エピローグ
1
宇和島は、連続殺人が被疑者死亡で送致されるという報告を自宅で受けて、ベッドの上に大の字になった。まるで竜巻に襲われた街の真っ只中に佇むような感覚だった。今回の事件で残された爪痕はあまりにも大きなものだ。
宇和島の脳裏に、小型護送車のスライドドアがゆっくりと開いたあの瞬間が蘇る。血まみれになった寺田が放心状態で姿を現した。その手には刀身が赤黒くなったナイフが握られていて、それがズルリと地面に落ちていった。
「俺、やったよ……。あのゴミを片付けた……」
寺田はそう言って鶴巻と宇和島を見つめた。そばの瀬古が彼を後ろ手に取り押さえる。刑事たちが車の中を覗き込んで、絶望の表情を浮かべる。辺りに血の臭いが漂い始めてから、宇和島の記憶はない。
宇和島は寺田が頼みごとをしてきた時のことを思い返していた。
***
寺田は、宇和島に頼みごとをしてから、釘を刺すように言った。
「データで渡すなよ」
寺田はそう言っていた。
「え、なんでですか?」
「データは記録に残るだろ」
「残っちゃダメなんすか?」
「そういうことじゃない。だが、後で変な気を遣わせないために内緒でやることが必要な時もあるんだよ」
宇和島は釈然としないながらも、渋々うなずいた。
「じゃあ、紙に出して渡しますよ」
「頼んだぞ」
寺田はそう言って部屋を出て行った。宇和島は寺田がさっき言ったことを反芻していた。
「時間があったら調べておいてほしいことがある」
「なんすか……?」
寺田はより一層声を潜めた。
「仙堂さんと金蘭倶楽部のメンバーとの関係性を詳しく知りたい」
「え、なんでですか?」
「そのうち理由は分かる」
寺田はそう言い残して行ってしまった。
***
宇和島は後悔の念を紛らわすようにベッドの上で頭を掻き毟った。吉野に殺された被害者たちは、その行動から何かやましいことを抱えていたことは明らかだ。そのやましさがどこからやって来たのか、宇和島には分からなかった。だが、寺田は、そのやましさが金蘭倶楽部の面々と仙堂との間からやって来ていると推測していたのかもしれない。吉野は仙堂についてよく知っていた。仙堂と金蘭倶楽部の面々との関係性を利用したことは容易に想像ができる。
もし、自分の調査がもっと早くできていれば……。自分がこの状況を未然に防げたのかもしれないと思う度に、宇和島は自分の無力さに押し潰されそうになるのだ。
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