第2推活 Blu-rayよりヌルヌル動くってコト?!

「俺ってこんなに承認欲求強かったのか……」


 みらーじゅ!公式からのDMで夢を確信した俺は、恥ずかしくなりDMを開かずにもう一度オフトゥンに舞い戻った。

 いくらなんでも痛すぎる。目が覚めればきっと夢からも覚めるはずだろうと思い、念のためアラームを11時にセットして眠りについた。


 ○


 夢ならまだ醒めないで〜鏡の向こうでも微笑んで〜


「んあっ」


 俺はスマホから流れるみら〜じゅ!オリジナルソング、鏡の国のお姫様で目を覚ました。

 二度寝でぼやけた頭と視界を窓の向こうに向けると、変わらず塔が公園からはえていた。

 このマンションが8階建てで、ここが6階だから、それより大きいこの塔は10階建てくらいだろうか。 


「夢じゃないのか……あれ、ってことは」


 俺は急いでスマホを開く。変わらずにみら〜じゅ!公式からDMが来ていた。

 震える指先でメッセージを開く。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ブラッディポン酢様 


 いつもみら〜じゅ!を応援頂きありがとうございます。代表兼マネージャーを務めております、最上と申します。

 Phantomダンジョン顕現による世界同時緊急事態宣言のニュースはご覧に頂けましたでしょうか? 

 厚生労働省のHPを確認したところ、塔が高いほど報奨金は高く、また危険な可能性があるそうです。連動するアプリが数時間後に公開される予定です。


 ここで一つ、恥を忍んでご相談があります。こんなことをファンの方にお伝えするのも恐縮なのですが、みら〜じゅ!は経営難から活動継続が厳しい現状にあります。

 ニュースと共に凛、桃、美鶴に意思確認をしたところ、この呼称Phantomの調査に協力し、得られる報奨金を活動費に当てることが決定しました。

 つきましては、現実世界でお会いすることになってしまい大変恐縮ですが、世界最強Phantomプレイヤーのブラッディポン酢様に、我々とチームを組んで調査に参加して頂ければ、メンバーも安心安全だと意見があり、DMさせて頂きました。 

 美鶴に関しましてはブラッディポン酢様への配慮のため不参加を希望していますので、私、最上が同行させて頂きます。Phantomは美鶴と同じ程度の強さだったので、同行に問題はありません。


 お返事お待ちしております。 


 みら〜じゅ!公式 代表 最上


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ええええええええええ?! マジで?! 凛と桃の超高画質4Dで会えるってこと?」


 すっかりVtuberにハマりアタオカになっている俺は、舞い上がった。

 美鶴に関しては、正直ババアかもしれない。が、それでもいいと思い推していたが、実際に目の前にしても同じように愛せるかと言われると……自信がなかった。

 凛と桃は魂(中の人)も10代との噂がある。それに配慮をせずとも会えると公式が判断してるということは、ルックスに自信があるんだろう。

 俺は2人なら夢は壊れないと思い、すぐに返事をした。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 みら〜じゅ!公式 最上様 

 いつもお世話になっております、ブラッディポン酢です。ニュース見ました。厚生労働省のHPまでは見ていませんでしたが、諸々事情把握しました。

 私にみら〜じゅ!のためにできることがあれば何でもおっしゃってください。美鶴に関しても、美鶴の判断に従います。


 ブラッディポン酢


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ブラッディポン酢なんてふざけた名前で始めたことを後悔していると、すぐに返事が来て、喫茶店での打ち合わせ場所が送られてきた。代々木のスターボックスだ。映画、お天気の子の廃ビル神社のモデルになった場所のすぐ近くだった。

 俺はシャワーを浴びながら、みら〜じゅ!のオリジナルソングを口ずさみ髭を剃った。入念に歯を磨き、念のためリステリンの紫で口をゆすぐ。 

 ここ最近ゲームばかりの運動不足がたたり、肥満気味なのが悔やまれる。風俗は運動だ。

 髪形を整え、風俗嬢が勧めてくれていたグッチの香水を久しぶりにふりかけ、風俗嬢がすすめてくれた無難なブランドZALAで揃えた白いシャツにジャケットを羽織り、家を出た。 


 マンションのエレベーターを降り、公園を一目見ようと立ち寄ったが、すでに封鎖されていた。


「でけー」


 下から見ると迫力が凄い。マンションを越える高さをしている。

 Phantomには掘り進むタイプのダンジョンや、洞窟タイプのものもあるはずなので、もしかすると塔タイプ以外にも色々見つかるかもしれない。


 こんなに緊張するのは、初めて風俗に入った時以来だろうか。

 というかさっきから思い出が風俗しかない俺、哀れすぎない? 


 Phantomに関するネットニュースを見ながら山手線に揺られていると、あっという間に代々木についた。

 街は塔が聳え立っても、内閣総理大臣が緊急記者会見を開いても、変わらずに人で溢れていた。


 そして、例のビルは塔にかわり聳え立っていた。15階以上あるだろう。

 人が居ない場所に発生したり、使われていない建物が塔に変わる傾向があるらしい。


 そろそろ着きます、とメッセージと共に、自分の服装を写真で送っておいた。 

 スターボックスに入りホットコーヒーのgrandeを注文する。 

 この空間のどこかに、凛と桃が、と思うと緊張で手汗が溢れてきた。

 ダンボールタイプの厚紙にシミが出来ないか心配しながら振り返ると、凛と桃が立っていた。


「うわあ!!」


「やはりブラポンさんでしたか。来てくれてありがとうございます、凛です」


「ブラポンっち声おっきいよウケる。ほらこっち」


「え、え?!」


 はあ?! 

