第4推活 純愛ってコト?!

 最上さんがいた所に、推しの美鶴がいた。美鶴を凛と桃がなぜか体で隠した。


「美鶴?! どうしてここに? というか最上さんが居なくなったぞ、これヤバくないか?」


 俺は最上さんに事故が起きたのか、ダンジョンに迷い込んでしまったのかと思い、キョロキョロと探す。しかし心は凛と桃の後ろに隠れる美鶴に釘付けだった。


「せ、世界っち。バイブス下げて、チルな心で聞いてね」


「なんだよ、美鶴に会えたのは嬉しいけど、それどころじゃないだろ、最上さんいなくなってるんだぞ」


「居なくなってないのです」


「は?」


「美鶴っちの魂は……最上っちなんだ。ほら、美鶴っち、王子様に挨拶しな」 


「世界たん、騙すつもりはなかったんだっぴ、ごめんなさいっぴぃい」


 美鶴はしゃがみ、桃の太ももを掴んだまま体を半分出して俺を見ると、心底申し訳なさそうに泣いていた。それを凛と桃が慰めている。 


 俺は理解が追いつかず立ち尽くしていた。

 中の人がババアである覚悟はしていた。だけど、まさかマネージャーがやっている、バ美肉おじさん(バーチャル世界で美少女を受肉したおじさん)だとは思いもしなかった。


「え? え? 声は?!」


「女声なのです。元々声が高いから、結構すんなり萌え声を習得したのです。私達2人だけじゃ弱いかなってなって、最上さんに無理言って始めてもらったのです」


「世界たんに嫌われたっぴぃいい」


「美鶴っちぃ、泣くなよ、あーしがついてるから!」


「人格も変わってないか?!」


「バ美肉中は恥ずかしさを捨てるために別人格を作ってやっていたら、自然と切り替わるようになっていって、本当に心は美鶴ちゃんになっているのです。我々も美鶴ちゃんの時は、美鶴ちゃんとして接しているのです」


「美鶴の魂がおじたんだと知られてしまったぴぃぃいい」


「えええええええ?!?」


 ただでさえ桃と凛が現実世界でも同じすぎて驚愕していたのに、今度は逆に推しの美鶴が最上おじたん?!?! 

 最上さんに嫌悪感はまったくないどころか、丁寧な対応で好印象だった。 

 だけど! だけどだけどだけど!

 そうか……美鶴の魂は……ちょいハゲ白髪のくたびれたおじさんなのか……


 俺は膝をつきうなだれてしまった。


「世界っち、そんなに落ち込むなって! ほら、身長と声は同じだぞ!」


「あ、ああ。そうだな」


 逆に言うと、同じなのはそれだけだ。いや、Vtuberの中の人に類似性を求める方が間違っているのはわかってる。だけど……。俺はもう一度美鶴に目線を送る。


「世界たん、ごめんなさいっぴぃ」


 ぴぇぴぇと泣く俺の推しは、推しは……素直に可愛かった。ピンク色の髪を揺らし、子供のように目を腫らしている。

 しかしその度に最上さんが同じ表情をしている映像が脳裏に浮かんでしまう。

 だけど、俺が推しを泣かせているという現状だけは、嫌だった。俺は話し合うために、声をかけた。


「も、最上さん」


「っぴぃい」


 俺が呼ぶと、美鶴はより顔を歪め涙を溜めていた。逆効果だったようだ。


「世界っち! 美鶴って呼んでやってくれよ!」


「私からもお願いなのです!」


 桃と凛が俺の肩を掴み揺らした。俺はもう一度不安そうな美鶴を見た。


「……み、美鶴」


「っぴぃ……!」


 美鶴は、あからさまに嬉しそうな表情をした。その顔を見たら、もうなんか悩んでたこととか、全部どうでもよくなった。


「美鶴、美鶴! 美鶴!! 美鶴ぅぅぅうう!!!!」


 俺は気づくと目尻に涙を浮かべ、膝をついたまま両手を広げていた。


「せ、世界たーーーん!!」


 美鶴が駆け寄り、俺の胸に飛び込んだ。小さくか弱い女の子の体だ。


「うっ……世界っち、あんた男だよ」


「男の中の男、漢なのです」


 桃と凛が涙を浮かべ拍手をしていた。美鶴は俺の胸で泣き続けた。

 美鶴からはおじさんの匂いではなく、甘い匂いがした。Phantom内では、アバターの情報の通りの肉体にどういうわけか書き換わっているらしい。押し当てられるおっぱいも柔らかい。

 俺はもう、覚悟を決めた。おっぱいが決め手なことは秘密だ。

 泣き止まない美鶴の肩を押して顔を合わせて、満面の笑顔を向ける。


「美鶴、会えて嬉しいよ。ちょっと動揺しちゃって、ごめんな酷い態度とってた。許してくれ」


 俺の目尻から一筋の涙が溢れた。美鶴は感極まり、また抱きつき叫んだ。


「世界たーん!!!!」


「世界っち!!」


「世界さん!!」


 桃と凛も俺を抱きしめてくれた。推しのアイドルチームに抱きつかれて、これを喜ばないやつがどこにいるんだ。


「みんなありがとう。もう大丈夫だPhantom攻略、行ってみよう!」


「はいなのです!」


「あげてこー!」


「っぴ!」

  

 何があっても俺が3人を守ろう。

 俺たちは未来に向かって歩き出した。


 彼女たちは活動開始して1年ちょいくらいだったはず。大人の俺が引っ張らなくては。始めた頃の年齢で設定していたとすると、凛は大学生の代の18歳、桃もまだ19歳だ。美鶴はもが……考えないようにしよう。美鶴は美鶴なんだ。あの感じだと、多分7歳くらいだ。


「っぴ、っぴ、っぴ、っぴ」


「美鶴っち、あんまり急ぐとこけちゃうぢゃん!」


 美鶴を桃が気遣って追いかけていく。

 見ろよあのベイビーステップ。可愛いだろ、俺の推しなんだ。歩くたびにっぴっぴと声を出して、上機嫌なんだきっと。 


 モンスターが出るかと思い、次の扉を開ける時には俺が先陣を切ったが、特にこれといったモンスターも罠もなく、おそらく一番奥であろう宝箱が置いてある部屋についた。 


「あれがモンスターなのです?」


「いや、わからないな。俺が開けるから、皆は離れててくれ」


 3人は頷き、3mほど距離をとった。

 というのも、入り口で手を当てた時に表示されていたステータスはレベル1で、装備もしていなかったからだ。

 ゲームの世界と同期されるのは見た目だけらしい。 


 俺は恐る恐る宝箱を開けた。


        ☆☆☆

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