴の声がおじさんから出てるのを目の当たりにして、まだ普通にショックだった自分に気付いた。

 だけど、最上さんは最上さん、美鶴は美鶴として接していけば問題ないよね、ハム次郎……。


 ○


 首相官邸。閣議室の円卓にて、内閣総理大臣を含む大臣達が、この緊急事態について議論していると、ノックの音が鳴り響いた。

 内閣官房長官の黒瀬が、内閣総理大臣の天野に視線を送る。天野が一つ頷くと黒瀬は丁寧に会釈を返し、返事をした。


「どうぞ」


「失礼します」


 男は入ると、扉のすぐそばに立ち頭を深々と下げた。


「未確認建造物体呼称Phantom対策本部部長牧町であります。Phantom世界ランキング一位、ブラッディポン酢を発見致しました。名を二鷹世界。東京在住34歳の未婚男性です」


 大臣達はどよめいた。

 牧町は官房長官である黒瀬直属の手足として動く部下だ。今は対策本部の長をまかせている。

 テクノロジーに強く、ファントムレーダー開発も仲間達と数時間で完成させた有能である。 

 このアプリは世界同時緊急事態宣言を受けてアメリカ側から提供されたGooogleマップの一部提携機能と連動し、発見、もしくは通報があった塔を地図上に現せる優れものだ。

 また、5階以上の塔には、ファントムレーダーを通した登録が出来ないようになっている。登録がない場合報奨金が発生しない。そうして、それ以上の塔に進むことを念のため制限している。


 なぜなら、国家公務員、警視庁、陸海空自衛隊隊員から選出されたPhantomユーザーを一部調査に向かわせたところ、10階以上に向かった者は、全員帰ってこなかったからだ。


 外の武器はダンジョンに持ち込めない。中でアバター認証をしないとダンジョンが始まらないからだ。

 持ち込めるのは、ダンジョン内で手に入れた武器、防具、アクセサリーのみ。

 ダンジョン内で手に入れたアイテムを外に持ち出すことは可能だが、3Dプリンタによる量産など色々試みた結果、すべて失敗に終わった。地球にない元素で構成されている何かがあるようだ。


 そして、この呼称Phantomは、オンラインゲームのPhantomと同じ構造、同じモンスターが出てくる。


 そこで白羽の矢がたったのが、世界ランク1位ブラッディポン酢こと、二鷹世界だ。彼はその名の通り、世界の救世主になるのかもしれない。

 そしてその強大な力が他国に奪われる前に、我が国日本が手綱を握る必要があった。そのためにファントムレーダーにアカウントの認証を義務付けた。 

 本来であればアプリの使用上必要ないが、これは強者を炙り出すための策略だった。 

 オンラインゲームのPhantomは、最初の登録に顔認証と指紋認証を行うようになっている。おそらくそこから入り口と中で二段階認証を行っているのだろう。 

 つまり、5階以上の塔にも、Phantomユーザーは入れてしまう。報奨金がなくても、命の危険はないと誤解し、遊び感覚でより強いモンスターのいる塔へ入っていく可能性は高い。 

 時間との勝負だった。彼らが気付き、そして戦死する前に、組織しなくてはならない。


「牧町、よくやりました。二鷹世界を誘致する準備を。34歳独身となると、やはり心を動かすには女性でしょう。Phantomユーザーだったアイドル、AV女優、風俗嬢、モデル、港区女子、芸能人、キャバ嬢、片っ端から綺麗どころを探して雇ってください」 


「はっ!」


        ☆☆☆

 ご愛読ありがとうございます!

 君のためなら生きられる。です。

 次回から天使と悪魔編に進みます!

 ここまでで少しでも面白い、続きが気になる、書籍&アニメ化希望、来年のセンター試験国語に採用されるべき、ハリウッド実写映画化が見えた、友達に勧めたい、のどれかを思って頂けた方は、シオリと星を頂けると大変励みになります!

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