 Vtuberって立ち絵と魂(中の人・外見)が違うんじゃないのか?!

 細かな髪型や服装などは違いがあるとしても、そこにいる2人は完全にイラストと同じ見た目をしていた。

 凛はスラッと背が高く170cmはありそうだ。白いワンピースを来ていて、実際に目の前でみるとアイドルというより女優のようだ。

 桃は160cm前後で、スタイルがとても良い。インナーカラーがなくなっているが、いかにもギャルな私服姿だ。

 桃に腕を引っ張られて席に誘導されると、背の低い、くたびれたスーツを着た白髪混じりのおじさんが立っていた。


「ブラッディポン酢様、お越しいただきありがとうございます。代表兼マネージャーの最上です。どうぞ奥へ」


 声が高めの中性的な顔つきのおじさんが名乗った。この人がDMをくれた最上さんか。桃と凛よりも断然背が低い。140cm後半だろうか。

 促されるまま奥の席に座ると、桃が俺の隣に座った。こころなしか距離が近い。あとめっちゃジロジロ見てくる。

 凛は最上さんの隣に座った。


「ブラッディポン……二鷹世界と申します。適当な名前で始めてしまいまして、すみません。世界と呼んでください」


「よろ〜。てか世界っち思ってたよりカッコいいぢゃん。背高いし清潔感あるし! 180cm以上あるでしょ、もっとチー牛が来ると思ってたのにイジリ甲斐がない〜」


 風俗行っててよかった。ありがとう未来ちゃん。


「こら、失礼ですよ桃ちゃん」


「なんでよ、褒めてんだわこちとら笑」


 俺は目の前で本当に動いている凛と桃に驚きすぎて喋ることは出来ず、ただ冷や汗をかいて愛想笑いをしていた。


「世界っち黙っちゃって、どちたの? 聞きたいことがあるんぢゃない?」


 桃が俺の頬をつついた。スパチャ投げたい。


「あ、あの。お二人はどうして見た目がVと同じなんですか?」


 すると3人は目を丸くして見合わせた。桃が吹き出すと、凛も口をおさえて笑った。


「聞くところそこ?! 世界っちウケすぎ謙信笑笑」


 バシバシと笑いながら桃に肩を叩かれる。肩甲骨が砕けるまでして欲しい。


「元々桃さんと凛さんは実写で活動するアイドルユニットだったんです。ですが、そちらでは私の実力不足で借金だけ作ってしまいまして。心機一転、Vtuberに転生する時に2人の写真を送ってイラストにして頂いた次第です」


 最上さんが丁寧に説明してくれた。

 説明された上でも、目の前で桃と凛がヌルヌルと超高画質で動いていることには慣れなかった。


「じゃあ、美鶴は」


「世界っち、美鶴っちのこと好きすぎぃ。ねえ、あーしのこともちょっとは見てよ」


 腕を掴み、揺らしてきた。肘に桃の張りのある胸があたり、俺は目を合わせることが出来ない。


「……み、みちゅるは」


 最上さんが急に慌てて噛み始めた。 


「す、すみません! 言いたくないこともありますよね。大丈夫です、Vtuberの美鶴を推しているので、秘密は秘密のままで」


「……申し訳ありません」


 深々と頭を下げるとつむじの辺りが少し禿げていた。ストレスやばいんだろうな、借金もさっきの話だと地下アイドル時代に衣装やPV、MVでかかって爆損した後に、3人を大手イラストレーターとモデレーターに発注してオリジナル曲もあり、機材も揃えたとなると、少なくとも500万近く抱えてそうだ。 


「美鶴ちゃんは後から入ったんです」


 凛が涼しげに言った。サラサラの黒髪が光を反射している。


「そうなんだ。あ、凛は現実だと語尾なのですじゃないんだね」


「つ、つけた方が世界さんは嬉しいですか?」


 凛は陶器のような白い肌を恥じらいから赤く染め、上目遣いでモジモジしていた。

 んんんんんんんん!! 

 クレカ上限スパチャしたい!!!!

 それにさっきから本名で呼ばれるとトュンクが止まらない!!


「嬉しいとは言えないっしょ、キモすぎて」


 桃が笑った。そうなんだ、キモすぎるんだ、危ない言うところだった。素人童貞だった俺も立派なキモオタになったものだ。いやそもそも素人童貞の時点でキモいのか?


「では、本当に参加頂けるということで宜しいでしょうか?」


「はい、それは勿論です」


「ありがとー世界っち!」


「頼りにしてます」


 桃と凛が俺の手をとった。や、やわらけー。握手会とかに通う現実のオタク達の気持ちが今ならよくわかる。


「ありがとうございます! では早速ですが、現地に赴きましょう」


        ☆☆☆

 ご愛読ありがとうございます!

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